以前「触覚研究のための振動子」を紹介したところ,ありがたいことに反響があったため,振動提示に必要なほかの要素についても執筆することにしました.振動感覚を提示するためには,大まかに「波形生成」→「波形出力」→「波形増幅」→「振動子駆動」という流れで行われます.前回の記事では最終段の「振動子」のみを紹介しましたが,本記事では「波形増幅」を行うアンプについて記載したいと思います.
免責(著者の知る限り記載しますが、抜けや誤りがあるかもしれません。また、本ページを参考にした際のトラブルなどに関しては著者は責任が負えないため、自己責任で購入及び実験をお願いします.)
前述のように振動提示は「波形生成」→「波形出力」→「波形増幅」→「振動子駆動」という流れで実施されます.各段階の特徴を知ることで,自分の目的・スキル・環境に合った振動提示装置を構築することができます.
振動を提示するためには,振動子に対してなんらかの電気的な波形を入力することで,振動子を駆動させます.入力した波形がそのまま振動の感覚となるため,触覚研究の分野では多くの波形生成の研究が行われています.生成する波形は入力する波形は駆動する振動子によって異なるため,振動提示を実施する際には各振動子に対してどのような波形を用意する必要があるのか,波形と感覚との関係性などを知っておく必要があります..
用意した波形は何らかの方法で電気的な波形として出力します.出力する方法は複数ありますが,駆動する振動子の数や種類によって,波形をいくつ生成するのか,生成した波形をどのように出力して増幅器へ接続するのか,なども考慮する必要があります.
多くの出力された波形は,そのままでは振動子を駆動するほどの電圧・電流がありません.よって,波形を増幅するためにアンプを用います.本項目では,利用難易度,価格,出力電力,サイズなどの観点から振動提示に利用されるアンプを紹介します.
増幅された波形を振動子に入力すると振動子が振動します.振動子の種類や具体的な商品の紹介は前回記事で実施しているので,参考にしてください.
オーディオアンプは振動波形を増幅する手段として最もお手軽であるため,よく用いられる方法です.オーディオ関係の商品はすでに多くの出力・サイズ・価格で市販されているため,用途に合った商品を選びやすいです.下記に触覚研究において使いやすそうな商品を紹介します.
良い点:実装に必要な技術力が低い,接続すればすぐ動く
悪い点:それなりに高価,パッケージ化されているため実装の自由度が低い,多チャンネル化させると電源接続やサイズ問題がある
コメント:安価で.高出力なオーディオアンプです.入力端子はAUX(オーディオケーブル入力),RCA端子,出力端子はケーブル挿入となっています.最安で済ませたい方にはおすすめですが,下記NS-01G Proが買えるのであれば,そちらのほうが使いやすいかと思います.
AK270 (https://amzn.asia/d/0a7nplW)
発売元:ノーブランド
価格:2280円/個
販売:Amazon . (https://amzn.asia/d/0a7nplW)
コメント:小型で高出力なオーディオアンプです.他の製品と比較して,音声信号の入力方法がAUX(オーディオケーブル入力),USBオーディオ,Bluetoothと複数ある点や,出力端子も配線ネジ止め,バナナプラグと複数ある点が優れています.付属品も多く,コスパも良いのでおすすめです.
NS-01G Pro (https://amzn.asia/d/2dC5EeS)
発売元:Nobsound
価格:4325円/個
販売:Amazon . (https://amzn.asia/d/2dC5EeS)
オーディオアンプは上記のように多くのタイプがすでに市販されています.しかし,多くがオーディオ鑑賞が使用目的であるため,パッケージ化されているため大きい,ACアダプター接続が必要でポータブル化しにくい,などの課題あります.そこで,オーディオアンプの基板のみがいくつか発売されており,デバイスへの組み込みや省スペース化など用途があると思います.ここでは,カテゴリはオーディオアンプですが,基板のみで市販されている商品を紹介します.
良い点:小型・安価であるため,実装の自由度が高い
悪い点:実装にそれなりの技術力(はんだづけ,電源設計)が必要
コメント:1.45Wの1chのアンプ基板です.
TPA2006 (データシート)
発売元:Texas Instruments
価格:300円/個
販売:秋月電子 . (https://akizukidenshi.com/catalog/g/g108161/)
コメント:3Wの2chのアンプ基板です.パッケージが5個入りであるため,かなり安いです.
PAM8403 (データシート)
発売元:Diodes Incorporated
価格:595円/5個
販売:Amazon . (https://amzn.asia/d/h8pawfS)
コメント:2Wの2chのアンプ基板です.かなり小型ながら,Vp2クラスの振動子を2つ駆動できるアンプ基板です.Vp2までの大きさの振動子であればこちらのアンプ基板がおすすめです.
PAM8012 (データシート)
発売元:Diodes Incorporated
価格:300円/個
販売:秋月電子 . (https://akizukidenshi.com/catalog/g/g108217/)
コメント:15Wの2chアンプ基板です.コスパが良く,複数の中程度振動子を駆動する際に便利です.
PAM8610 (データシート)
発売元:Diodes Incorporated
価格:950円/3個
販売:Amazon . (https://amzn.asia/d/47SwzHb) (類似品がAmazonに多く出品されているのリンク先が欠品でもPAM8610で検索すれば見つかると思います.)
コメント:20Wの2chアンプ基板です.
PS-3246(製品ページ)
発売元:エレキッド
価格:4400円/個
販売:エレキットストア . (https://www.elekit-store.com/view/item/007001000017)
コメント:30Wの1chアンプ基板です.
DY-AP3001 (データシート)
発売元:ノーブランド
価格:345円/個
販売:Amazon . (https://amzn.asia/d/0IuYjU5)
コメント:オーディオアンプと振動子を接続するケーブルが必要となります.以下に接続に必要な部材や機材を記載します.
商品カテゴリ:ケーブル,商品名:KV 0.2sq(7/0.18) ツイスト線(赤×黒),価格:83円/1m
商品カテゴリ:バナナプラグ,商品名:NOSTALSIC バナナプラグ 赤+白セット ソルダーレス,価格:990円/1パック
商品カテゴリ:ワイヤーストリッパー,商品名:VCELINK GJ702,価格:1499円/個
商品カテゴリ:圧着工具,商品名:ホーザン(HOZAN) 圧着工具 P-706,価格:4291円/個
商品カテゴリ:圧着コネクタ,商品名:電線対基板用コネクタ 2.5mmピッチ ハウジング 5051 ,価格:149円/1パック
商品カテゴリ:圧着コネクタ,商品名:電線対基板用コネクタ 2.5mmピッチ ウエハー ストレートタイプ 5045,価格:299円/1パック
商品カテゴリ:圧着コネクタ,商品名:電線対基板用コネクタ 2.5mmピッチ ターミナル 5159,価格:799円/1パック
コメント:オーディオアンプ基板を使用する際,デバイス全体の小型化やモバイル利用を目指すためにアンプのバッテリー駆動も検討されるかと思います.著者は比較的簡単かつ安全にバッテリー駆動するために,市販されているスマホ充電用のモバイルバッテリーを転用しています.USB Power Delivery(以下 USB PD)を採用したモバイルバッテリーから高い電力を得るために,USB PDトリガー基板(USB PD充電デバイスのふりをして,指定した電圧をバッテリーから出力させる)を利用します.
商品カテゴリ:USBトリガー基板,商品名:USB-PD_Adapter PDA-02S,価格:2200円/個
商品カテゴリ:USBトリガー基板,商品名:100W対応 eMarker内蔵 USB PD トリガーデバイス,価格:980円/個
商品カテゴリ:USB PDモバイルバッテリー,商品名:Zendure SuperMini 5k ,価格:3980円/個
商品カテゴリ:USB PD対応充電ケーブル,商品名:Anker PowerLine III,価格:990円/個
主にLRAを駆動するためのハプティックドライバーというものが販売されています.この基板はマイコンなどから司令(ON/OFF,振動周波数・振幅)を送ることで振動子を駆動することができます.波形生成の知識が必要なくなるため,簡単に振動提示を実現することができます.
良い点:波形のことを考えずに振動パラメータ司令を送るだけで振動提示が可能
悪い点:細かな波形調整などが困難
コメント:LRAをI2C通信で駆動可能
DRV2605 (商品ページ)
発売元:Texas Instruments
価格:1699円/個
販売:スイッチサイエンス . (https://ssci.to/2178)
コメント:LRAをI2C通信で駆動可能
DA7280 (データシート)
発売元:Dialog Semiconductor
価格:3412円/個
販売:スイッチサイエンス . (https://ssci.to/7205)
ピエゾを用いた振動子は一般的に高電圧を必要とします.よって,他の振動子と違いオーディオアンプを振動子用に転用することが難しく,専用のアンプが必要となります.各ピエゾで必要な電圧はことなりますが,それらを駆動するドライバーも発売されています.使いやすさを重視し,本記事では評価ボードがあるもののみを紹介します.
良い点:ピエゾタイプの振動子を駆動できるほど高電圧に対応している
悪い点:他の振動子にはほぼ転用不可能である
コメント:ピエゾを駆動できるドライバーの評価ボードです
BOS1921-KIT-B01 (データシート)
発売元:Boreas Technologies
価格:38904円/個+送料
販売:DigiKey . (https://www.digikey.jp/ja/products/detail/boreas-technologies/BOS1921-KIT-B01/21704166)
コメント:かなり小型な基板でピエゾを駆動できるドライバーです
価格:63USD/個+送料
販売:piezoDrive Store . (https://www.piezodrive.com/product/pdu100-micro-piezo-driver/)
Hブリッジ回路を用いたモータードライバーは一般的にはDCモーターやステッピングモーターの制御に用いられます.しかし,モーター接続用のピンに振動子を接続すると,正負の電圧信号によって振動子も駆動することができます.Hブリッジ回路によるモータードライバーは多く発売されているため,多くは紹介しませんが,研究室で使っているものを紹介します.
良い点:小型・安価であるため,実装の自由度が高い.オペアンプと比較して単電源で正負どちらの信号も出力可能
悪い点:実装にはんだ付けが伴う.マイコンで駆動する必要があり,その駆動も難しい.
コメント:Hブリッジ回路が2つ搭載されているモータードライバーです.振動子は2つ接続可能です.
価格:550円/個
販売:秋月電子 . (https://akizukidenshi.com/catalog/g/g109848/)
主に偏心モーターなどのDC信号を用いて駆動する振動子のための方法です.多くの場合,偏心モーターを制御するためにマイコンからON/OFF信号や,PWM信号を出力します.しかし,それらの信号をそのまま振動子へ入力しても出力不足(電圧・電流不足)の場合が多いです.十分な電力を得るためにトランジスタやMOSFETを用いて,ON/OFF制御やPEM信号印加による振動強度制御を行います.トランジスタやMOSFETは多く発売されているため,一般的な商品を記載します.
良い点:小型・安価であるため,実装の自由度が高い.
悪い点:実装にはんだ付けが伴う.振動の制御はマイコンから出力される信号で実施するため,技術力が多少必要となる.
コメント:一般的なNPNトランジスタです.偏心モーターと接続して,入力したPWM信号で振動強度調整ができます.
2SC1815 (データシート)
発売元:東芝
価格:100円/1パック
販売:秋月電子 . (https://akizukidenshi.com/catalog/g/g117089/)
コメント:60V5Aが入力できる強力なFETです.ON/OFFで電源と接続させて偏心モーターを駆動できます.
2SK4017 (データシート)
発売元:東芝
価格:30円/個
販売:秋月電子 . (https://akizukidenshi.com/catalog/g/g107597/)
中程度の振動子(Vp2やFosterの振動子)を簡単に駆動するのであれば,NS-01G Proがおすすめです.PCとアンプをオーディオケーブルで接続し,PCから音声出力すれば振動となります.振動の強さ調整はアンプのボリュームを適切にした後に,PC側のソフトウェアで制御すればよいです.
同じく中程度の振動子を安く駆動するのであれば,技術力に自信がなければAK270,多少のはんだ付けや電源などが準備できるならPAM8012やPAM8403がおすすめです.振動子のコストも抑えるのであれば,偏心モータータイプの振動子をマイコン,電源,トランジスタなどを用いながら駆動すると安価で実現できます.どちらも5000円以下で実現できそうです.
中程度の振動子を駆動するならPAM8012,偏心モータータイプならMOSFETを採用した回路で実装すると小型で実現できます.
紹介した中では最も高出力な増幅はNS-01G Proで実現できます.
種類の紹介はあっても,それらを組み合わせた具体例がないと,自分の環境で再実装しにくいと思います.下記ページによくある振動子を駆動する構成を紹介します.各構成の特徴を実装難易度,駆動個数,コストなどを踏まえて記載します.