概要

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課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(実社会対応プログラム)

尊厳ある縮退によるコミュニティの再生と創生

本プロジェクトは、「尊厳ある縮退」をキーワードとして、人口減少社会におけるコミュニティの再生・創生のプロセスを明らかにし、それらを多様な文化と共生するコミュニティの再構築手法へと昇華し、実務家による橋渡しを得て社会実装することを目的としている。研究チームは、実務家を含む12名で構成される。チームは、理論的背景・事例研究グループ、現場実践研究グループ、政策研究グループに分かれて2018年度から2022年度にかけて研究と実践を進めている。

研究フィールドは、研究チームが既に関わりを持っていた兵庫県赤穂郡上郡町赤松地区15集落(内2つは消滅しつつある集落)である。また、新潟県小千谷市、同県刈羽村、岩手県野田村など自然災害によって被害を受けたことを契機として研究代表者らが長期間にわたってフィールドワークを継続してきた地域を参照している。さらに、研究会のメンバーが個別に研究や事業を展開してきた奈良県十津川村や兵庫県尼崎市などをも視野に入れている。

理論的背景・事例研究グループは、人口減少社会において、住民の自発的意思によりながら集落を持続可能な形で存続する集落再生プロセス、および、同じく住民の自発的意思によりながら集落を閉じて別様の生活を目指す集落創生プロセスにおいて、尊厳ある縮退という概念の内容や位置づけを行う。また、研究チームが関わってきた各地の事例を過疎地活性化や集落創生といった観点から再整理し、その背後にある理論的基盤についてまとめてきている。

現場実践研究グループは、兵庫県赤穂郡上郡町赤松地区の15集落について調査・実践を行う。15集落には、集落創生プロセス、集落再生プロセスを選択する集落が混在する。まずは、「集落問診票」を用いた集落診断を実施し、都市計画・まちづくりや公衆衛生学の知見を援用しながら、集落の地域活動(顔あわせ指標)、ネットワーク資源(つながり指標)、集落文化(結びつき指標)を自己確認するとともに、他己確認(集落間)の場を用いて、集落の伝統行事の継承や暮らしを支えるコミュニティ機能(介護、育児、弔い等)の相違点を確認し合い、「集落再生」、「集落創生」上の課題を具現化しつつある。また、集落問診票をもとに集落再生と集落創生のプロセスを住民自身が選択するための仕組みを「集落夢会議」として導入していく。

最後に、政策研究グループは、集落再生と集落創生を支える法制度的基盤について検討している。ただ、実効性を高めるためには、最前線で政策を実践する人々、すなわち、行政職員と住民との関わりをつぶさに検討する必要がある。現在は、集落再生・創生を担当する行政職員のネットワーク化による実践と政策提案が目指されている。

なお、成果は、多様な住民(高齢者や障害者など)や多様な外来者(NPO・専門家、観光客など)とともに文化基盤(伝統行事など)、経済基盤(生業・観光など)、社会基盤(交通・福祉など)を融合しながら未来を創造していく手法として提案する。その上で、実務家(NPO・自治体職員など)の協力を得て、他地域に展開しうる実効性をもったコミュニティ再構築手法を開発し、社会実装を行うところまでが研究プロジェクトである。