福井県教育委員会特別支援教育センター
⬇️「読み」や「書き」に困難がある児童生徒に対するアセスメント・指導・支援パッケージ⬇️
医学分野における発達障害の分類/世界的によく用いられるDSMの分類
DSN-5(精神疾患の分類と診断の手引き)/アメリカ精神医学会
神経発達症群
知的能力障害群
コミュニケーション症群:言語症(聞く、話す)、他
自閉スペクトラム症
注意欠如・多動症
限局性学習症:読字の障害を伴う(読み書き障害、ディスレクシア)
書字表出の障害を伴う(書字障害、ディスグラフィア)
算数の障害を伴う(ディスカリキュア)
運動症群:発達性強調運動症、他
他の神経発達症群
読み書き障害(ディスレクシア)について基本知識
読み書き障害について、国際ディスレクシア協会(International Dyslexia Association,2003)の定義
ディスレクシアは,神経生物学的原因に起因する特異的学習障害である。それは,正確かつ流暢な語の認識の困難さと綴りや文字記号の音韻化(decoding)の障害により特 徴づけられる。これらの困難さは,典型的には言語の音韻的要素の困難さであり,それは他の認知能力や教育環境に障害がないのにもかかわらず存在する。二次的結果として, 読解能力の低下や読み経験の不足が生じ,語彙や知識の増加が障害される。
「読み」のプロセスは、文字を音に変換(デコーディング)し、その音から内容を理解することです。読み書き障害の主な課題は、このデコーディングの困難にあります。デコーディングができない、または時間がかかりすぎると、読むのが遅く(逐次読み)なり、流暢性も低下し、結果として文章全体の理解が難しくなります。
年齢別の主な症状
就学前: 文字への関心が薄い、言葉を正確に言えない、逆から言えないなど、音韻意識の弱さが見られます。
小学生以降: 単語の発音ミス、固有名詞を言えない、逐次読み、音読を嫌がるなど。高学年では正確さは向上しても、読むのに時間がかかります。
思春期〜成人期: 人名・地名の記憶が苦手、流暢に読めない、読む時間が向上しても流暢性はなかなか向上しない、試験時間が足りないといった症状が現れます。特に中学以降は英語の学習で極端な困難を抱えるケースが多く、進学に影響することもあります。
読み書き障害(ディスレクシア)に対する支援の考え方
読みき障害に対する支援は、早期発見・早期介入と将来を見据えた支援計画が基本です。
初期段階(幼児期後期)では、音韻認識を高める「しりとり遊び」や「逆さ言葉」など音韻意識を高める訓練が有効です。就学前や入学後では、文字と音の対応指導が効果的で、T式はiPadのアプリで訓練できます。語彙力を高めることもトップダウ処理による読みの向上につながります。
入学後の学習面で、音読が難しく、また、読んでも読解できない場合は、聴覚活用で教科書の内容を理解させるべきです。代読してあげたり、ICT機器を活用して読み上げソフトで聞かせてあげる必要があります。書字の困難が顕著であれば、これが勉強嫌いにつながるため、ICT機器の活用による、板書の撮影や音声入力やキーボード入力による適す津作成を強く推奨しまず。
このような代替方法は、障害を持つ者にとって魔法の方法であり、合理的配慮として提供させるべきものです。
また、ADHD・ASDなど併存する障害への対応も重要です。
自尊感情が低下して、授業嫌い、登校しぶりなどにつながったら、またはつながらないように、SCなどを活用して個別カウンセリングの検討もよいでしょう。家族、保育園、幼稚園、学校を中心に保健、医療、福祉などとの携した周囲の協力が必要です。
学習障害を持つ子どもたちは、小学校・中学校を乗り越え、自分に合った高校を選ぶことで、高校生活が大きく変わることがあります。高等進学を目指す場合は、多様な学び方を尊重する行う学校を選ぶことが自立への道となります。
将来の自立には、障害に合った職業選択が鍵となります。ここでも本人の努力に加え、家族、学校、保健、医療、福祉、就労などの連携した周囲のサポートが不可欠です。
書字障害(ディスグラフィア)について基本知識
「書字」の困難
書字障害は、学習障害の一種で、書くことに困難を抱える状態を指します。文字を正確に書く、文字を整然と配置する、思考を文章として構成するといったプロセスに困難が見られます。
文字の形成や運筆の困難(運動性ディスグラフィア):
文字の形が崩れる、筆圧が強すぎる・弱すぎる。
書く速度が極端に遅い。
枠からはみ出す、行がずれるなど、文字の配置が不安定。
手指の細かい運動が苦手(例:箸の持ち方、ボタンの操作が不器用)。
文章構成の困難:
思考を整理して文章にするのが難しい。
語彙や表現が乏しくなる。
文と文のつながりが不明瞭になる。
「書字」の理解
文字を書くことに著しい困難な背景には、主に視覚認知力の弱さがあ場合が多いです。これにより、文字の形や空間的な配置を正確に捉えることが難しく、文字を覚えたり、マスの中にバランスよく書いたりする上でつまづきが生じます。また、短期記憶の問題も大きく影響します。書くべき内容や文字の形を一時的に記憶するワーキングメモリが弱いと、黒板の文字を写したり、文章を構成しながら書き進めたりする際に困難を伴います。さらに、文字を書くという行為に必要なプランニング、すなわち「どのように手を動かせば文字が書けるか」という計画を立てる能力の弱さも指摘されます。このため、文字を滑らかに書けなかったり、筆圧の調整が難しかったりします。
直接的な原因ではありませんが、多動性をを伴う場合は、集中して文字を書く作業そのものに取り組むことが一層難しくなり、書き急ぎによる誤字脱字が増えるといった影響が出ることがあります。
また、協調運動の問題として、指や手の微細運動、空間把握に問題がある場合、鉛筆をうまく握れなかったり、文字のバランスが取れなかったり、行をまっすぐに書けなかったり、筆圧が弱かったりすることがあります。これらの複数の認知機能の弱さが複雑に絡み合い、文字を書くことの困難さとして現れるのが書字障害であると考えられています。
年齢別の主な症状
就学前:
鉛筆やクレヨンをうまく持てない。
線を引く、丸を描くなどの模倣が苦手。
自分の名前など、簡単な文字の模写や書字を嫌がる。
小学生以降:
板書を写すのが極端に遅い、または写せない。
ノートのマス目からはみ出す、字の大きさが不揃い。
テストで解答欄を埋めるのに時間がかかりすぎる。
文章作成に時間がかかり、内容が乏しい。
漢字の書き取りが苦手。
書字課題を嫌がる、宿題に時間がかかりすぎる。
思春期〜成人期:
ノートを取るのが追いつかない。
レポートや論文作成に膨大な時間を要する。
手書きの書類作成を嫌がる。
筆記試験で時間が足りない。
文字を書くことが苦痛で、学習や就労に影響する。
書字障害への支援は、早期発見・早期介入と将来を見据えた支援計画が基本です。初期段階(幼児期後期)では、手先の巧緻性を高める遊びや、運筆練習が有効です。学齢期に入ってからは、以下のような具体的な指導や配慮が効果的です。
運動面へのアプローチ:
正しい筆記具の持ち方や姿勢の指導。
持ちやすい太さや形状の筆記具、書字補助具の活用。
手指の協調運動を促すトレーニング。
視覚・空間認知へのアプローチ:
文字の書き順や形を視覚的に示す教材の使用。
マス目や罫線が強調されたノートの使用。
代替手段の活用(合理的配慮の核):
ICT機器の活用:キーボード入力、音声入力ソフトウェア、デジタルペンタブレットなど。これにより、書字の負担を軽減し、思考を表現することに集中できます。
板書を写真に撮る、先生が作成したプリントを活用する。
口頭発表や録音、写真、図など、書字以外の方法でのアウトプットを認める。
試験時間の延長や別室受験、PC入力での解答を許可する。
学習への配慮:
課題の量を調整し、達成感を積み重ねる。
書字だけでなく、口頭試問や作品制作など多様な方法で評価を行う。
スペルミスや文字の形の誤りによる減点を考慮する。
心理面への配慮:
書くことの困難からくる「勉強嫌い」や「自尊感情の低下」を防ぐため、成功体験を積ませ、肯定的な声かけを行う。
必要に応じて、スクールカウンセラーなど専門家による個別カウンセリングの検討も重要です。
書字障害を持つ方への支援は、学校、家庭だけでなく、保健、医療、福祉、就労支援など多岐にわたる機関との連携が不可欠です。
学校での連携: 担任教師、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなどが連携し、個別の教育支援計画を作成し、合理的配慮を提供することが義務付けられています。
家庭でのサポート: 学校と情報共有し、家庭でもICT機器の活用や、文字練習を楽しく継続できるような工夫を取り入れます。成果を焦らず、温かく見守り、努力を褒めることが大切です。
将来を見据えた支援:
高校、大学、専門学校など、多様な学び方や評価方法を尊重する進学先を選ぶことで、自立への道が開けます。
将来の職業選択においては、書字の困難に左右されず、本人の特性や強みを活かせる職業を選ぶことが、社会的な自立において最も重要となります。