これまでのセミナー (2015年度)

第1回(2015年4月25日(土) 10:00--17:30)

"One-day workshop on isomonodromic deformations"

講師1: 川上 拓志 氏 [青山学院大学] 10:00-12:00

題目1: 分岐型線型方程式に付随する4次元Painlevé型方程式

概要1: 東京大学の坂井氏,中村氏との共同研究において,アクセサリーパラメータを4つ持つ線型方程式の特異点を合流させることにより4次元Painlevé型方程式の退化図式を得た.しかし,Painlevé方程式の場合にそうであったように,4次元Painlevé型方程式においても,分岐型不確定特異点を持つ線型方程式を考えなければ,完全な退化図式は得られない.この講演では,線型方程式の不確定特異点の周りの標準形及びその標準形の退化について説明し,それにより退化図式がどのように拡張されるか説明する.

講師2: 中村 あかね 氏 [東京大学] 13:30-17:30

題目2: 4次元パンルヴェ型方程式の自励極限

概要2: パンルヴェ型方程式の等スペクトラル極限として可積分系が得られるが、これらの系の特徴を捉えるためにスペクトラル曲線のファイブレーションを用いる。8種類の2次元自励パンルヴェ方程式のHamiltonian HVI~HIに対するスペクトラル曲線ファイブレーションとして楕円曲面が得られるが、これらの曲面に現れる特異ファイバーのDynkin型はD4,D5,D7,D8,E6,E7,E8である。40種類の4次元パンルヴェ型方程式の自励極限として得られる可積分系に対して、スペクトラル曲線ファイブレーションを具体的に構成し、現れる特異ファイバーの浪川-上野型について述べる。たとえば自励4次元行列パンルヴェ方程式に対するスペクトラル曲線ファイブレーションの特異ファイバーとして、対応する2次元系の特異ファイバーに楕円曲線が1本付け加わったものが現れる。)

第2回(2015年5月13日(水) 16:40--18:10)

講師: 伊東恵一 氏 [立教大学]

題目: ミレニアム問題と繰りこみ群

概要: クレイ研究所のミレニアム問題の (i) ナヴィエ・ストークス方程式の解の存在, (ii) 4次元YM場の構成, は数理物理学の Central Problems であるが, その解法は誰も知らない. これらは高度に非線形であり, 摂動項は各エネルギーレベルが絡み合い急速に増え, 係数が発散する困難に直面する. 現在のところこれを処理できる唯一の方法は繰りこみ群と言われる「マルチ・スケール汎関数積分法」であろう. これは一種の非線形漸化式の形をとるが、まずそれを単純化した「階層近似模型」といわれる Toy Model を解説し, 現在講演者が研究している YM場の簡略版である, といっても未解決であるが, 2次元シグマ模型の質量生成の証明について議論する. 時間があればYM についても触れる予定である.

第3回(2015年5月20日(水) 16:40--18:10)

講師: 香取眞理 氏 [中央大学]

題目: Determinantal martingales and determinantal processes

概要: Dyson's Brownian motion (BM) model with $\beta=2$ (the GUE type) was originally introduced as an eigenvalue process of Hermitian-matrix-valued BM in random matrix theory. In probability theory, it is constructed as Doob's harmonic transform of absorbing BM in a Weyl chamber and realized as a system of noncolliding BMs in one-dimension. In mathematical physics, it provides a typical example of solvable stochastic model in the sense that all spatio-temporalcorrelation functions can be expressed by determinants and all of them are controlled by a single function called the correlation kernel. The purpose of the present talk is to clarify the direct connection between the harmonic transform and the determinantal solvability by introducing a notion of determinantal martingales. As an application, we discuss the trigonometric- and elliptic-functional extensions and some discretization of Dyson's BM model with $\beta=2$. In general, martingales are stochastic processes representing fluctuations. The present work will imply a new point of view in statistical mechanics to study relationship between fluctuations and correlations in nonequilibrium interacting particle systems.

第4回(2015年6月5日(金) 16:40--18:10)

講師: 渋川元樹 氏 [大坂大学]

題目: 多変数Meixner, Charlier, Krawtchouk多項式

概要: 離散型の直交多項式系の代表例である, Meixner, Charlier,Krawtchouk多項式に関してはq-類似, 有限体類似, Hahn, Racah多項式(一般超幾何多項式)への拡張, 多変数類似等の様々な拡張が知られている.

本講演では古典的なMeixner多項式他の復習からはじめ, 特に, 非負整数上の離散和で直交関係式が定まるMeixner多項式と, 積分で直交関係式が定まる連続型の直交多項式系の代表例であLaguerre多項式との間の母函数を用いた対応を与える. この事実は一変数の場合においても知られていなかったが, 本講演では更にこの対応を対称錐上の調和解析を用いて多変数化する. より具体的には, 従来知られていた青本-Gelfand型の超幾何函数で表示される多変数化とは異なる, 一般(Jack)二項係数を用いたMeixner多項式他の多変数類似を構成し, Faraut-Koranyiらにより導入された多変数Laguerre多項式との, 母函数を用いた対応を与える.

この結果と多変数Laguerre多項式に関する既知の結果とを併せることで, 多変数Meixner多項式他の母函数, 直交性, 差分方程式といった基本的性質を導出する.

また時間があれば, 行列式表示や, 多変数Meixner多項式他に関連するいくつかの予想や展開についても述べたい.

第5回(2015年6月17日(水) 16:40--18:10)

講師: 藤井啓祐 氏 [京都大学]

題目: 量子情報と物理との接点

概要: 近年、エンタングルメントなど量子情報分野で用いられている概念を用いて多体量子系の特徴付けが盛んに行われている。また、量子情報を雑音から保護するために開発された量子誤り訂正符号が、トポロジカル秩序を示す量子多体系の可解模型として利用され、その一般的な性質に関する議論が展開されている。一方で、古典スピングラス理論に代表される統計力学の知見に基づいて量子誤り訂正符号の雑音耐性が議論されている。本セミナーでは、これら対応の背景にある量子情報の基本知識を解説し、量子情報と物理分野との接点を探る。関連した最近の研究に関しても紹介する。

第6回(2015年7月1日(水) 16:40--18:10)

講師: 大久保勇輔 氏 [名古屋大学]

題目: 5次元版(q-変形版)AGT予想とその結晶化

概要: AGT予想とは2次元共形場理論のVirasoro共形ブロックと4次元SU(2)ゲージ理論のNekrasov公式が一致するという予想である。また、この両者の理論をq-変形したもの同士、つまり変形Virasoro代数(やDing-Iohara代数)と5次元ゲージ理論との間にも対応(5次元版AGT予想)があることが知られている。これらの予想には未だ完全な証明は与えられていないが、Macdonald多項式という直交多項式が5次元版AGT予想を解析する1つの重要な道具となっている。例えば共形ブロックを計算する際に、その計算結果を組合せ論的に明示的に表すことができる良い基底がAGT予想によって示唆されているのだが、5次元版AGT予想ではその良い基底が一般化されたMacdonald多項式によって表せることが知られている。

ところで、Macdonald多項式はJack多項式とHall-Littlewood多項式という直交多項式を内包している。Jack多項式への退化と同じ退化を5次元版AGT予想に施したものが4次元AGT予想であるが、Hall-Littlewood多項式への退化と同じ退化極限を施した場合をその結晶化と呼ぶ。(変形パラメータqのq=0極限を見ていることから、量子群の結晶基底に準えて。)この結晶化された場合では物事は簡単化され、様々な予想が証明可能になる。

本講演ではAGT予想の外観から始めて、そのq変形と一般化Macdonald多項式について説明し、さらにその結晶化についても紹介する。

第7回(2015年7月15日(水) 16:40--18:10)

講師: 風間洋一 氏 [立教大学]

題目: 可積分性を用いたAdS/CFTのダイナミカルな理解への挑戦

概要: AdS/CFTが提唱されてからすでに18年になろうとしているが、依然としてその強/弱双対性を特徴としたダイナミカルなメカニズムは明らかにされていない。この講演では、AdS/CFTの例の中でも最も基本的である、 AdS5 x S5 時空中の弦理論と4次元のN=4の極大超対称性を持った4次元超対称ヤン・ミルズ理論の対応に焦点をあて、ヤン・ミルズ理論のゲージ不変なnon-BPS複合演算子とそれに対応する弦理論の頂点演算子の3点関数に対する双対性の検証とその理解の概要を、可積分性を最大限利用した最近の我々の仕事に沿って解説する。

第8回(2015年9月30日(水) 16:40--18:10)

講師: 西岡 辰磨 氏 [東京大学]

題目: エンタングルメントと繰り込み群

概要: 繰り込み群は量子場の理論がエネルギーの変化とともにどのように変化するのかを記述する重要な手法である。場の理論の ``有効自由度” はエネルギーの減少と共に単調減少すると期待されているが、そのような .``有効自由度”が任意の場の理論に対して定義できるかどうかは未だ明らかではない。近年、場の理論の真空のもつれを測る指標であるエンタングルメントエントロピーを用いることで 2次元と 3次元では繰り込み群の下で単調減少する関数が構成できることが分かってきた。本講演ではこの構成法を紹介と問題点について述べる。

第9回(2015年10月15日(木) 16:40--18:10)

講師: 岩尾 慎介 氏 [青山学院大学]

題目: Kostant-Toda 階層, Totally nonnegative matrix と特異曲線

概要: Totally nonnegative matrix とは, その全ての小行列式が非負となる正方行列のことである.

Totally nonnegative matrix 全体のなす集合上には, 行列の分解を経由してある種の離散力学系が定義されるが,これは, 古典可積分系として知られているKostant-Toda階層の特別な場合となっている.

本講演では, 以下の2点について解説する.

1. 特異曲線を用いた(非周期的)Kostant-Toda階層の解の構成.

2. Kostant-Toda階層のtotally nonnegative part の, 特異ピカール群を用いた特徴づけ.

本講演の内容は, 西山亨氏(青山学院大学), 小川竜氏(東海大学)との共同研究である.

第10回(2015年10月21日(水) 16:40--18:10)

講師: 松枝 宏明 氏 [仙台高専]

題目: 情報幾何学的手法を用いたゲージ重力対応の研究

概要: AdS/CFT対応やホログラフィー原理を量子情報の視点から理解しようという試みが盛んに研究されている.笠・高柳公式やエンタングルメントくりこみ群はその有用な例である.一方,情報幾何学の方法も最近注目され始めてきている.とりわけ,量子系の部分密度行列から構成したFisher計量は,量子古典変換を直接表現しており,AdS/CFT対応をストリング理論とは異なる視点から眺める上で非常に有用であると期待される.本講演では量子データから古典的な幾何を構成する一般的方法とその情報理論的意味を紹介する.また空間1次元格子フェルミオン模型を例にとって,量子系のどのようなモデルパラメータが古典幾何の自然な座標に変換されるかを検討する.加えて最近興味が持たれているエンタングルメント熱力学の情報幾何学的再構成やアインシュタイン方程式の情報幾何学的導出についても述べる.

第11回(2015年11月11日(水) 16:40--18:10)

講師: 齋藤 洋介 氏 [大阪市大]

題目: 楕円 Ding-Iohara-Miki 代数と関連する話題

概要: 楕円 Ding-Iohara-Miki 代数は Ruijsenaars 作用素という q-差分作用素の自由場表示を通じて導入された楕円量子群の一種である. 本講演では, 楕円 Ding-Iohara-Miki 代数が導入される様子や関連する話題, Ding-Iohara-Miki 代数の modular double の表現に関する予想について説明する.

第12回(2015年11月25日(水) 16:40--18:10)

講師: 北野 龍一郎 氏 [KEK]

題目: Strong CP problem and axion on the lattice

概要: In QCD, while the phase in the quark masses are physical through the axial anomaly, it must be extremely small to be consistent with the measurement of the electric dipole moment of the neutron. We review and discuss this mystery, called the strong CP problem, and present an approach from the lattice QCD. Especially, we discuss the temperature dependence of the topological property of QCD which has physical significance in the estimation of the QCD axion in the Universe.

第13回(2015年12月09日(水) 16:40--18:10)

講師: 千葉 逸人 氏 [九州大学]

題目: パンルヴェ方程式とweight系

概要: 微分方程式のweightとは、Newton図形から定まる自然数の組であり、方程式の不変量である。講演では、weightに付随するトーリック多様体を用いたパンルヴェ方程式の解析法について解説する。また逆に、与えられたweightで適切な条件を満たすものに対し、対応するパンルヴェ方程式を再構築する。特にいくつかの新しい4次元パンルヴェ方程式を紹介する。

第14回(2016年1月20日(水) 16:40--18:10)

講師: 疋田 泰章 氏 [立教大学]

題目: 高いスピンのゲージ理論とその超弦理論への応用

概要: 超弦理論には高いスピンの状態が数多く存在し、それらの状態の理解が弦の理論としての理解に不可欠である。特に高エネルギー極限では、高いスピンのゲージ対称性が現れ、その対称性を利用することで解析可能となると信じられている。最近ゲージ/重力対応を応用することで、高いスピンのゲージ理論と超弦理論との間の具体的な対応関係が議論できるようになってきた。本講演では、これらの発展の解説を行うとともに、私たちの提案について紹介する。

臨時セミナー(2016年2月24日(水) 16:40--18:10)

講師: 秦泉寺 雅夫 氏 [北海道大学]

題目: Direct Proof of Mirror Theorem of Projective Hypersurfaces

概要: 現在においてはミラー定理はギベンタールによるI関数を用いた定式化と証明が一般的であるが、本講演では講演者による仮想構造定数を用いた、「複素射影空間内の超曲面のグロモフ-ウィッテン不変量に対するミラー定理」の証明を紹介する。(ただし、まだ論文は未発表である。)鍵となるのは、「コンチェビッチによる固定点定理を用いたグロモフ-ウィッテン不変量の計算結果」を留数積分の形に翻訳するテクニックと、講演者によるミラー写像とB模型の相関関数の展開係数の留数積分表示である。この二つを組み合わせると、ミラー定理は単なる被積分有理関数の組合せ論的恒等式に帰着される。難しい点は、コンチェビッチの計算結果を留数積分表示する際に、対角的寄与というものを取り除く必要がある事であり、この点をどう切り抜けるかについても解説したい。