音場再現を阻害する前面反射
音場再現を阻害する前面反射
前面側面積はできるだけ小さくする
スピーカーの前面構造は音を放射するための構造であると同時に不要な反射の発生源にもなるため、高い音質と自然な音場再現を実現するためには前面側面積をできるだけ小さくすることが重要になります。
スピーカーの前面側面積は、音質および音場再現に大きく影響する要素の一つです。
その影響は主に次の二つに分けて考えることができます。
1)スピーカーユニットの振動板面積による影響
2)ユニット自体の大きさおよびユニットを取り付けるバッフル板による影響
1)の振動板面積については、面積が大きくなるほど指向性が強くなるという特徴があります。 指向性は音場再現に大きく関係する重要な要素であるため、この点については別の項で説明します。
ここでは主に、2)のユニット自体の大きさおよびバッフル板による影響について述べます。
バッフル面積とエッジ反射
スピーカーの前面側に広い面積が存在すると、エッジ反射による時間遅れが発生します。
スピーカーから放射された音は
スピーカーから放射 ⇒ バッフル面に沿って進む ⇒ バッフル端に到達 ⇒ 端部で回折 ⇒ 二次音源として再放射
という過程を経て、時間遅れを伴った音として再放射されます。
この反射音はインパルス応答やETC特性では小さな反射成分として現れます。
また、前面側面積が広くなるほど、この反射音の遅れ時間は大きくなります。
従来のスピーカー設計
従来のスピーカー設計では、バッフル面積を利用するという考え方もありました。
面積が大きいほど前方への放射が強くなり、音像が明瞭に感じられる場合があるためです。
しかし、この方法はスピーカーユニット以外の要素を利用して音質を調整する方法であり、長所と同時に短所も存在します。
特にスピーカーユニットの性能が高くなるほど、これらの副作用の影響は相対的に大きくなる傾向があります。
音質への影響の検証
この影響を確認するため、トゥイーターの周囲に反射物を設置した場合の音質変化を調べました。
反射物には、直径100mmの円盤状の厚紙を使用しています。
まず、VCD型トゥイーターを 図1左側のようにユニット単体の状態で試聴します。
次に、 図1右側のように反射板を取り付けた状態で比較試聴を行います。
その結果、反射板を取り付けた場合、次のような変化が確認されました。
① 繊細さの低下
② 透明感の低下
③ 見通しの良い音場の縮小
特に③については、左右スピーカーの外側まで広がっていた音場が狭くなり、外側方向から聞こえていた音が減少したように感じられます。全体として、それまで感じられていた音の魅力が大きく失われた印象になります。
つまり、トゥイーターユニットの周囲に直径10cm程度の反射物が存在すると、前述の①〜③のような音は再生されなくなってしまいます。
同様の比較試聴を、図2のように一般的なドーム型トゥイーターでも行いました。
しかし、この場合には上記のような変化はほとんど感じられませんでした。
これは、そもそもユニット自体から①〜③のような音が再生されていないためと考えられます。
実際、既存の多くのスピーカーシステムでは、トゥイーターの周囲は広いバッフル面で構成されています。
これは、その反射面の有無によって音質差がほとんど生じないためとも言えるでしょう。
前面側面積を小さくする必要性
以上の結果から、ある程度以上の音質および音場再現を実現するためには
・ユニット間の干渉を防ぐ
・前面側の反射面積を小さくする
という観点から、各ユニットを分離して配置し、前面側面積をできるだけ小さくする構造が重要になります。
なお、この問題はVCD方式に限ったものではなく、他の方式のスピーカーユニットでも同様です。 特に、AMT(Air Motion Transformer)と呼ばれるタイプはユニット単体の外形が直径10cm程度になる場合も多く、それだけで前述の①〜③のような音を再生することが難しくなります。添付したイメージでは、例として Mundorf AMT21CM2.1-C と VCD方式のトゥイーターを実際のサイズ比で掲載しています。同じトゥイーターであっても、ユニット周囲の前面側面積が大きく異なることが分かると思います。
また、既存のスピーカーシステムでは、トゥイーターとその周囲の反射物の面積が直径10cm相当以上になる場合がほとんどであるため、①〜③の音はそもそも再生されていない可能性が高いと言えます。
VCDスピーカーの設計思想
以上の結果から分かるように、前面側の面積が大きい構造では、バッフル端で発生する回折や反射を避けることができません。これらの反射音はわずかなレベルであっても時間遅れを伴うため、音の立ち上がりや微細な情報を覆い隠し、繊細さや透明感、音場の見通しといった要素を損なう原因となります。スピーカーの前面構造は音を放射するための構造であると同時に不要な反射の発生源にもなるため、音の純度を高めるためには前面側面積をできるだけ小さくすることが基本原則になります。また、バッフル端で発生する反射の時間遅れは、スピーカー中心からバッフル端までの距離にほぼ比例して増加し、その遅れはETC特性では初期反射として現れます。
しかし、従来のスピーカー構造では、ユニットの外形やバッフル板の面積が大きくなるため、この影響を根本的に避けることは困難でした。
VCDスピーカーでは、この問題を前提から見直し、ユニット周囲の前面側面積を極力小さくする構造を採用しています。これにより、エッジ反射による影響を最小限に抑え、スピーカー本来の音の立ち上がりや微細な空間情報を損なうことなく再生することが可能になります。