市民ラジオ(27MHz帯:500mW)、特定小電力トランシーバー(422MHz帯:10mW)、デジタル小電力コミュニティ無線(142/146MHz帯:500mW)を使った場合、最大でどの程度の通信距離になるのか、以下の自由空間伝送損失の式を使ってシミュレーションしてみました。
Lp:伝搬損失(dB)d:距離(m)λ:波長(m)
【市民ラジオの場合】
波長:11(m)、送信電力:500(mW)/27(dBm)、送受信アンテナ利得0(dB)として、距離と受信電力の関係を表にしてみると、以下のような結果になります。
受信機の性能や条件によって変わり、交信に必要な最小の受信電力として、-100dBmと仮定すると、見通し距離約1000kmの範囲内で通信できそうです。ただし、地表面や電離層の反射や回折の影響や混信雑音等はまったく考慮していません。国内では、このような見通し距離の場所はないので、実際は最大300~400Km程度ではないかと考えられます。
また、上の式では距離の2乗に比例して電力が減衰すると仮定したモデルですが、実際の使用(地表面)では、ほぼ距離の3~4乗で減衰していくと言われています。 カタログ等に書かれている通信可能距離は、このモデルを使っていると考えられます。海上や山岳地帯では都市雑音(約-90dBm程度)が比較的に少ないので通信し易いでしょう。因みに、この周波数帯幅での自然雑音は、約-140dBm程度と言われているので、お互い高い山に登り、高感度の受信機と高性能な受信アンテナを使えば安定した通信が期待できそうです。
また、地上から約100Km上空にEs層(Sporadic E layer)と呼ばれる電離層(イオン層)が、春から夏にかけて発生する確率が高くなります。この場合は、見通し外でもこの電離層に電波が反射して1000Km以上も離れた場所と通信できることがあります。このような遠距離通信が、わずか500mWで可能なことは、以上の結果から推測できそうです。
年に数回、強力なEs層が発生して反射する周波数がVHF帯にまでおよぶ時があり、近隣諸国で放送されているTVやFM放送波が強力に入感するときがあります。 このときは、市民ラジオでも遠距離局を受信、または交信できるチャンスかもしれないので要注意です。電波伝播に影響を与える電離層の観測は、情報通信研究機構(ex.通信総合研究所)で行われており、観測データ(イオノグラム)が公開されています。
また、電離層で反射された電波の来る方向(仰角/入射角)と、最大利用周波数(MUF)と最適運用周波数(FOT)を概算するためのスクリプトを書いてみましたので、もしよければお使いください。
【特定小電力トランシーバーの場合】
波長:71(cm)、送信電力:10(mW)/10(dBm)、送受信アンテナ利得0(dB)として、距離と受信電力の関係を表にしてみると以下のような結果になります。
交信に必要な最小の受信電力として、-120dBmと仮定すると、見通し距離、約100Kmの範囲内で通信できそうです。ただしこの場合も、地表面での伝播、回折の影響や混信雑音等はまったく考慮していません。最新の特定小電力トランシーバーの受信感度は非常に良いようで、通信距離は条件により、さらに200Kmを超えることが十分に可能です。 実際、200Km超の通信実績もあります。
【デジタル小電力コミュニティ無線(LCR)の場合】
波長:2(m)、送信電力:500(mW)/27(dBm)、送受信アンテナ利得0(dB)として、距離と受信電力の関係を表にしてみると以下のような結果になります。
LCRの場合は、デジタル変調方式(4値FM)を採用しており、通信距離は、BER(ビット誤り率)が深く関わるため、受信電力だけでは判定が難しい。しかしながら、GW(地上伝搬)の場合は、市民ラジオ(500mW)と同様、国内最大の見通し距離は、約300~400Km程度なので、この距離が最大の通信距離と考えてよいかもしれない。
また、この周波数帯では、ダクト伝搬、流星散乱通信、Es層伝搬などの異常伝搬が期待でき、1000Kmを超えるような遠距離に伝搬する可能性が高く、とても興味深い。