温暖化や貧栄養化により、湖沼の一次生産(植物プランクトンの光合成量)は減少すると予想されています。琵琶湖でも、漁獲量の減少が一次生産の減少に起因するといわれてきました。しかし我々が過去の文献と観測をもとに、1960年代からの一次生産量の変化を調べたところ、そこまで大きく減少しているわけではないことが分かりました(Kazama et al. 2024)。
一方、温暖化により減少すると考えられていた、動物プランクトンが食べられない大型植物プランクトンの生産が、まだまだ高いことも見えてきました。こうした一次生産の質的評価については、これまで長期的な調査はほとんどされていません。しかし、一次生産量が減少すると同時に、質的にも悪くなってしまえば、生態系における物質循環の健全性は損なわれてしまう可能性があります。
では、ため池ではどうかというと、どうも中間のサイズが多いようです。
植物プランクトンを大型(>20 μm)、中型(2~20 μm)、小型(< 2 μm)に分けてみると、1年を通して中型が最も多いことが分かりました。しかも、栄養状態の異なる3つの池で、共通して見られたパターンでした。したがって、ため池では動物プランクトンが利用しやすいエサが多いことが示唆されました。
関連→ https://shse-maga.com/study/2583
しかし、その理由はまだよくわかっていません。ひとつ言えそうなのは、中型サイズの光合成活性は小型や大型サイズよりもやや高い傾向にあり、強光ストレスも低いということです。
植物プランクトンには、さまざまな「サイズによる制約」があるといわれています。例えば、大きくなればなるほど食べられにくくなりますが、分裂速度が遅くなります。大型の細胞は、体積に対する表面積の割合小さいため、「自己被陰」によって細胞内の色素量を低くせざるを得ません。これにより、光合成の際により多くの光を必要としますが、その分、強光ストレスに対する感受性も低くなります(Kazama et al. 2022)。逆に、小さい細胞は色素密度が高く、光に対する感受性が高くなりますので、弱い光環境が得意ですが、強光ストレスに対して敏感になります。琵琶湖では、常に大型細胞のほうが光合成のストレスが低いことが分かっています。
しかし、なぜため池では中間のサイズが元気なのでしょうか?
ため池は浅く、光が豊富な環境です。さらに、風によって上下に混合されやすいことから、植物プランクトンにとって光環境は一日の中で大きく変動します。すると当然、光ストレスも高いはずです。しかし琵琶湖と異なるのは、栄養塩です。光ストレスによって光化学系の反応中心にダメージを受けると、反応中心はすぐに修復されます。このとき窒素やリンが必要ですが、ため池は底泥からの溶出や陸域からの流入が頻繁にあるため、ダメージを受けてもすぐに修復できる可能性があります。
栄養塩が豊富な環境下では、中型のサイズが最も有利であるという実験結果があります (Unimodal pattern, Maranón et al. 2013 LO)。細胞が大きくなると、成長は物質の内部輸送や同化速度に制限されます。逆に細胞が小さすぎると、成長に必要な細胞小器官を配置するスペースがなくなりますし、栄養の貯蔵ができなくなります。その点、中間サイズが最もバランスが良い、というわけです。
では、どのため池でも中間サイズが多いのでしょうか?実は、ある環境下では中間サイズが少なくなることも分かっています。現在、その謎について研究を進めています。