ユーザーにとっての一番の基本は、あらゆる技術的知識以前に:
の2つを十分に考慮すること。
例えば、サービス元が GAFA のような巨大企業であれば、セキュリティ問題やプライバシーの侵害が生じると巨額損失を抱えることが通常なので、ユーザー個人の情報を違法に悪用して利益を得ることは推定しにくい(合法でどのようなことが行われているについては後述)。逆に、零細企業がサービス提供元の場合は、詐欺行為によって短期的な利ざやを狙っていないことを判定できるまでは、十二分に気をつける必要がある。
なお、 Wikileaks の活躍などで明らかにされているが、サービス提供元も政府(特に米政府)には情報提供することがある。 2019年春には、トランプ政権による Huawei 禁輸、これに伴う Google などの Huawei へのサービス提供停止は、中国政府などへの秘密漏洩を懸念してのものである (参照: Reuter 2019年5月24日 記事)。こうした動きに対して、 Huawei は "no spy" 契約を結んでも良いと会見で述べている (National Public Radio 2019年6月4日)。このように、情報サービス提供者が政府とどのような距離感でつきあっていくかについては、常に最低限は注意を払っておく必要があろう。
受講者の皆さんは東工大生であるから、東工大の情報システムに被害を与えた時に自分の被る被害も大きいであろうことを十分に想像して、東工大情報システム周りのセキュリティについてはとりわけお気をつけください。
情報リテラシー第一の最終回では、今日の様々な情報ソースの特徴や信頼性について検討する。
顕著的な実例として、製薬やバイオでは、一流誌で採択された論文でも必ずしも再現性が高くないことが指摘されてきた。
そもそ論文の査読は大変な仕事である。さらに、近年、データサイエンスなどの著しい進歩によって、研究の統計処理についても相当の専門性が要求されるようになってきている。以前より、様々な領域での統計処理で問題視されている研究手法としてはHARKing, P-Hacking がある。
業績のプレッシャーが強い研究者と資金不足のマイナーな学会や悪質出版社の思惑が一致したり、後者が前者を騙したりすることによって、低質な論文出版がなされることがある。その極端な例がハゲタカ・ジャーナルである。
後述するように、研究者によっては、マスメディアなどが論文の具体的な内容の審査能力を持たないことを悪用して、低質なジャーナルで研究を発表して、それを各種発言の根拠や次のポストの研究業績書として利用してしまうこともあり得る。
特段、学問分野の専門家でない教育委員会などの影響が教育内容に及ぶことがある。
2014年 教育基本法 が改正された。特に、第二条五項の運用が政権の意向によるところが大きいことが懸念されている。
教科書採択は各自治体の教育委員会によって行われる。各科目の専門家からなる教科書取扱審議会(例:横浜市)の答申内容と異なる教科書を採択することもあり得る。
NHK は公共放送であるが、国会の議席の状況によっては、与党の意向がそのまま反映されてしまうリスクもある。2014 年には、会長が「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」などと発言し、公共放送の公共性が問われることとなった。
民放についても、総務省の意向を無視することもできず、コマーシャルのスポンサーの意向を忖度したコンテンツ中心になるのは、世界的傾向でもあるように見える。
マスコミと科学者双方のインセンティブについて考えることが重要である。
まず、マスコミで名声を得るインセンティブが強い学者(その故障に値しない人たちも混ざっている)と一流論文誌や学会での業績がインセンティブの中心である学者の両方がいることに注意されたい。
マスコミ側のインセンティブについては、とりわけ日本では、コンテンツの妥当性よりはそのインパクトに大きなウエイトが置かれている傾向が強いように見える。健康系や経済関連コンテンツではその傾向が強いように見える。これと、真っ当な学会活動以外での活動を主要なインセンティブとする学者(?)の思惑が一致すると、かなり悲惨なことが起こり得る。
著しい事例の一つとして、子宮頸がんワクチン (日本語 Wikipedia) HPV_vaccine (Wikipedia English) を見てみよう。 まず、この項目は、水素水と同様に、日本語の記事のほうが英語の記事よりも遥かに分量が多い大変珍しい学術項目であることに注意されたい。 世界中で認可されているにもかかわらず、厚労省研究班や自治体などとマスコミが一体となって、ワクチンに「副反応(副作用と異なる特有の用語)」があるとの見解から、接種率が非常に低い状況が続いている。2018年5月11日には、厚労省研究班の拠り所となっている論文が投稿先の英科学誌によって撤回された。こうした中、反ワクチン運動の報道量に比べて、世界のスタンダードに則った啓発活動をしている医師村中璃子のジョン・マドックス賞 受賞もほとんどマスコミで報道されていない模様である。
HPV ワクチンに比べると罪は軽いかもしれないが、治験などの成果をセンセーショナルな見出しで報道し、読者の眼を引く誘惑が世界中のメディアにあるようである。
2019年春にはドイツで人気の若手ユーチューバーがメルケル首相の与党・キリスト教民主同盟(CDU)を批判する動画をインターネット上にアップしたところ、5日間で540万回以上も視聴された。CDUは影響力を無視できなくなり、A4で11ページに及ぶ長文の反論を23日、党の公式ホームページに公表する羽目になった。(朝日新聞デジタル 2019年5月24日 「人気ユーチューバーの批判に大慌て 独与党、異例の対応」) このように、今日、 SNS やそれ上のインフルエンサーはマスコミに引けを取らない影響力を持ちつつあるといえる。
現在でも続いている SNS の著しい特徴の一つとして、2016 年の米大統領選挙でトランプ共和党候補が嘘の連発にも関わらず勝利したことで、 Oxford Dictionary: Word of the Year 2016 に選ばれたポスト真実 post-truth (「ポスト」とは、「の後」という接頭語) がある。主要原因としては以下の要因が考えられるだろう:1) 行動経済学 behavioral economics のような心理学関連領域で研究が進んでいるが、ヒトの心の特徴の一つに確証バイアス confirmation bias があり、我々は自説を強化する方向で思考しがちなこと、 2) 忙しいため、拡散されてきた情報 (典型的には記事などのリンク) のソースを読み手が精査しないで再拡散する傾向が強い (参照 https://blog.hubspot.jp/14-ways-to-increase-your-ctr-rate-on-twitter)、 3) SNS プラットフォームのアルゴリズムがユーザーの好む発言を提示する傾向にある。
2019年春の日本におけるわかりやすい事例としては、映画『主戦場』にまつわる Twitter 上でのやりとりがある。Twitter のような SNS の多くは、アクセスしたい具体的なコンテンツが定まっている場合はアカウントを取得しなくても見ることができることができるので、自分の目でチェックしてみて欲しい。
Google や Google が買収した Youtube などの各種サービスについては、検索やオススメ表示のアルゴリズムの作り込みによって、どういうコンテンツが皆さんに表示されるかが大きく影響を受けることに注意する必要がある。
検索エンジン最適化 Search Engine Optimization (SEO) を始めとして、アルゴリズムに対しては、コンテンツ提供者たちは様々な対策を打っている。
2019年4月12日に突如現れた Twitter アカウント @justsaysinmice が、記事での研究における実験が「マウスで行われた in mice」とたった一言つぶやく活動を続けたところ、1週間で4万人以上のフォロワーを獲得した。
幸いなことに、この人の活動によって、少しずつは、試験対象がマウスであることを明記する発表・報道が増えてきているようである。