平面磁界駆動型スピーカー

平面磁界駆動型スピーカーには様々な構造がありますが、ここでは、一般的でシンプルな例を挙げて説明します。

平面磁界駆動型スピーカーは振動板をほぼ全面で駆動させる構造のため全面駆動方式ですが、その長所を活かすためには振動板の全面を同位相で振動させる必要があります。

図のように振動板は全面に配置された螺旋状の導電体からなる駆動部と、フィルムからなる支持部で構成されています。支持部は、導電体間の隙間となる部分が前後方向振動時にバネとして働く可動支持部となります。

「振動板内の振動の伝搬」という問題

導電体で発生した振動が他のところに伝搬すると、新たな基本コンセプトで記述しているⅡ.振動板内の振動の伝搬により、伝搬した振動が時間的に遅れて全面が同位相で振動できなくなってしまいます。導電体で発生した振動を他のところに伝搬させないためには、全面に分散させた導電体のそれぞれを独立して振動させる必要があります。図の例では、その方法として導電体の両側を全て可動支持部で支えて振動させるようにしています。

なお、「コーン型スピーカーでは支持部としてエッジやダンパーを採用して、そのコルゲーションにより剛性が前後方向に対して低く(コンプライアンスが高く)半径方向には高くなっています。それによって、前後方向に柔軟に振動(高追従性を確保)しながら半径方向に対してはズレ難くして、半径方向のズレが原因の暴れを防いでいます。

図の可動支持部においても、エッジやダンパーと同等の支持部としての役割が求められますが、設置するための幅が限られるために本来のコルゲーションを形成することはできません。従って、支持部の材料として、振動板の形状が維持でき半径方向に対するズレを防止するために、ポリエステルやポリイミド等を採用してその高い剛性に頼ることになります。

以上のような素材と構造の場合、可動支持部はエッジやダンパーのようにコルゲーションを形成したものに比べて、サスペンション機能としての直線性が悪くなり、特に振幅増大時は非直線性による歪みが大きくなってしまいます。また、ハイコンプライアンス化(高追従性)も難しくなります。

なお、支持部で使用されているポリエステル等は、コーン型やドーム型の振動板でも振動を伝搬させるための素材として用いられているものです。従って、導電体で発生した振動の他への伝搬を可動支持部によって防ぐには限界があります。このように導電体の振動が他のところに伝搬し易い、即ち、「新たな基本コンセプトで記述しているⅡ.振動板内の振動の伝搬が発生し易い状態になっています。具体例については「音の質が変わる振動板」を参照してください。 

結局、導電体を振動板の全面に分布させた全面駆動方式ではありますが、振動板の全面が同位相で振動することは難しく、全面駆動方式の特長を活かしきれていません。

「振動板の背面側の音」という問題

新たな基本コンセプト」でⅢ.振動板の背面側の音」として記述しているように、背面側の音が振動板を通過して前面側で放出される音は、音と音場の再現性を低下させる四大要因のひとつです(一般的にはあまり問題視されていないようですが)。この背面側の音の通過を少なくするためには、振動板の各位置で単位面積当りの質量を大きくする必要があります。例えば、図の構造では可動支持部フィルムの厚さを20倍以上にまで厚くする必要があります。

一方、質量を大きくすると厚さが増すために剛性高くなってしまい、今度はⅡ.振動板内の振動の伝搬」が発生し易くなってしまいます。このように、振動板各部の質量大きくしながら剛性を低下させなければならないいう両立させることの難しい問題存在しています。

以上のようなこと図の構造に限らず、平面磁界駆動型スピーカー全般に共通する問題となっています。従って、平面磁界駆動型スピーカーが全面駆動方式としてその優位性を発揮するためには、Ⅱ.振動板内の振動の伝搬」とⅢ.振動板の背面側の音という両立させることの難しい問題を解決する必要があります。

VCDスピーカーにおける問題の解決方法

VCDスピーカーの振動板は、平面磁界駆動型スピーカーの振動板似ているように感じられますが、構造図に示すように大きく異なっています。

まず、VCDスピーカーの振動板では隣り合う導電体部(導電体や絶縁体)互いに接触し合うように配置されおり、この点が異なっています。このような配置により導電体部の半径方向の動き隣の導電体部によって遮られ、抑制されます。そのため振動時でも導電体部の半径方向ズレ発生し難くなって、ズレが原因となる振動板の暴れを防止できるようになっています。このような特長によりVCDスピーカーでは径や振幅の大きな振動板の設計が可能となり、ミッドレンジだけでなくウーファーまでも高性能なボイスコイル振動板として製作することができるようになっています。

次に、背面側の音遮断に関して平面磁界駆動型スピーカーでは可動支持部の果たす役割大きくなっていますがVCDスピーカーではその機能の殆どを導電体担っています。また、VCDスピーカーの振動板では隣り合う導電体部接触しており、互い支え合う構造となってそこに支持機能が働くため、可動支持部支持機能としての負担が大きく軽減されます。このようにしてVCDスピーカーでは可動支持部剛性をかなり低く設計できようになり、音と音場の再現性を低下させるⅡ.振動板内の振動の伝搬を大きく減少させています。

さらに、前述のようにVCDスピーカーでは背面側の音遮断機能全体を導電体部が担っているため単位面積当りの質量大きくなって遮断性能が高くなっています。このようにして音と音場の再現性を低下させる四大要因の「Ⅲ.振動板の背面側の音効果的いでいます。

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