Teaching

竹内幹(2020)ティーチングアワード総長賞「学ぶ者として学生も教員も同じ」という姿勢で、大教室の学生一人ひとりと向き合う.pdf

早稲田大学ティーチングアワード総長賞

238名(89.5%)の学生さんが「ティーチングアワードに推薦する」としてくれました。皆さまからのご支援に心から感謝いたします。ありがとうございます。たくさんいただいた推薦の言葉は「学生さんの声」 に抜粋しました。

教育理念

教師になることは謙虚になること

謙虚であることによってこそ、優れた講義や指導をできる理想的な教師になれると私は信じています。私は以下にあげる3つの理念をもち、謙虚であり続けるようと心がけています。

1.「己の無知を知ること」

教師をしていると、自分が学生に知識を授けているという錯覚を覚えてしまいがちです。もちろん、ある特定の分野について、教師は学生よりも知識があるかもしれません。しかし、そうした比較自体が不適当なものだと私は考えます。なぜなら、それによって教師が誤った優越感をもってしまいかねないからです。

子どもの頃、母は私の疑問を軽んじることはなく、必要なときには常に辞書や百科事典にあたったものです。「なにかを知っていると言うときは、本当にそれについて全部わかっている時だけにしなさい」と繰り返し言われました。そのおかげで、同様の心構えが私にも備わっているように思います。私は、自分が間違っているかもしれないと問い続けることで、様々な視点に立ちながら、自分の授業計画を見直すことができていることを望んでいます。この良い意味での懐疑的な態度によって、わかりやすい講義をすることができるのだと思います。同様に、自分の理解が不正確かもしれないと常に思いとどめておくことは、学生からの質問を軽んじることを不可能にし、どんな質問にも誠意をもって対応することを可能にするはずです。

こうした事情から、オフィスアワーで学生からの質問に答える際には、ただ答えるだけでは不十分で、その答えの後に来るであろう次の質問にも答えたくなります。講義ノートや教科書を見るだけでなく、専門書・論文なども援用しながら質問を検討することがよくあり、私のこうした態度が学生の向学心に良い影響を与えていてほしいと願っています。

2.「お客様」としての学生

学生を「お客様」扱いをすることは、近視眼的に満足度を高めることでは決してありません。学生のみなさんが、講義が終わったときも、大学を卒業するときも、人生のなかばで大学時代を振り返ったときも、人生を振り返ったときも、それぞれのときに、意義があったと感じてもらえる教育をすることこそが最も重要だと信じています。

以上をふまえたうえで、それでも「お客様」に対応するごとくに、教師も学生に接するべきだと信じています。例えば、テストの成績が良くなかったときに、それを学生の責任だと言い切ることは極めて容易です。しかし、私たち教師は自らの教え方にその原因があることも考慮にいれ、学生の成績が芳しくないことについて責任を持たなくてはいけません。仮に学生に教室に来るモチベーションがなかったとしても、小テストや出席点ではなく、あくまで講義内容を通じて学生がクラスに来たくなるように刺激を与えたいと思います。

私は学生と話をするとき、腕を組んだりしません。他の人に学生について話すときは「学生さん」と言いますし、ほとんど全ての学生の名前を覚えて、名前で呼べるようにしています。学生の質問に対しても感謝の気持ちを忘れません、なぜなら質問という参加が講義をより豊かなものにするからです。こうした心がけによってこそ、学生を尊重し、責任を持った講義や研究指導ができるようになると思っています。

3.チームスポーツとしての講義

ある人たちがスポーツに興奮を覚えるのと同様に、聴衆の前に立って講義をすることは私にとって最も刺激的なことです。実際、講義を終えるたびに、私は高揚感を覚え、心拍が上がっているのを感じます。おそらくこれが、学生の多くが私を熱意ある教師だと見なしてくれる理由でしょう。講義をする歓びは学生との関わりにもありますので、クラスのサイズにかかわらず、学生に自然と講義の一部に参加してもらえるよう努力しています。そうした講義に出席してもらうことで、高い学習効果もねらえるはずです。そのために、講義のスタイルだけでなく、ちょっとした実例を必ず教材に取り入れるようにしています。

例えば、経済数学を教えたときには、テキストに出てくる概念を使った“頭の体操パズル”を懸賞付クイズとして毎回出題しました。外国語としての日本語を教えたときには、文法よりも文化的側面に興味があるようだったので、和服を着て講義をしたり、授業前には毎回、日本の文化・生活・習慣についてスライドやビデオで紹介しました。教室の外でも常に日本語や日本について考えてもらうようにと、学生向けにブログを書きました。こうした努力は、私が自分の授業をチームスポーツとして、あるいは双方向の演劇として楽しむことにとっても大切なのです。


以上のコンセプトを常に心にとどめ、良き教師でありたいと思っています。教えること自体が私を心身ともに充実させますし、それで学生の役に立つことができれば、これほど喜ばしいことはありません。

2018年改訂・2006年5月初版

大学院・学部における教育方針

大学院

大学院博士課程では、アカデミアで活躍できる研究者を育てることが目標です。したがって、既存の研究枠組にとどまることなく、自由に新分野を開拓できるフロンティア精神を大事にしたいと思います。

その自由な研究精神が飛翔する前提として、大学院の修士課程では、基盤となる論理的思考法やリサーチクエスチョンの立て方、先行研究の見つけ方を身につけることが重要です。さらに、英語文献を正確に読んだり、統計分析も自分で応用したりすることができるように指導しております。これらの思考法やスキルは、仮に博士課程に進学しなかった場合でも、その後のキャリア形成において有用なものです。

学部

学部学生の皆さんには、まず、講義を通じて「教養としての経済学」を身につけてほしいと考えています。将来どんな職業に就くとしても,経済学の考え方が助けになるからです。また、社会の一員として重要な責任を果たすときに、彼らが大学で学んだという経験がいきると私は信じるからです。

そのうえで、各々が取り組める経済学の専門分野にあっては、修士課程の大学院生と同じレベルで先行研究に触れるように指導しております。それによってこそ、経済学が科学として分析対象にどのようにアプローチするのかについて一定の理解が得られるからです。

私のゼミでは、自分が興味を持っている社会問題について、経済学的な思考の枠組みを使って説得的な主張を展開できるようにすることを目指します。自分とは違う意見を持つ人を説得するため、どんな材料を集めたらよいか。マスメディアや官公庁が公開している資料や学術論文など、膨大な資料の中から必要なものを探し出す方法が身につくようにします。また,それらを上手く組み合わせて説得力のあるプレゼンテーションをするための、編集方法、文章構成や話し方といった技術を磨くことも目標にします。

以上のような調査にとどまらず、学部学生でも研究活動に従事できる知識と意志をもった人には、研究の要求水準をあげて、学会発表に挑戦してもらっています。

このように、学生さんひとりひとりが成長し、卒業してゆく姿を見送ることが使命だと思っております。

2018年改訂・2008年

リーダーを見つけ、育てたい.pdf
早稲田大学広報「早稲田ウィークリー」にて講義内容を紹介していただきました。