- 呼称: フミキリさま
- 地域住民による呼称から判明。本報告書では便宜上「対象」と表記する。詳細は後述。
- カテゴリー: B級怪異
- 初調査に基づく判定。
- 登録番号: 指定乙種怪異-536号
20■■年■■月■■日 撮影
- 形態:
- 対象は身長約2メートルで、人型のシルエットを有するが、四肢とみられる部位は観測されていない。
- 裾の長い黒いマントとフードに身を包み、顔と推測される部分は常に影に隠れており、視認ができない。
- 胴体中央部には大きな穴が存在し、そこから微量の霊気が常時漏出している。
- 周囲には巨大な赤い裁ちばさみが浮遊しており、「まるで巨大な透明人間が持っているような」と表現されるように、本体に付随して周囲を移動する。
- 特性(機能):
- 地域住民への聞き取り調査により、古来より死者との縁を結ぶ存在として認知されていることが判明している。
- 儀式(後述)が成功した場合、出現場所である踏切の反対側に対象と共に死者が実体として出現する。この死者は生前の姿を保ち、意識を有した状態で会話が可能である。
- 死者の出現時間は最大15分間であり、この間に儀式の実行者(以下「生者」と表記)は死者との別れを告げたり、未練を解消したりする機会を得る。
- 儀式終了時には、対象が裁ちばさみを用いて手紙を切断することで、死者が消失し、対象も霧散するように消滅する。
対象を呼び出すためには、以下の条件を満たす儀式的手順が必須である。これらの条件は厳密な遵守が求められ、逸脱した場合には危険が伴う。
- 場所:
- 東京都 ■■市 ■■町 田園台■-■■、■■線 田園台駅の踏切。
- 時間:
- 深夜0時ちょうど。出現には時計の正確な一致が条件とされ、数分程度のずれでも失敗する。
- 月齢や天候(雨、霧、晴れなど)による影響は確認されていない。
- トリガー:
- 生者が死者の遺言が記された手紙(直筆である必要はないが、本人の意思が明確に反映されているもの)を持ち、踏切の中央に設置する。
- その後、目を閉じて以下の言葉を明確に唱える:
- 「フミキリさま、お切りください。」
- 唱えた後に目を開き、10秒以内に踏切の反対側に視線を移す。この手順を怠ると儀式が開始しない。
- 儀式の終了条件:
- 死者の出現後15分が経過するか、死者が「満足した」と感じた時点で終了となる。
- 終了時には対象が裁ちばさみで手紙を切り裂き、死者と共に消滅する。
- 後述するルール違反が発生した場合は、即座に手紙が裁ち切られ、対象および死者が消失する。
- 初確認:
- 20■■年11月5日、東京都■■市■■町の古い踏切において、SNS上で「死者と話せる踏切」という噂が広まったことを受け、八咫烏の調査チームが現地に派遣された。
- 現地住民への聞き取り調査の結果、怪異の存在およびその呼称が判明した。
- 発見経緯:
- SNS上の投稿が発端となり、地元の若者たちが「踏切で死者に会える」との噂を拡散した。これを受け、八咫烏の調査チームが現地に赴き、住民への聞き取り調査を実施した。
- 特に、地元住民や目撃者へのインタビューにより、怪異の呼称「フミキリさま」や儀式の詳細が明らかとなった。
- 評価:
- 隊員複数名および霊力装備を伴う対応が推奨される。
インタビュー対象: ■■■ ■■氏(地元在住の男性、78歳)
インタビュー日時: 20■■年11月6日
インタビュアー: 八咫烏隊員■■
[重要度が低いため省略。■■氏の発言には訛りが多く含まれているため、標準語に変換済み]
> ■■氏: 「あの踏切は昔から特別だった。子供の頃、祖母から『夜中に踏切で変なことをすると、フミキリさまが怒る』と聞かされていたよ。昼間は何ともないただの踏切なんだが、夜は昔から怖かったな。」
> 隊員■■: 「その、フミキリさまとは、どのような存在ですか?」
> ■■氏: 「見たことは無いから詳しくは知らんが、死んだ人と話せるって話さ。手紙を置いて、唱え言を言えば、踏切の向こう側に会いたいと思った死んだ人が現れるとさ。」
> 隊員■■: 「その唱え言とは?」
> ■■氏: 「なんだったかな……たしか、『フミキリさま、お切りください』だ。」
> 隊員■■: 「…ありがとうございます。そのほかに何か知っていることはありますか?気になることとか。」
> ■■氏: 「あの踏切は昔は川だった場所で、言い伝えによると死者と冥界の境界だったらしい。確か江戸時代だったかな?昔は川の神様がいたらしいんだ。今は埋め立てられてしまって踏切になっているけど、何か特別な力は残っているんだろうな…。ああ、後は気になることといえば、最近は若いもんが増えて踏切の近くで騒いでるのがよく聞こえるよ。あんたら警察の人だろ?何とかしてくれんかね?」
> 隊員■■: 「貴重な意見として上に報告しておきます。」
[記録終了]
インタビュー対象: ■■ ■■■氏(儀式の実行者、22歳)
インタビュー日時: 20■■年11月11日
インタビュアー: 八咫烏隊員■
[重要度が低いため省略]
> ■■■氏: 「先月、友人が…亡くなって、どうしても話したくてうわさに聞いていた儀式を試したんです。手紙を置いて、おまじない(※唱え言のことを指すと思われる)を言って……前を見たら、本当に友人がいたんです、踏切の向こうに。友人は「元気か、俺がいなくなった後も変わりはないか」って……(■■■氏が涙ぐむ)。でも…10分ぐらいたった後かな…?フミキリさまがいきなり手紙を切って……友人は消えちゃいました。話せた時間は少なかったし、怖かったけど……、ちゃんと別れを告げられて良かったです。」
> 隊員■: 「フミキリさまの姿はどのようなものでしたか?」
> ■■■氏: 「はい…黒いマントみたいなのを着た大きな人影が、踏切の端に立っていました。顔は見えなかったけど、赤い裁ちばさみを持って……(数秒間の思案)、いや、腕は無かったからハサミは空中に浮いていたんですけど……なぜだか持っているように感じました。」
> 隊員■: 「ありがとうございます。ではフミキリさまにはどのような印象を持ちましたか?先ほどは怖かったとおっしゃっていましたが。」
> ■■■氏: 「やっぱりおっきな黒いマントがはさみを持って浮いてるわけですから、怖いですよ。でも、友人も平気そうにしてたし、私と友人を合わせてくれたんだし……きっといい神様とかなんじゃないですかね?」
[記録終了]
インタビュー対象: ■■ ■■氏(目撃者、18歳)
インタビュー日時: 20■■年11月13日
インタビュアー: 八咫烏隊員■■
[重要度が低いため省略。注: 対象は激しく動揺していました]
> 隊員■■: 「では、あなたが見たことを教えていただけますか?」
> ■■氏: 「あいつ(被害者・■■氏の友人)が…あいつが事故で死んだ弟に会いてぇって言うから……つ、つ、ついて行ったんだよ…半信半疑だけど…。」
> 隊員■■: 「そして、ご友人が儀式を実行したのですね?」
> ■■氏: 「あいつがなんか手紙を踏切に置いて…おまじないだか何かを喋ったら…ふ、踏切の反対側にハサミとマントのバケモンみたいなのとあいつの弟が出てきて……笑顔で…俺は怖くなってあいつにやめようぜって言ったんだけどあいつは聞かなくて……(十数秒沈黙)。」
> 隊員■■: 「■■さん?」
> ■■氏: 「あ…あ、あ、あいつは弟の名前を叫んで…遮断機をくぐって……踏切が鳴ってるってのに、くぐって…、そしたら電車みてぇな音が聞こえて…あいつが、ふ、吹っ飛ばされて…ぐしゃぐしゃに…なってて…(嘔吐)。」
[記録終了]
- 近接時:
- 特筆すべき影響は認められていない。一部の人間が恐怖心を抱くことがあるが、これは外見に誘発される自然な反応と考えられる。
- 接触時:
- 物理的な接触は不可能である。対怪異用の通常装備を用いれば接触自体は可能であるが、行動の抑止はできない。
- 攻撃性:
- 通常時において、生者や出現した死者に対して敵対的行動をとることはない。ただし、儀式の実行には厳密なルールが設定されていると推測され、ルール違反(例: 時間外の呼び出し、手紙以外の物を捧げる、唱え言を誤る、強引に踏切を渡ろうとする等)が発生した場合、線路内に不可視の電車らしき存在が突如出現し、生者に致命的な被害を与える危険性が存在する。
- 状態:
- 現時点で不明。儀式のルールを厳守することで、安全に回避が可能である。
- ルール違反時には不可視の電車らしき存在が出現するが、これを回避する方法は現時点で不明である。適切な対霊的防護装備を用いることで致命的被害は免れるものの、存在の出現を抑止または討伐する方法は未解明である。
- 危険性:
- 中程度と判断される。儀式のルールを守れば安全に観察が可能であるが、ルール逸脱時のリスクが高く、未確認のルールが存在する可能性を否定できないため、顕現させる際には慎重な検討が必要である。
- 推測:
- 江戸時代に川の守り神として信仰されていた存在が、時代の変遷と共に踏切に宿った可能性が考えられる。信仰の衰えにより行動が不安定化している可能性も指摘される。 ※文切→踏切に変化したか
- 赤い裁ちばさみは、一般的な「縁切り」のイメージとは異なり、死者と生者の縁を一時的に結び直す役割を果たすと推測される。
- 儀式終了時に対象が裁ちばさみで手紙を切断することで、一時的につながった縁を解放し、死者を再び冥界へ送り返していると考えられる。
- 推奨事項:
- 儀式の詳細な調査と記録、一般への情報統制を推奨。