Sky And Dream ~空が青く見えるわけ~

ページ 1 あとがき

空、それはこの世界ならどこでも見ることができる気象のひとつだ。ただ、必ずしも昼は青色である必要はなく、実際地域によって色は違う。ある地域では真っ黄色であったり、ある地域では真っ黒であったりということだ。つまり、僕が言いたいのは……

「空って何だろう。」

こういうことを考えるのも「空」という存在があるからなのかもしれない。

どうしてこんな話になったのか、それは今日僕が起きるところまで遡る。日常は当たり前のことから始まり、当たり前のことをする。今日も当たり前のようにカーテンを開け、日光を浴びて眠気を覚まそうとした。しかし、目の前に広がるのは元々の暗黒の光景に人々が生活しているとわかるおびただしい蛍光灯の光だった。僕は掛け時計を見る。午前八時、目の前の光景からは想像もつかない朝の時間帯だ。幻覚を見ているのかもしれないと思い、勉強机の上に置いてある腕時計を手にとって時刻を確認する。午前八時、朝ごはんを食べる時間だ。僕はそこでようやくこの怪事に対する対処法を考える。この現象は現実なのかもしれないし、夢なのかもしれない。でも、いつもと同じように行動することでそのどちらかが分かる。日常と同じであれば現実、日常とまったく異なっていて空を飛んだり魔法を使ったりしたら夢、僕はそう考えるようにした。そう考えなければいけない。

「おはよう。」

僕は平常を装って茶の間へと降りる。母はいつものように朝ごはんを作っている。父もテーブルの椅子に座って新聞を読んでいる。僕は空いている椅子に座り、テーブルの上に置いてある操作機器で液晶に情報を映し出す。

「おはようございます。八時三分になりました。情報番組レッツモーニング、では今日のヘッドラインからです。」

いつもどおり、キャスターが番組を進行させていく。僕はこの当たり前のキャスターの行動がいつどこでおかしくなるか、少し期待していた。しかし、これといっておかしなところもなく、むしろなぜキャスターたちがこの暗黒に閉ざされた空のことを話題にしないのかが不思議だった。いや、むしろ空だけが異常ということはあり得ない。なぜならこの世界に住む人ならば、昨日とまったく違う世界が繰り広げられているのならば、話題にして当然だ。うん、僕は理解した。これは夢だ、そうに違いない。頬をつねることはしなかったが、僕はそう確信した。安心した僕は日課である観葉植物のサボテンに水をやるために席を立った。

「それじゃ、行ってきます。」

朝食を済ませた僕はいつものように学校へと行く。夢だと分かっているから、そんなに不安はない。友達も空のことなど話題にしないかもしれない。それでも、夢は自分の世界、自分しか知りえない秘密を持っていたっていいのだ。

「おはよう。……何妄想してんの?」

僕を後ろから急襲する者がいた。幼馴染のやつで、いわゆる腐れ縁ってやつだ。

「ん、いや空について考えていたのさ。」

「空? 空がどうしたって言うのさ?」

友人は不思議そうに僕の考えごとに意見した。

「なんで昼なのに空は黒いのかなぁ……と思って。空って青いもんじゃなかったっけ?」

「そう言われてみれば……ってなんでやねん! なんでそんなに朝からぼけてるの? 栄養不足? 空が黒色なんて当たり前のことじゃん。」

僕の問いかけに友人は仰天したような顔で質問以外のことに質問した。とりあえずそれは脇に置いておく。

「うーん、多分当たり前のことなんだろうけど、当たり前がちょっとわからなくなっちゃってるって言うか、なんで文字ってこんな形をしているんだろうとか、冷たいと熱いって何が違うんだろうとかと同じ感覚なんだけど。自然研究学科でしょ? 僕にもわかるように説明してくれないかな?」

僕は自分の夢の中の住人に説明を要求した。夢の中の住人、すなわち自分の心のどこかである友人はどのような答えを返してくるだろう。なんか、こんな感じの心理テスト見たことがあるぞ。

「……それが本気なら説明してやらなくもないけど。ええと、微粒子がどうたらこうたらってのが頭のお堅い科学者の意見なんだけど、個人的にざっくり説明すると空が黒いのは太陽が世界中に様々な紫外線やらなんやらをを降らせている結果であって、本当の色は青かもしれないし、茜色かもしれないけど、人間にとっては黒色に見えるってことだと思うよ。夜については太陽が出ているか出ていないか、これが昼との大きな違いで、当たり前のことだけど太陽が出ていなければ世界は明るくなるから、そこら辺はうまく説明できないけど夜空の色は青になるんだと思う。」

僕は友人の説明を聞いていて、この夢は「世界の昼夜が逆転してしまった世界」であると確信した。

「バラエティーでもやっていたんだけどさ、最近そのことを間違ってインプットしてる人が多いんだってさ。ごく当たり前のことを当たり前だと信じれなくなっちゃって、ついには真逆のことを言ってしまったりして。」

「それって僕のこと?」

僕は友人に問いかける。友人はくすっと笑ってこう告げる。

「そう、君のこと。」

その瞬間、僕は心の底を掬われる様な感覚に陥った。誰かが僕の心の中を書き換えようとしている。僕は拒否した。夢なのだったら今すぐここで覚めたい。そう願った。

「君は今、この世界を夢だと思っている。それは半分正解だ。でもね、夢ってのは君自身の心の中に存在する現実なんだ。君、いや人間たちはそうやって夢をありえないこととみなしているけど、夢とみなしているものの中で生きているぼくたちは夢こそが現実だと思っている。この世界は君たちの世界の常識には囚われてはいないけど、この世界にも常識はちゃんとある。つまりね、ぼくたちからしてみれば君たちが夢なんだ。」

友人は顔に手をかける。友人の顔だったものは仮面だった。仮面は取り払われ、その下にあるものは僕の顔だった。

「ぼくは夢から覚めることにする。じゃあね、夢の僕。」

夢のぼくはそう言い残すと、目の前からふっと消えた。そして程なくしてから世界の崩壊が始まる。夢が覚めるのだ。

僕は夢から覚めた。なんていやな夢だったんだろう。夢でも同じことをしたけど、当たり前のように僕はカーテンを開ける。いつものように空は真っ暗だ。うん、今日もいい天気。そして、体調絶好調。さあ、張り切って学校に行くぞ! ……となるわけはない。当たり前だ。これではまるっきり夢のようじゃないか。でも、夢の中で友人の言っていることが自然と頭の中に定着していた。

「空は黒色で当たり前。」

僕はここで二つの意識が自分の中で混在していることに気付く。つまり、「当たり前の空の色は二つある。」ということだ。正直何を言っているのか自分でも怪しいが、空という存在をそう捉えざるえないのだ。

「空って何だろう。」

そう意識して考えると結論を得ることができる。そう、この世界で見ている空は僕が夢としていた世界の空なのだ。つまり、夢世界で言われたことを総合して考えてみると、現実が夢になってしまったということだ。また、夢が現実になったおかげで夢の世界の常識がどんどん頭の中に定着していっていることも分かる。もう僕の知っている現実は夢へと追いやられてしまったのだ。

「お~い、朝だぞ。」

父が僕を起こす声が聞こえる。夢が現実になってしまった以上、こちらで生きていくしかない。少なくとも帰れる方法が見つかるまでは。僕は父の言葉に反応して急いで階段を下りて行った。

(おしまい)

ページ 1 あとがき

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