湖沼一次生産の量的・質的評価
温暖化や貧栄養化により、湖沼の一次生産(植物プランクトンの光合成量)は減少すると予想されています。琵琶湖でも、漁獲量の減少が一次生産の減少に起因するといわれてきました。しかし我々が過去の文献と観測をもとに、1960年代からの一次生産量の変化を調べたところ、そこまで大きく減少しているわけではないことが分かりました(Kazama et al. 2024)。
一方、温暖化により減少すると考えられていた、動物プランクトンが食べられない大型植物プランクトンの生産が、まだまだ高いことも見えてきました。こうした一次生産の質的評価については、これまで長期的な調査はほとんどされていません。しかし、一次生産量が減少すると同時に、質的にも悪くなってしまえば、生態系における物質循環の健全性は損なわれてしまう可能性があります。
本研究室では、湖沼一次生産の量的・質的動態に影響を与える要因の解明に向けて、研究に取り組んでいます。
さまざまなアオコ抑制技術開発
富栄養なため池には頻繁にアオコが発生し、悪臭や景観の劣化だけでなく、水生生物にも影響を及ぼしています。
ヨシなどの水草には、アレロパシー効果(他感作用)によって植物プランクトン、とくにアオコの原因となるラン藻を抑える効果が示されています。さらに近年では、水草の表面に発達するバイオフィルムの中にいる細菌が、藻類の増殖を抑制したり、殺藻したりする例が見つかっています。湖沼でよく目にするヨシもアレロパシーと細菌によってアオコを抑えると考えられていますが、その詳しいメカニズムは不明です。後者については、どのようなため池環境のバイオフィルムでどのような細菌群集が形成されているのか、最もアオコ抑制効果があるのはどのような細菌群集か、旭硝子財団の助成金により秋田県立大学と共同研究が進行中です。
これらに加えて、京都大学、ウシオ電機株式会社と共同で、222 nm のUV照射を用いたアオコ除去に関する技術開発研究が進行中です。
クロロフィル蛍光を用いた植物プランクトンの光合成測定
真核植物プランクトンの持つアンテナクロロフィルは、青い光(450~470 nm がよく使われる)を当てることで励起され、赤い蛍光(680 nm前後にピークを持つ)を発します。蛍光の変動と光合成によるO2発生はよく連動していることから、光合成の相対的な活性や、ストレスの度合いを測るために用いられています。
一方、CO2固定速度も同時に推定する試みがされてきましたが、淡水では青ではなくオレンジの光を利用するラン藻が多く、測定が困難でした。近年、青だけでなくオレンジの励起光(620~630 nmがよく使われる)を持つ蛍光光度計が市販されており、淡水植物プランクトン群集における光合成量の測定が容易になることが期待されています(Kazama et al. 2021 PLOS ONE)。
また、蛍光の変動は光合成に関連する栄養塩取り込みとも連動しているとされています。この栄養塩誘起蛍光変動(NIFT)を用いて、プランクトンの栄養状態をリアルタイムで診断する手法開発を進めています。
ため池の物質循環の解明
ため池のような小規模湖沼は、これまで二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの放出源と考えられてきましたが、最近の研究により、必ずしもそうでないことも分かってきました(たとえばGlibert et al. 2017; Webb et al. 2019)。では、どのようにすれば二酸化炭素の貯留量を増加させ、効率的に貯留させることが出来るのでしょうか?ため池の物質循環は、池の動植物相もさることながら、周辺の土地利用など、さまざまな環境要因に影響を受けると考えられます。メカニズムの理解には、それらを一つずつ紐解いていく必要があります。
また、魚など水生動物の住みかとして成り立つためには、餌となる動物プランクトンと、それを支える質の良い一次生産が必要です(上記参照)。しかし、ため池の保全・整備の議論において、生物の生息地となるポテンシャルである一次生産の面から評価されることは、ほとんどありません。
本研究室では、ため池の物質循環と生物生産という、新しい面に光を当てた研究を進めています。
ドローンを用いたため池の構造および生物相の解明(仮)
池環境を知る重要な手がかりである水深や底の地形、水草の植生といった情報は、必ずしも調査が簡単ではありません。さらに、ため池は季節によって水位が大きく変動し、面積も日々変わります。そこで、飛行タイプと水中タイプのドローンを併用する調査方法について、姫路科学館の宮下直也氏と共同研究を進めています。