第1回 TMU進化生態セミナー

2018年9月27日(木)18:00 首都大学東京 南大沢キャンパス 12号館101室 (map#26)

アリの巣分かれコロニー創設における資源配分戦略:実験と理論によるアプローチ

Reproductive allocation in an ant reproducing by colony fission: experimental and theoretical studies

チボー・モナン博士(ソルボンヌ大学,パリ,フランス, https://sites.google.com/view/thibaudmonnin/research)

アリなどの社会性昆虫の新コロニー創設には2つの戦略がある.ひとつは独立創設(Independent Colony Foundation, ICF)で,母コロニーは遠くへ分散する多数の女王(羽アリ)をつくる.こうした女王は,遠くに移動できるものの単独で創設を行うため高い死亡率にあえぐ“開拓戦略(colonizer strategy)”といえる.もうひとつは,巣分かれ創設で,数多くのワーカーを引き連れた女王(1匹あるいは数匹)が母コロニーから分かれる(Dependent Colony Foundation, DCF).巣分かれ創設女王の死亡率は低いが,近くに歩いて分散することしかできないため,DCFは局所的な競争力に創設成功が左右される “競争戦略(competitor strategy)”である.

我々はこうした巣分かれ創設におけるコロニーの資源配分を,フランスの地中海沿岸に産するウマアリ属のアリ(Cataglyphis cursor)の野外集団で調べた.巣分かれを行うコロニーにはワーカー数(コロニーサイズ)とワーカーサイズにかなりのバラツキがあり,大きなコロニーほど大きな新コロニーを作ったが,多くの新コロニーを作るわけではなかった.そこで,C. cursorは新コロニーへのワーカー数やワーカーサイズの配分を,営巣地の資源競争の強さをもとに調節していると考え,コロニー密度を様々に変えた環境(エンクロージャー)にコロニーを“移植”する実験でこの可能性を検証した.その結果,移植コロニーは野外で見られるよりも,より大きな新コロニーを少なく生産する場合があり,巣分かれにおいて環境に応じた資源配分を行っていることが示唆された.さらに,個体ベースモデルを用いて,コロニー創設の成功率を巣分かれ型(DCF)と独立創設型(ICF)で比較する計算機シミュレーションを行った.解析の結果,開拓戦略と競争戦略のトレードオフにより,広いパラメータ範囲で2つの営巣戦略は共存可能であり,環境の不確定性が共存を促進することが示された.

(岡田訳)