Research

光合成膜タンパク質の構造と機能に関する研究

  1. 植物の光化学系I-光捕集アンテナI超複合体に関する研究

光合成光化学系Iは,光エネルギーを利用してフェレドキシンに電子を供給し,炭酸固定の駆動力を維持しています。植物の光化学系Iは反応中心が光捕集アンテナIと形成する超複合体によって,100%に近い高い効率で光エネルギーを伝達・変換しています。これまで植物の光化学系Iの構造情報は3. 4 Å分解能と限られていたため、集光色素の正確な配置やその種類は不明な点がありました。我々は光エネルギーの高効率利用の仕組みを深く理解することを目的として植物光化学系I-光捕集アンテナI超複合体の良質な結晶を作り,その構造を原子レベルの2.8 Å分解能で決定しましたQin, Suga et. al., Science, 2015。この解析によって植物の光化学系Iのほぼ全ての集光性色素の位置と向きが正確に決定されました。これは光エネルギーの補足および伝達の経路やカイネティクスの解明を可能とする構造基盤が明らかになったことを意味します。この研究はインパクトの高さから構造生物学分野の日本の研究としては約10年ぶりにScience誌の表紙に掲載され、ワシントンポスト誌をはじめとする多くのメディアに取り上げられました。


  1. 緑藻の光化学系I-光捕集アンテナI超複合体に関する研究

光合成光化学系Iは,光エネルギーを高効率に利用して炭酸固定に必要な還元力を供給している膜タンパク質複合体です。光合成生物は進化の過程で集光性色素の種類や光捕集アンテナの大きさを変えて光環境に適応したと考えられています。緑藻は植物と同じ緑色植物に属しますが、植物とはシアノバクテリアの細胞内共生後、かなり早い段階で分岐しています。緑藻の光化学系は植物よりもさらに巨大な光捕集アンテナを持つことが知られており、これにより水生環境の弱い光エネルギーを効率良く利用することができると考えられていましたが、その分子基盤は不明でした。われわれは緑藻の植物光化学系I-光捕集アンテナI超複合体をクライオ電子顕微鏡で解析して2.8 Å分解能で立体構造を決定しましたSuga et. al., Nature Plants, 2019。この解析により緑藻の光化学系Iの持つ最大10個のサブユニットからなる光捕集アンテナ複合体の集光性色素の位置と向きを正確に決定することができました。立体構造によって、光励起エネルギー伝達に使用される経路や、緑藻の光高効率利用のための分子基盤が明らかになったと言えます。



これらの一連の研究で明らかになった光合成における光合成膜タンパク質複合体の構造基盤は,光エネルギーを高効率に利用するための知見を与えると期待されます。これらの研究は岡山大学沈建仁研究室や高橋裕一郎研究室との共同研究によるものです


図1. 植物の光化学系Iの立体構造

Science誌のカバーより



図2. 緑藻の光化学系Iの立体構造

光化学系Iの反応中心タンパク質(灰色)と光捕集アンテナタンパク質のサブユニットを色分けして表している。