合理的配慮とは、障害のある人が、障害のない人と平等に人権を享受し、社会参加できるよう、個別の状況やニーズに合わせて行われる、必要かつ適切な調整や変更のことです。
目的: 障害のある人が、教育、就労、公共サービスの利用など、様々な場面で直面する「社会的障壁」を取り除くことを目的としています。この社会的障壁とは、制度、慣行、意識、情報伝達、建物設備など、障害のある人にとって社会生活を送る上で障げとなるものです。
個別性: 合理的配慮は、画一的なものではなく、障害の種類や程度、個人のニーズ、置かれている状況などに応じて、一つひとつ検討され、提供されます。
双方向のプロセス: 合理的配慮の提供は、障害のある人からの意思表明に基づいて行われることが原則です。そのため、提供する側(学校、企業、行政機関など)と、配慮を必要とする人との間で、対話や協議を通じて、どのような配慮が適切であるかを検討するプロセスが重要になります。
過度な負担の禁止: 合理的配慮は、提供する側に「過度な負担」を課さない範囲で行われる必要があります。過度な負担かどうかは、事業の規模や財政状況、配慮の内容などを総合的に考慮して判断されます。
合理的配慮は、障害のある人が社会の中で平等に参加するために不可欠なものであり、障害者差別解消法の重要な柱の一つとなっています。
障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)
この法律は、障害を理由とする差別の解消を推進し、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目的としています。
第4条において、行政機関や事業者は、障害者から現にある社会的障壁の除去を求める意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、当該障害者の権利利益を侵害することとならないよう、合理的配慮を提供しなければならないと定めています。
授業・学習における配慮:
音声教材の利用: 教科書や配布資料の音声版を利用することで、文字を読む負担を軽減します。
テキスト読み上げソフトウェア: デジタル化された教材を音声で読み上げるソフトウェアを使用し、読字の困難さを補います。
読みやすいフォントやレイアウト: OpenDyslexicなどのディスレクシアに配慮したフォントや、行間・文字間を広く取った教材を使用します。
色付きフィルターやオーバーレイ: 特定の色付きシートやメガネを使用することで、文字のコントラストを調整し、読みやすさを向上させることがあります。
板書支援: 板書を写真に撮る、先生が書いたものをデータで提供してもらうなど、書字の負担を軽減します。
ノートテイク支援: 他の生徒のノートを共有したり、先生が作成したプリントを活用したりします。
デジタル教科書・教材の活用: 文字サイズの変更、読み上げ機能、辞書機能などが利用できるデジタル教材を活用します。
課題の調整: 課題の量を減らしたり、口頭発表や作品制作など、読み書き以外の方法で評価を受けられるように配慮します。
提出方法の多様化: レポートをパソコンで作成したり、口頭で発表したりするなど、書字以外の方法での提出を認めます。
試験時間の延長: 試験問題を読むのに時間がかかる場合、試験時間を延長します。
別室受験: 周りの音や動きに気を取られやすい生徒のために、静かな別室で受験できるようにします。
問題用紙の工夫: 文字を大きくしたり、行間を広げたり、ルビを振ったりするなど、読みやすいように問題用紙を調整します。
ICT機器の活用: タブレットやパソコンなどのICT機器の利用を許可し、文字入力や情報収集を支援します。
試験・評価における配慮:
読み上げ支援: 試験問題や解答用紙の読み上げを行います。
口頭試問: 筆記による解答が難しい場合、口頭での回答を認めます。
パソコン入力: 手書きが困難な場合、パソコンでの解答を許可します。
環境における配慮:
座席の配慮: 黒板や先生の近くなど、見やすい席に配慮します。
休憩時間の確保: 読むことに疲れやすい生徒のために、適度な休憩時間を設けます。
これらの合理的配慮は、個々の生徒の困難さに合わせて、学校と家庭が連携して提供されることが重要です。また、これらの配慮は、障害者差別解消法に基づいて、学校には提供する義務があります。
学校での合理的配慮:
筆記具の工夫:
持ちやすい太さや形状のペンや鉛筆を使用する。
滑り止めがついた筆記具を使用する。
軽い力で書ける筆記具を使用する。
書字補助具の活用:
筆圧を調整するグリップを使用する。
指の位置をガイドする補助具を使用する。
書くことの代替手段の提供:
口頭発表: 筆記によるレポートの代わりに、口頭で発表する機会を与える。
キーボード入力: レポートや課題の作成にパソコンやタブレットを使用することを許可する。
音声入力ソフトウェア: 話した言葉をテキストに変換するソフトウェアの使用を許可する。
録音: 授業中のメモや質疑応答を録音することを許可する。
視覚的な支援:
文字の書き順や形を視覚的に示す教材を使用する。
線や枠線が入ったノートや用紙を使用し、文字の大きさを揃えやすくする。
漢字の成り立ちや意味を視覚的に理解できる教材を使用する。
時間的な配慮:
板書や書き取り、テストなどの際に、通常よりも時間を延長する。
課題の量を調整する。
評価方法の多様化:
筆記によるテストだけでなく、口頭試問や作品制作など、他の方法で学習成果を評価する。
スペルミスや文字の形の誤りによる減点を考慮する。
ノートテイク支援:
先生が用意したプリントや資料を活用する。
友達にノートを写させてもらう、または共有してもらう。
授業内容を録音して後で聞き返すことを許可する。
環境調整:
集中しやすい静かな場所で課題に取り組めるように配慮する。
個別指導:
書字の専門家や特別支援教育の教員による個別指導や支援を受ける。
家庭での合理的配慮:
書字練習の工夫:
指でなぞる、空中に書く、砂に書くなど、様々な感覚を使った練習を取り入れる。
短時間で集中できる練習を取り入れる。
成功体験を積み重ねられるように、簡単なことから始める。
興味のあるテーマで書く機会を作る(日記、手紙など)。
ICT機器の活用:
家庭学習でもパソコンやタブレットの使用を許可する。
音声入力ソフトウェアを活用する。
書字練習用のアプリやソフトウェアを利用する。
視覚的な支援:
アルファベットやひらがな、漢字のポスターを貼る。
書き順をイラストや動画で示す。
マス目や罫線入りのノートを使用する。
日常生活での工夫:
メモや伝言は口頭でする。
写真やイラストを活用したコミュニケーションを取り入れる。
タイピングの練習を取り入れる。
肯定的な環境:
書けないことを責めずに、努力や進歩を褒める。
スモールステップで目標を設定し、達成感を味わえるようにする。
焦らず、ゆっくりと取り組む姿勢を поддерживать.
学校との連携:
学校での合理的配慮の内容を共有し、家庭でもできることを協力して行う。
定期的に学校と情報交換を行い、困っていることや工夫していることを共有する。
書字障害のあるお子さんへの支援は、学校と家庭が連携し、お子さんの特性やニーズに合わせた個別の配慮を提供することが重要です。様々な方法を試しながら、そのお子さんに合った効果的な手段を見つけていくことが大切です。