銀雪ルートフェリクスが死神になる話です。
銀雪ルート、フェリクスソロエンド後日談のネタバレを含みます。
蒼月フェリレスエンド後日談、紅花ルート、イエリッツァ支援要素もほんのり有。
「戦後はお前の下で働くのも悪くはないかもしれないな」
それは確かに本心のはずだった。だがフェリクスは今、広い平原の真ん中で、誰に背中を預けるわけでもなく剣を振るっていた。
ひとしきり剣を振り続け、夥しい死体が足元に転がり鉄の匂いで鼻も利かなくなった頃、今回の戦いが終わりを告げたことを悟る。剣を一度鋭く振ってから鞘にしまう。
傭兵としてあちこちの戦場に現れては無表情でただ人を斬り続け、またどこかの戦場へと流れていくフェリクスを、ある者は「灰色の悪魔」の再来と畏怖を込めて褒め称え、またある者はあの「死神騎士」のようだと陰口を叩いた。
皮肉なものだ、とフェリクスは思う。誰かと比べられ、重ねられることに嫌気が差し、家も名前も捨てて自分の道を歩んできたと思ったのに、今でもこうして他人の影を重ねられている。しかも自分にとっては、「灰色の悪魔」も「死神騎士」も、かつて教えを受けた師にあたる存在なのだ。
戦いの中に身を置いたことがない民たちは、戦場で人を殺すという姿に「灰色の悪魔」や「死神騎士」を安易に想起しただけなのだろう。しかし実際に彼らと剣を交わしたことのあるフェリクスにとっては、それは民たちの口の端にのぼる噂以上の実感を伴ってのしかかってくるものだった。
二人の剣は、全く違う。「灰色の悪魔」と呼ばれた教師の剣は貪欲に生きるため、そして何かを守るために振るわれる剣だったが、死神騎士の剣はどこか死に急ぐような、命を奪い奪われることを望むような剣だった。そこには大きな違いがある。
果たして俺の剣は、と時にフェリクスは自問する。今の俺の剣は、斬らなければ生きられず、戦場に現れては死を振り撒いていく、あの死神騎士と何が違うのか。
本当に皮肉なものだ、騎士の道を受け入れられず道を違えたはずなのに、「死神騎士」の道を自分が歩むことになろうとは。
守るべき王のいない国に仕えたところで意味がないとあの日王国を出て来たというのに、なぜ俺は王となったあいつの元に留まらなかったのか。自分の仕えるべき王はあの男、ディミトリのみだと、心の底で思っていたのだろうか。もし王国が滅びず、ディミトリが生きていたら、俺は親父殿の跡を継ぎ「ファーガスの盾」と呼ばれていたのか、それともあいつの「盾」となっていた未来もあったのだろうか。
人を斬っていないと、様々な問いが浮んでは消えていく。そうした答えなどない問いを打ち消すために、戦場を求めて彷徨っている。
終わりの見えない道を歩き続けた先にはきっと何もない。ただ、どこかで斬られて死ぬ、それだけだと思った。