音質・音場を決める『遅れた音』
音質・音場を決める『遅れた音』
VCDスピーカーを使用したスピーカーシステムは、高速応答を大きな特長としています。
この高速応答により、再生音に生じるわずかな変化までも敏感に捉えることが可能になりました。
そのため、このスピーカーシステムは高音質な再生を実現するだけでなく、音質の変化を検出する高感度の音質測定器のような役割も持っています。
この特性を利用して、回路構成や機械構造、周囲条件などを変化させた際の音質の違いを一つ一つ検証しながら積み重ねてゆくことで、VCD構造を持つスピーカーユニット本来の性能をできるだけ損なわないシステム構成を探ってきました。
これらの検証過程から得られた知見について、本ページで紹介します。
音質・音場再現を左右する遅れた音
その結果として明らかになったことは、音質および音場再現を左右する重要な要因が、遅れて到達する音(遅れた音)であるという点です。
正確な音質と音場再現の鍵は、この遅れた音を減らすことにあります。
したがって、その遅れた音をできるだけ減らすことが重要になります。
そのためには、スピーカーシステムにおいて時間特性および位相特性をできるだけ乱さない構成とすることが必要です。
この考え方は、現在一般的に用いられているスピーカーシステムの改善点を示すものであると同時に、VCDスピーカーの特徴を最もよく表すものでもあります。
すなわち、本ページで紹介する内容は、VCDスピーカーの性能を引き出すための条件であると同時に、スピーカーシステム全体の音質および音場再現を検討するうえでの基本的な指針とも言えます。
本システムでは、一般的なLCネットワークではなく、チャンネルディバイダー(アクティブクロスオーバー)方式を採用しています。
LCネットワークが制動特性および位相特性に与える影響について、従来のアンプ側から見た指標だけでなく、制動力の発生源であるスピーカー側から見た回路条件を基準に検証しました。その結果、想像以上に、制動電流は振幅だけでなく位相も変化し、その結果、振動の収束特性やトランジェントが劣化することが理解できます。
音源の周囲に大きなバッフルや反射面が存在すると、
スピーカー ⇒ バッフル面 ⇒ バッフル端 ⇒ 回折 ⇒ 再放射
という経路が生じます。
この遅れた音は、Impulse / ETC における初期反射として現れ、音場の透明度や見通しを低下させます。
スピーカーの前面構造は、音を放射する構造であると同時に反射の発生源にもなるため、自然な音場再現のためには前面側面積をできるだけ小さくすることが重要です。
その影響の度合いについて検証しています。
同軸型やフルレンジでは「振動板が大きい」「音源の周囲に広い構造物が存在する」
ため、音源周囲の反射や干渉を避けることが困難になります。
その結果、「繊細さ」「透明感」「見通しの良い音場」
を再生することが難しくなります。
再生系においては、信号経路をできるだけ単純に保つことが重要であり、現時点では
・アンプを通過する回路を最小化
・不要な回路素子を排除
・信号の時間構造を乱さない
という観点で、パッシブアッテネーターが最も合理的な構成の一つと考えています。
信号経路の純度を保つためには、回路構成だけでなく信号線の長さにも配慮する必要があります。
これまでの検証では、信号線が音に与える影響は、その材質よりも長さによるものを強く感じてきました。
信号線が長くなるほど、配線の抵抗や容量成分の影響を受けやすくなり、信号の時間構造に変化を及ぼす可能性があります。このような変化は、直接音に対して遅れて現れる成分、すなわち「遅れた音」を生じさせる要因となります。
そのため、再生系では信号経路をできるだけ単純に保つとともに、信号線の長さは可能な限り短くするようにしています。
結果として明らかになったことは、音質および音場再現を左右する重要な要因は遅れて到達する音(遅れた音)であるという点です。
音質および音場再現の差は、直接音に対して遅れて到達する成分(遅れた音)の量によって決まります。
正確な音質と音場再現の鍵は、遅れた音を減らすことにあります。
音場の再現性を大きく左右している要因は、従来から考えられてきた、周波数特性、歪率、指向性材料や振動板構造 、等ではなく音の時間構造(時間特性)です。
音楽信号は、単なる周波数の集合ではありません。音は時間の中で発生し、消えていく現象です。
したがって、スピーカーが再生する音において、音の立ち上がり、音の収束、音源の時間的位置関係、が正確に再現されなければ、音場の再現性は大きく損なわれます。
この時間特性は、インパルス応答やETC(Energy Time Curve)によって観察することができます。
特に重要なのは、最初の数百マイクロ秒、の領域です。スピーカーから放射された音は、本来であれば、単一の音源として空間に広がるはずです。しかし、音源の周囲に構造物が存在すると、スピーカー⇒周囲構造⇒回折⇒二次音源として再放射、という現象が発生します。
この二次音はわずかな時間遅れで到達し、ETCでは初期反射として現れます。
このような初期反射が存在すると、音像の輪郭が甘くなる、音場の見通しが悪くなる、繊細な音が埋もれる、といった現象が発生します。特に、透明感、空間の広がり、音の分離、といった要素は、この初期時間領域の影響を強く受けます。
この問題は、スピーカーの構造とも深く関係しています。
例えば、大きな前面バッフル、ユニット周囲の構造物、同軸型やフルレンジの大きな振動板、などは、音源の周囲に反射物を形成するため、初期反射の原因となります。
また、LCネットワークによる複雑なインピーダンスは、振動の収束特性を変化させ、時間特性を悪化させる要因になります。
音場再現を高い水準で実現するためには、音源周囲の反射を最小化する 、振動の収束を速くする、信号経路を単純に保つ すなわち 音源の時間構造を乱さない構造 が重要になります。
結論:「時間構造を乱さない」そのために「遅れた音」を減らす。そのために出来ることは、電気回路では回路中の L成分と C成分を減らす。
VCD(Voice Coil Diaphragm)構造は、この考え方に基づいて設計されています。 VCDでは 、振動を振動板上に伝搬させない 、背面音を構造的に遮断する 、音源周囲の構造を最小化する、ことにより、時間特性と音場再現性を高いレベルで両立しています。
スピーカーの音場再現を決める最も重要な要因は 音の時間構造をいかに正確に再現できるかにあります。そのためには 、不要な回路、不要な構造、不要な反射、を排除し、 音源をできるだけ純粋な状態で空間に放射する構造が必要となります。VCD構造は、この条件を満たすために設計されたスピーカー構造です。