Methods

当研究室ではユニークな装置を使って新しい物性実験をしています。どんなものがあるかな・・・?

ポータブル100テスラ発生装置

PINK-01(プロトタイプ)

当グループでは持ち運びできる超強磁場発生装置であるPINKを製作しましたPINK-01はポータブル機では世界最強磁場を発生できる装置です。これを利用し100テスラ領域の量子ビーム科学を開拓しています [1]超強磁場発生にはメガアンペア級の電流発生が必要で、このために特殊な技術を必要とします。PINK-01を利用すれば、これまで不可能であった実験領域が開拓できます非従来的な光技術との強磁場を組み合わせ、100テスラ強磁場に置かれた物質にミクロプローブの目を届けることで、その解明に資することができます。PINK-01では77テスラまでの磁場発生と量子ビーム実験に成功しました。

SACLAとPINKによる超強磁場中X線実験

PINK-01を使って実際に国産X線自由電子レーザー(XFEL)であるSACLAにおいて77テスラまでの磁場におけるX線粉末回折実験に成功しました。 これは現在の磁場中のX線回折実験としては世界最高記録です。 今後、低温環境の整備、PINK-02の完成を待って、超100テスラ領域にいたる多彩な物質の磁場中スピン格子結合を一網打尽に解明する計画です。
[1] A. Ikeda et al., Appl. Phys. Lett., 120, 142403 (2022)

PINK-02(テストタイプ)、PINK-03(本物のPINKなのよ!)

さらに後継機であるPINK-02(*)、PINK-03(**)を開発中です。これらはPINK-01の2倍の電源を積んでおり、実際にSACLAのビームラインにおける動作テストで120テスラの発生に成功しました!!(2023年9月)これによりX線自由電子レーザー実験や、テラヘルツ領域のシングルショットスペクトロスコピーなどにチャレンジする計画です。(*)PINK-02は理研SACLAの基盤開発プログラムによる開発。SACLA専用装置で一般ユーザー向けの共用装置として開放される予定。(**)PINK-03は学術変革領域1000テスラ科学における共用装置としてまず電通大に敷設予定。ポータビリティーを活かして、量子ビーム実験などに活用される予定。

ポータブルパルス磁場発生装置 PiMag-40, PiMag-20

強磁場科学の新領域開拓には手軽かつ強磁場が発生できるミニバンクシステムが有用です。日本を中心に世界でミニバンクが利用されています。当研究室では大枠の設計は踏襲しつつ、部品の見直しやシーケンスを大幅に簡略化し、ミニコンピュータであるraspberry piでコントロールする新型ミニバンクPi-Magシリーズを手作り開発中です。試作機は完成し36.7テスラ発生に成功しました。2023年度中に量産し、全国展開しようとしているところです。

FBGを応用した超高速100MHzひずみ計測法

物質の磁気的性質が強磁場中で変化する際に、スピン格子結合により格子自由度も協奏的に変化します。 その性質を調べるためには磁歪計測が有効です。 しかし、従来、超強磁場では磁歪計測はできませんでした。 それは破壊型パルス磁場装置が発生する巨大な電磁気ノイズに電気的測定が邪魔されることと、測定スピードがマイクロ秒磁場パルスに追いつかないためでした。 近年コマーシャルに手に入るようになった新規ひずみゲージであるファイバーブラッググレーティング(FBG)に着目しまし、独自に光フィルター法を実装することで、約2000倍の高速化に成功しました。 これにより超100テスラ領域での磁歪計測が可能になりました。量子スピン系の磁化過程に相補的情報を与えるような、脇役的な役割を持つ場合もあれば、中にはスピンクロスオーバーや価数転移など磁気体積効果が本質である系もあります。絶縁体金属ではスピン格子結合のスキーム大きく異なりますが、FBGひずみ計測は同じようにできます。これらを系統的に計測して比較することも可能です。

[1] A. Ikeda, et al., Nat. Commun. 14, 1744 (2023)

[2] A. Ikeda, et al., Phys. Rev. Lett. 125, 177202 (2020)

[3] A. Ikeda, et al., Rev. Sci. Instrum. 88, 083906 (2017)

FBG magnetostriction technique can be employed in various magnets from DC magnets to ms-pulsed and µs-pulsed high magnetic field generators.

電磁濃縮法@物性研

世界最強の極限環境を用いれば、ありふれた物質を対象としても未だ誰にも知られていない新現象を発見できるかもしれません。 物性研ではそのような世界最強磁場環境が整備されています。 1970年代から脈々と開発が続き、つい最近2018年に、5年にわたる新型電磁濃縮装置の立ち上げを乗り越え、前人未踏の室内世界最強1200テスラ発生と計測に成功しました。私は5人の主メンバーの一員としてパルスパワー開発を経験しました。 現在装置は常用600テスラの5MJ装置と300テスラの2MJ装置の2台体制で継続的に物性計測実験を行っています。 電磁濃縮法は高速に収縮する金属筒(ライナー)が初期磁束を濃縮する磁場発生方法です。まずコンデンサの電気エネルギーを金属ライナーの運動エネルギーに変換し、さらにその運動エネルギーを磁場のエネルギーに変換して、磁束濃縮を行います。 各過程でのエネルギー変換効率が、コイルの形状や電源など様々なパラメタに左右され、一筋縄ではいかないテクニックですが、積年の努力により実際に物性計測に役立てられるような環境になってきています。 コンデンサーバンクが小さめの体育館一つ分の部屋に設置され、隣の部屋でに電流を送り、そこで磁場発生を行います。2023年から学変A「1000テスラ科学」がスタートしました。

[1] D. Nakamura, A. Ikeda et al., Rev. Sci. Instrum. 89, 095106 (2018)

一巻きコイル法@物性研

電磁濃縮法では一度の放電で、手作りのクライオスタット、サンプル、各種プローブがすべて消失します。 物質科学では再現性やデータの信頼性も求められるため、電磁濃縮法だけでは超強磁場科学の推進は困難です。 一方で一巻きコイル法では、300テスラまでの磁場を比較的簡便に発生することができ、しかもコイルは外側に飛散するために,サンプル、クライオスタット、プローブは無事です。 このため、コイルだけを交換することで、一日に何回も実験ができます。 一巻きコイルは世界に4台ありますが、そのうち2台が物性研にあり、それぞれコイルが縦型と横型の配置になっています。 縦型一巻きコイルではため込みクライオスタットにより最低で2ケルビンの低温と120テスラ程度の磁場を利用することができ、量子スピン系の逐次相転移の研究など、低温を必要とする実験に用いられています。 磁化測定が多いですが、最近は、磁歪計測、高周波電気伝導度計測、超音波計測も実現されています。 横型一巻きコイルでは可視光スペクトロスコピーや可視・近赤外レーザー吸収、磁気光学効果の計測が行われており、Heフロークライオスタットで4.2 K程度まで冷却もできます。 横型一巻きコイルは充電電圧が50 kVと、縦型一巻きコイルの40 kVよりも高く、利用可能な磁場も200テスラ程度と大きいです。