界面張力差による油滴の自発駆動

以下に油滴の運動の機構を模式的に表した図を示します,

水相としては1-5mM のStearyl Trymethyl Ammonium Chloride溶液を用いています,ここでStearyl Trymethyl Ammonium Chlorideとは一般的に用いられている逆性の界面活性剤で正の電荷を持っています.一方油滴としては,ヨウ化カリウムを飽和させ,3-10 mMのヨウ素を溶解させたニトロベンゼンを用いています.固体基板としてはガラス基板を用いています,ここでガラス基板は一般に中性では負の電荷を持っています.

この系ではガラスの表面が負の電荷を持つため,正の電荷を持つ界面活性剤がガラス表面に集合しガラスの表面を疎水性(水嫌い)にしてしまいます.このガラス表面を油滴が通過すると,油滴中のヨウ素とガラス界面上の界面活性剤が対をつくり油滴内部に取り込まれてしまいます.このため油滴の前は疎水性(水嫌い)であるのに油滴の通った後では親水性(水好き)になってしまいます.よって油滴は界面張力差によって駆動されてしますのです.

注目すべき点としては,水相中には界面活性剤が潤沢に含まれているためガラス表面に再び界面活性剤が集合し、表面が再び疎水性になってしまう点です.よって油滴が通過した後もガラス表面は疎水性が回復することとなり,油滴の軌跡が重なったり,適切な境界条件の下では油滴は規則的で反復的な運動を示します.

以下に幾つかの規則的な運動の動画とその実験設定についてしめします.

不規則に走り回る油滴

以下は実時間の動画です.ペトリ皿の直径は70 mm, 油滴のサイズは 30 μlです.

油滴の模式図は以下のようになっています,

油滴はふらふらと不規則に動き,ペトリ皿の壁にぶつかるとくっついてしまいます.

往復運動する油滴

以下は実時間の動画です.ガラス板の厚さは1mm,長さは26mm,幅は3.4mmで油滴のサイズは30μlです.

少し早すぎて見にくいかもしれませんので,実時間の半分の速度にしたものも以下にお見せします.

実験の模式図は下のようになっています.

坂を登る油滴

以下は実時間の半分の速度の動画です.ガラス板の厚さは1mm,油滴は20μlです.

油滴の比重は1.2程度と水よりも重いですが,それにもかかわらず油滴はぐいぐい登っていきます.

宙返りする油滴

以下は実時間の動画になります.リングの直径は25mm,油滴の体積は20μlです.

以下に実験設定を示します.

油滴の比重は1.2であり,比重が1.0の水相に比べて重たい状況です.にもかかわらず油滴は自発的に垂直の輪の中を回転します.

階段を登る油滴

以下は実時間の映像です.ガラスで作られた階段の一段の高さは1mm,油滴は30μlです.

このときの設定図を以下に示します

この時、油の比重は約1.2であり、周りにある水相に比べ重いのですが それにもかかわらず、油滴は自発的に階段を上ります

苦労する階段のぼり

以下は実時間の1/2の映像です.ガラスで作られた階段の一段の高さは1mm,油滴は60μlです.油滴が登れるぎりぎりなサイズのため四苦八苦して登ります