はじめに
4年生はまず、「物性理論グループ(2つの研究室・4人の教員)」としてまとめて受け入れをします。その後、4月の履修登録のときに、卒業研究A(前期)を一緒にやりたい指導教員を選んでください。卒業研究B(後期)の指導教員は、前期とは別の教員を選ぶこともできます。
(詳しくは、1.まとめて受入(3月中)、2.各学生が指導を希望する教員に個別連絡(3月中)、3.各教員の下で研究室活動開始(4月上旬)、4.正式な指導教員の履修登録(4月中旬)、という流れになっています。)
個人的な理解では、前期と後期は次のように標語的に位置づけられます:
前期(卒研A)は基礎トレ・筋トレ
後期(卒研B)は練習試合+α
コアタイムなどの設定はなく、各自で責任をもって取り組むことが必要になります。実際に取り組む際には、同期の学生と協力したり、先輩と議論したりすることを大いに推奨します。
前期
前期はセミナー形式の輪読をします。使用する教科書は参加者との相談の上で決定します。輪読には主に2つの意味があります:
知識の獲得(基礎トレ)
専門的文献を読み解くための基礎体力づくり(筋トレ)
セミナーはとても大切ですし、楽しい催し物です。分野を問わず理論系の人たちは大抵(超頭のいい人を除いて)、セミナーで「・・・ヤバイ、分からん」とか呟きながら大きくなったのではないでしょうか。それくらい大切です。また、参加者みんなで「こうじゃない?」「いや、違うと思う」「おっ、分かったっぽい」などと、のたまいながら進んでいくのは、いとおかしです。
そうやってがんばっていると、いつの間にか、後期の卒業研究で必要となる基礎的な学問的体力が身についてきます。あまり深く考えずに、まずは取り組んでみましょう。
教科書選びについて:
基本的な指針としては、既存教科書を
基礎的知識が得られて概観がつかみやすい、「全身バランスのよい細マッチョ型」を目指す本
いくつかのキーワードを選択的に学ぶ、「局所ゴリマッチョ型」を目指す本
に大別したときに、1のタイプがよいと考えています。
2023年度の前期セミナーは「一歩進んだ理解を目指す物性物理学講義、加藤岳生(著)」(サイエンス社)を輪読
2021, 2022, 2024年度の前期セミナーは「スピンと軌道の電子論、楠瀬博明(著)」(講談社)を輪読
後期
後期は好きなテーマについて、卒業研究をします。今のところ、
いくつか提示するテーマの中から、気に入ったものを選んでもらう
関連する理論系論文を1本選んで解読し、その再現を目指す
できれば、そこから一歩進んで計算を拡張する
結果をまとめる
という流れでやっています。各人の様子を見て、適宜、変更する可能性もあります。この一連の過程を通して、「研究の追体験」をしてもらいたいと考えています。これが、冒頭で「後期は練習試合」と述べた意味です。
一本の論文には驚くほど多くの情報が行間に詰め込まれていたり、省略されていたり、暗黙のうちに仮定されていたりしますが、これらのことは、論文の結果を再現できるくらいに丁寧に読み込むことで見えてきます。そのような研究の追体験を通して、物性理論の研究の一端をエンジョイしてもらいたいと思っています。特に大学院へ進学する場合には、卒研は本格的な研究(=公式試合)への足掛かりとなります。
テーマ選びについて:
多田が馴染みのある分野は、「超伝導、臨界現象、トポロジカル物性、スピン液体」などです。これらの一つ一つが巨大な学問分野を形成していますので、例えば一口に超伝導といってもほんとぉぉに様々な研究があります。学生との話し合いを通じて、できるだけ本人が楽しくやれるテーマを模索していきたいと思っています。
また、多田には現時点では馴染みが薄いけれど4年生と一緒にやってみたいな、という分野もあります。僕自身は自分が重要だと思う問題をコツコツやるのが好きなのですが、巷(←どこ?)で話題になっている様々な興味深い研究を見ると、「きっかけを作って本格的にやってみようかな」とか思ったりしています。「一杯勉強して多田より詳しくなってやろう」というくらい元気のある学生は、是非、挑戦してみてください。
その他、自分で「これがやりたい」というテーマがあれば、相談して下さい。多田はほとんど役に立たないかもしれませんが、一般的な立場からアドバイスすることくらいはできます。ただし、これは茨の道ですから、強い自己責任感と根性のある人にしかオススメできません。
ちなみに、僕自身は4年生の頃、当時の指導教員に馴染みのあるテーマ(「強相関電子系」)をやりつつ、「科学哲学」、「数学基礎論」、「金融工学」、「量子情報・量子計算」、「代数的量子論」といった別分野も勉強していました(←内容はほぼ忘れた)。ちなみに代数的量子論の知識が(少しだけ)役に立ったのはそれから10年後のことですが、当時は別に役に立てることを目指して勉強していたわけではなく、「ほへーん、すごいなぁ」とか思いながら教科書などを読んでいただけです。皆さんも是非、徒然なるままに取り組んでみて下さい。
これまでの卒業研究:
これまでに卒業研究で扱った内容です。基本的には、参考文献を読み解くための事柄を勉強し、先行研究の内容を再現し、あわよくば+αの議論を行うことを目指しています。
「Altermagnetismの基本的性質の研究(2024年度)」参考文献:[Sato et al. 2024], [Consoli-Vojta 2024] スピン系や金属系におけるaltermagnetismの基本的性質を議論しました。とくに、スピンカレントや異常ホール効果について調べました。
「測定型量子計算を介した量子情報と量子測定・統計力学の関係(2024年度)」参考文献:[小柴 et al. 「観測に基づく量子計算」], [Raussendorf-Briegel 2001] 量子測定の基礎や測定型量子計算の原理を議論しました。グラフ状態とイジングモデルの関係性についても調べました。
「3次元トポロジカル絶縁体の電磁応答の研究(2024年度)」参考文献:[Qi et al. 2008], [Sekine-Nomura 2020] 物質中におけるアクシオン電磁気学について議論しました。具体的なモデルにおける実現についても調べました。
「分数Chern絶縁体の研究(2023年度)」参考文献:[Motruk et al. 2016], [Liu-Bergholtz 2024] トポロジカル秩序としての分数Chern絶縁体状態について議論しました。とくに、厳密対角化を用いて具体的なモデルを数値的に解析しました。
「磁性体におけるマグノン励起(2023年度)」参考文献:[キッテル「固体物理学入門」] 基本的な磁性体の性質を平均場近似で議論するとともに、低温における振る舞いをスピン波近似を用いて解析しました。
「Haldane相の対称性に基づく解析(2022年度)」参考文献:[Pollmann et al.2010], [Pollmann et al.2012] symmetry protected topological phaseの代表例としてのHaldane状態を議論しました。とくに、iTEBDという手法を用いて、いくつかのスピン系モデルに対して数値計算を行いました。
「チャーン絶縁体における量子ホール効果とエッジ状態(2022年度)」参考文献:[Haldane1988], [Oka-Aoki2009] トポロジカル絶縁体について議論しました。後半では、チャーン絶縁体をフロケエンジニアリングで実現する方法についても触れています。
「ネットワーク理論のサッカーにおけるゲーム分析への応用 (2022年度)」参考文献:[Pena-Touchette2012], [Duch -Waitzman-Amaral2010] 本人の大学院進学先を考慮し、サッカーの数理的研究を題材にしました。FIFA WCUP 2022の日本代表の試合をネットワーク理論の立場から解析しました。
「テンソルネットワーク法によるIsing模型の解析(2021年度)」参考文献:[Vidal2007], [Levin-Nave2007] テンソルネットワークや自発的対称性の破れについて議論しました。具体例として、TRGおよびiTEBDを用いて、Isingモデルの臨界現象を解析しました。
「Rashba超伝導体におけるトポロジカル相の解析(2021年度)」参考文献:[Sato-Takahashi-Fujimoto2009], [Sato-Takahashi-Fujimoto2010] トポロジカル超伝導について議論しました。とくに後半では、平均場方程式を数値的に解いて、磁場下でのトポロジカル超伝導状態の安定性を解析しました。