建物を建築する際には原則として確認済証と検査済証を取得する必要があります。ところが、30年前は検査済証を取得した建物は35%にすぎませんでした。これは日本社会が寛容であったであったことと、とりわけ検査済証を取得していない建物に対してでも金融機関が融資を行っていたことが原因かと思います。
近年では日本社会もコンプライアンスを非常に重視する傾向が強まるとともに、金融機関も検査済証を取得していない建物に対して融資を行わなくなりました。このため、検査済証の取得率は飛躍的に向上しています。
社会の流れとしていい方向に進んでいる訳ですが、ここで問題となってきたのが、30年以上前に建てられた検査済証を取得していない建物です。これらは古い構造基準に基づいて建てられているため耐震性に問題があったり、使い勝手が悪かったり、設備が老朽化していたりします。増改築や用途変更の時期を迎えている訳ですが、増改築や用途変更をするには原則として新たに確認済証を取得する必要があります。ところが、既存建物が検査済証を取得していないために新たな確認申請手続きに進むことができないのです。
既存建築ストックを有効に活用する観点から、この問題を解決するために国土交通省が平成26年7月に発表したのが「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」です。内容としては指定確認検査機関が既存の建物をこのガイドライン※に基づいて調査し、違反事項がなければ新たな確認申請手続きに進めることとし、また、違反事項があればこれを是正することによって新たな確認申請・完了検査に進めるようにするものです。
このガイドラインに基づいて行う調査を「建築基準法適合状況調査(通称:ガイドライン調査)と言います。次回以降ではこのガイドライン調査が大いに役立つケースについてお話していきます。
※「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン(旧ガイドライン)」は令和7年3月31日付で廃止され、令和7年4月1日からは「既存建築物の現況調査ガイドライン(新ガイドライン)」に一本化された。
【豆知識:検査済証のない建物】
検査済証のない建物は様々な問題に直面します。
・増改築: 増改築を行う場合、ほとんどのケースで建築確認申請が必要になりますが、検査済証がないと新たな確認申請ができません。
・用途変更: 200㎡を超える床面積を特殊建築物(共同住宅やホテル、店舗など)の用途に変更するには用途変更の確認申請が必要になりますが、検査済証がないと新たな確認申請ができません。
・不動産取引: 不動産売買でローンを組む場合、検査済証のない物件には銀行が融資をしてくれません。また、不動産の証券化やリノベーション再販事業でも、検査済証のない物件はそもそも検討の対象にすらなりません。
・コンプライアンス意識の高まり: 社会的なコンプライアンス意識の高まりにより、企業のビジネス展開にあたり法令や規制への遵法性が厳しく問われるようになりました。検査済証がない物件を所有・運営している場合、遵法性について問題を抱えてしまいます。