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(1)特集論考「尊厳ある縮退とコミュニティ(電子ジャーナル「災害と共生」第4巻第1号)」

尊厳ある縮退によるコミュニティの再生と創生 : 概念の整理と展望

渥美公秀

 縮退という概念を提示し、集落の再生と創生に関する先行研究を整理した上で、縮退による再生・創生を実施するための理論的基盤として尊厳概念を拡張し、実践的取り組みに資するツールを提案した。さらに、集落を舞台に尊厳ある縮退を論じることの意義を論じ、最後に、こうしたプロジェクトが従来とは異なる評価方法を確立する必要があることを指摘した。

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シュリンク・シュランク・シュリンキング : 縮小の「前」と「後」

矢守克也

 社会の縮小(シュリンク)に関するこれまでの思考や実践の多くは、それが完了した状態〈シュランク〉に注目し、発展・成長・達成という形式での完了―ユートピア―と縮小・衰退・消滅という形式での完了―ディストピア―とを対峙させる作業に終始してきたことに注目し、その現在進行形〈シュリンキング〉に焦点をあてた考察を行った。災害復興の基本指針として、従来のBuild Back Better(拡張・発展的復興)に対して、Save Sound Shrink(縮小・楽着的復興)を対置し、現在を、発展・成長・達成が完了した未来の時点を展望しながら見るのではなく、縮小・衰退・消滅が完了した未来の時点から遡及的に見ることの必要性を強調した。

その上で、「まだ」来ぬ、したがって、「まだ」防ぎうる縮小・衰退・消滅を、あえて「もう」完了したものとして受けとめる「デイズ・アフター」の視点を導入することで、現在のコンサマトリーな機能を再浮上させるとともに、縮小・衰退・消滅と正面から対峙するインストゥルメンタルな機能にも好影響を与えようとする実践についても紹介した。

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災害復興のパラダイスロストとパラダイムリゲインド : 尊厳ある縮退と「つなぐ」かかわり

宮本 匠

 人口減少社会の災害復興は新しいパラダイムを必要としているが、パラダイムシフトにあたり、まずはパラダイムが失われている状態、パラダイムロストにある社会が特徴的にもつ問題を分析することが、パラダイムの再獲得であるパラダイムリゲインドのために重要だと指摘した。パラダイムロストにある社会では、集合的否認が生じ、それが社会を加速度的に破綻させる可能性がある。集合的否認が生じるのは、現在の意味が未来へと疎外されるインストゥルメンタルな時間感覚が原因である。その克服には、〈待つ〉ということの再考から引き出される、被災者の少し先の未来と今をつなぐような「つなぐかかわり」によって、コンサマトリーな時の充実を回復することが重要だと結論づけた。

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地域内過疎地から考える「尊厳ある縮退」 : 兵庫県上郡町赤松地区を事例に

石塚裕子

 我が国の地方振興政策と過疎地域対策を概観し、近年の地方創生政策の課題を整理した。その結果、地方創生政策は、これまでの蓄積してきた内発的な地域づくりが活かされず、人口減少対策に課題が置き換わり、今後の地域社会を再構築していくプロセスになっていないと指摘した。その上で、過疎と都市の狭間にある「地域内過疎地」の存在に着目し、その特性と課題を兵庫県上郡町赤松地区のケーススタディを通じて検討した。「地域内過疎地」では「尊厳ある縮退」を検討する素地を持っていること、空間の縮小といった結果と地域活動というプロセスのバランスをとりながら縮退していく必要性を述べた。最後に、赤松地区住民との意見交換を通じて、住民が「尊厳ある縮退」を考えるためには何らかのツールが必要であることを確認した。

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ペットとともに、被災後のコミュニティを生き抜く : 熊本地震被災地におけるコミュニティ縮退と被災者—ペットの尊厳ある生の事例より

加藤謙介

 コミュニティの縮退と、そこに生きる人々の尊厳のあり方を論じるために、災害被災地における「ペット(家庭動物)」を介在するコミュニティの事例から検討を試みた。まず、被災地コミュニティの縮退をめぐる諸問題から、人々の尊厳のあり方に関する視点を整理した。次いで、「人とペットの関係」に関する議論から、特に、「災害」及び「ペットとの死別」場面において、コミュニティとの関係のあり方が、ペットとともに生きる人々の尊厳にとって重要な要因となることを指摘した。その上で、熊本地震被災地における「被災者-ペットコミュニティ」の形成過程、及び、ペットと死別した高齢女性の「喪失の語り」の事例から、被災及び「家族」との死別を契機とするコミュニティの縮退と、そこに生きる人々の尊厳を支えるための関係構築のあり方を論じた。これらを踏まえ、縮退するコミュニティにおける人々の尊厳のあり方について試論を述べた。

ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/77177/dak_004_1_049.pdf