人工アメーバ運動

陽イオン性の界面活性剤を含む水相上に脂肪酸を含む油滴を浮かべると,生体材料を一切含まないにもかかわらず油水界面が自発的に変形します.この変形に伴い油水界面で界面活性剤のゲル状の会合体が生成されます.自発運動のエネルギー源は,油滴内部の脂肪酸が水相へと移動する化学ポテンシャルの利得分です.

運動機構は次のように考えられます.弾性をもつ会合体が次々と界面近傍で生じることで,油滴の内部の圧力が上昇すると考えられます.しかしながら,この圧力上昇がある閾値を越えて高まると,会合体が壊れてしまうことで界面の変形を誘起することとなります.この予想に基づくと界面の変形は円弧状・あるいは球状となることが言えます.具体的な変形の様子は以下のようになります.

油滴のアメーバ状運動 10倍速の動画

この様に変形の特徴としては,界面に円形(3次元的には球形)の変形が生じることと,変形が素早く引っ込むことにあります.この様な特徴をより強く示しているのは以下の動画です

油滴の自発的ボコボコ運動 6倍速の動画

この様な会合体生成過程が誘起するマクロな界面運動は,私たちにより初めて発見されたものです.また,実際の細胞を考えると,その運動の一つの駆動力として,アクトミオシンゲルの生成・崩壊過程が含まれていることから,この液滴の運動は細胞運動の物理化学的な側面を捉えるための簡易なモデル系となる可能性を秘めています.

詳しくは

Phys. Rev. E 76, 055202 (2007), J. Phys. Chem. B 113, 15709-15714 (2009), Soft Matter 7, 3204-3212 (2011), Langmuir 28,3378−3384 (2012).をご参照ください.