山田堂 山田雄一郎さん 


<余市町で高品質なテーブルワインを造る>、そんな信念のもと活躍中のワイナリー「山田堂」の山田雄一郎さんにお話を伺いました。  


さん 

余市町に来られるまでの経緯をお聞かせください 

さん

初めて余市町を訪れたのは2016年の6月。その頃は山梨県勝沼町のワイナリーでワイン製造部にどっぷり浸かっていました。山梨では7月の後半から収穫と醸造が始まるので、その前に会社に時間をもらって余市町のワイナリー、ドメーヌタカヒコの曽我さんに会いにいきました。

初めからワイン造りに関わっていたのですか?  

山田さん

遡ると2010年の頃になりますが、大学卒業後、社会人として働いているうちにJICA青年海外協力隊に参加する機会をもちました。2年間、中南米の厳しい環境で過ごす中で、果たしてこのまま任期を終えて、温かい母国・日本に戻って普通の生活に戻っていいのだろうかと悩みました。任期終了が近づく中で決めたのは、もう少し海外を見てみようということでした。中南米で得た語学力を持って、協力隊を終えて一度帰国したのち、すぐにスペインへ飛びました。

スペインでの一番の目的はブドウ栽培とワイン醸造を学ぶことでしたが、それらよりも、いつか日本に戻って自分がやっていくべきことを探す旅でした。

すごい行動力ですね 

山田さん

スペインでは2年間、日本の専門学校に相当する醸造学校に入り、朝から晩まで勉学に没頭しました。1年目はスペインで、2年目はアメリカ・オレゴンで収穫と仕込みを経験しました。スペイン滞在期間中には他にもブルゴーニュやボルドー・イタリア・ドイツにも行きました。世界を見ながら自分のいく末を見つめるのはとても楽しい時間でもあり、常に追われている感覚を持っていました。もっと知りたい・もっと勉強したい気持ちが湧き出ていました。

2014年初夏、スペインでの醸造学校を卒業し帰国しました。その足で向かったのが、山梨県です。老舗ワイナリーが多く存在し、歴史ある場所で日本のワイン業界を見たいと思ってのことでした。たまたま求人があった勝沼町の中堅ワイナリーでワイン造りをする事になりました。

いよいよ本格的な取り組みを始めたという事ですね 

山田さん

山梨には自分のようにブドウ栽培・ワイン醸造を目指す若手が他県からたくさん来ていたので、同年代で色んなワイナリーの横のつながりが増えました。現在、日本全体の生産者の中でも先頭を走る方々にも厳しくご指導いただき、それらが今の自分の基盤にあります。 

ご家族についてお聞かせいただけますか? 

山田さん

山梨にいる間に結婚し、男の子が生まれました。いつか独立したいとぼんやりと考えていたものが、子どもができたことで明確になっていきました。目の前のことに必死ではありましたが、自身の未来・子どもの未来を考えた時に、より可能性が大きい産地へ移住することが重要と考えていました。その時、選択肢の中でも多くの期待を寄せていたのが余市町です。余市町の風土を体現するようなワイン、ドメーヌタカヒコのナナツモリを飲んだことも移住を決める大きな要素の一つでした。

2019年春、5年間勤めたワイナリーを退職し、余市町へ移住しました。 

ようこそ余市へ!  

山田さん

2019年春から2021年春までドメーヌタカヒコの曽我さんの元で研修をスタートしました。そして2021年春、余市町登町にて離農する農家から農地2.3haを取得。同年、ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトを1haの農地に植樹しました。

そしてその年の9月、余市町では14番目となるワイナリー「山田堂」を設立することが出来ました。  

今後の展望をお聞かせください   

山田さん

山田堂のコンセプトは高品質なテーブルワインを造ることです。余市町や北海道のワインの裾野を拡げたいと思っています。ここにはワイン専用種であるヴィニフェラ種やハイブリッド種でのワイン造りを前提に考えています。ブドウは自身の畑のものと、余市町内の買いブドウを仕込みます。

2022年、私が理事となって、余市町中小規模生産者組合(Yoichi Small Winegrowers Association)というものの活動を始めました。一番の目的は余市町産ワイン専用種ぶどうの調達です。 日本で一番の高級品種=ヴィニフェラ種の生産地とされる余市町ですが、町内で生産されるブドウはほとんどが町外や道外へと流通してしまっている状況をなんとかしたいと思ってのことです。

ぶどうは植えてから収穫が始まるまでに3年から5年かかります。その間、地域の農家さんから専用種ぶどうを購入してワイン造りを始めることができると、ワイナリー事業のスタートとしては 理想的だと思います。ワイン造りは一年に一回しかできませんし、30歳からスタートすると、せいぜい頑張っても35回しかできない。そう考えると、一年でも早く、一回でも多くの経験値を積むほうがいいと考えます。

新たに余市町に就農する人達・これからワイン専用種を植える人達・新規でワイナリーを始める人達、皆が相互にプラスになるような形で、継続できることが理想です。 

今から4年前、ドメーヌ・タカヒコで研修を始めたころの山田さんに初めてお会いしました。曽我貴彦さんから、「将来が期待される仲間」として紹介された中のお一人でした。穏やかで言葉少ないたたずまいにも「本気度」を感じさせるオーラがありました。以来お付き合いさせて頂いています。また他の方々も、皆さん、ぶどう栽培やワイン醸造の極意を極めようと今も活躍しておられます。

余市に家族ともども居を構えて、国内はもとより世界に余市の名をとどろかせている彼らに心からの乾杯を!(加我)。