システム制御研究室(佐藤研)では,制御工学(システム制御)とその応用に関する研究に取り組んでいます.制御工学は,「時間とともに状態が変化する動的なシステムを,どのようにすれば所望の状態にできるか」を明らかにする学問分野です.動的システムの例として,例えばロボットの分野では移動体(車両系,ドローン)やマニピュレータなどを挙げることができますが,より一般的に微分方程式や差分方程式(漸化式)で表されるシステムを対象として考えることができます.
我々の研究室では,制御工学の中でも特に,非線形な微分/差分方程式でモデル化される非線形システムの制御(非線形制御)について研究しています.例えば,上で挙げた移動体やマニピュレータも非線形システムの一種です.このような非線形システムを対象に,基礎的な理論構築・解析から制御則設計,シミュレーション・実機実験まで一貫した研究を行っています.
システム制御研究室では,「非線形システムを制御するための新たな理論的枠組みを構築すること」を目標としています.特に大学院に進学する学生は,3年間(または6年間)で「自身の制御理論」と言えるものを作り上げて欲しいと考えています.
基本的に,研究テーマは一人一人個別に設定します.学生の興味・希望と教員の提供できるリソースを元に大まかな研究テーマを設定し,毎週1回の個別ミーティングで教員と一緒に考えながら具体的な研究目標を設定していきます.
制御対象システムとしてはロボット・メカトロニクス系を想定していますが,もちろんそれ以外でも構いません(上述のように,動的システムであれば基本的にはどのようなものでも研究対象になり得ると考えています).
制御バリア関数を用いた安全アシスト制御に関する研究
制御バリア関数(CBF)とよばれる関数を用いて,システムの安全性を保証するためのアシスト制御則を設計する研究に取り組んでいます.ここで言う安全性とは「システムの状態があらかじめ定めた安全集合内に留まり続けること」であり,例えば移動体の衝突回避や障害物回避制御,人間が操作する機械へのアシスト制御など,幅広い応用が期待できます.具体的には以下のような研究を行っています:
● 移動体の安全な軌道追従制御(軌道追従制御と安全アシスト制御の統合設計)(関連文献[1], [2])
● 剛体(ドローン)に対する制御バリア関数設計(関連文献[3])
関連文献(一部)
[1] Trajectory-Tracking Control Considering Obstacle Avoidance by using Control Barrier Function, Proc. of CACS 2020. DOI: 10.1109/CACS50047.2020.9289780
[2] Safe trajectory tracking control by input-to-state constrained safety control barrier function (ISCSf-CBF), IFAC-PapersOnLine. DOI: 10.1016/j.ifacol.2024.10.156
[3] バックステッピング法を用いた円錐型拡張制御バリア関数の設計, SICE MSCS 2022, paper ID: 3C1-3
入力制約を考慮した軌道追従制御に関する研究
追従制御リアプノフ関数(TCLF)と凸最適化理論を用いて,入力制約を持つ非線形システムに対する軌道追従制御則の設計法を提案しています.車両系を対象とした数値シミュレーションで有効性を確認しました(関連文献[4]).
関連文献(一部)
[4] Trajectory Tracking of Nonlinear Systems with Convex Input Constraints Based on Tracking Control Lyapunov Functions, Applied Sciences, DOI: 10.3390/app14114377
制御リアプノフ関数を用いた外乱抑制制御に関する研究
外乱信号の加わる制御システムにおいて,制御リアプノフ関数(CLF)を用いて効果的に外乱の影響を抑制する制御について研究しています.特に,ドローン(関連文献[5])や車両系(関連文献[6])を対象に制御則設計を行いました.
関連文献(一部)
[5] Disturbance rejection control of rigid body attitude based on nonsmooth control Lyapunov function, Proc. of IECON2018. DOI: 10.1109/IECON.2018.8592731
[6] Robust adaptive trajectory tracking of nonlinear systems based on input-to-state stability tracking control Lyapunov functions IFAC-PapersOnLine. DOI: 10.1016/j.ifacol.2021.10.385
ここで示した研究はあくまで最近の一例なので,配属後にこの中から研究テーマを選ぶとは限りません.具体的に興味・関心のある分野や内容がある場合は,テーマ設定できる可能性があるので個別に相談してください.例えば,2025年度は強化学習に関する研究テーマを立ち上げる予定です.
提案する制御則設計法の有効性を実験で検証するため,主に移動体(車両,ドローンなど)を用いた実験環境を構築しています(作業中も含む).
● 小型ドローン:DJI TelloおよびM5 Stamp Flyを複数台ずつ所有しています.Telloを用いて,AprilTagを利用した位置制御システムを構築しました.
● 車両型移動ロボット:メガローバ―2.0,Pi:CO V2(マイクロマウス)などを所有しています.軌道追従や障害物回避制御の実験環境を構築予定です.
● 電動車いす:ヒューマンアシスト制御実験用にWHILL Model CRを所有しています.デプスカメラを用いた衝突回避制御系を構築しています.
ロボット・メカトロニクス学科(FR科)には制御・ロボット関連の研究室が多くあります.配属希望者向けに,システム制御研究室の特徴(だと教員が勝手に思っていること)+αをまとめておきます.あくまで教員(佐藤)の主観なので,所属学生がどう思っているかは研究室見学時などに直接聞いてみて下さい.
● 教員と議論する機会が多い:
できる限り,週に1度は全学生と個別ミーティングを行うようにしています(研究室を立ち上げたばかりでまだ学生数が少ないから,という事情もあります).佐藤はよく研究室に行くので,その際に雑談から研究の話になったりすることもよくあります.また,週に1度はお茶会をしているので,その流れで議論が始まったり,などなど.これが良い点なのか悪い点なのかは人によると思います.
●ハードウェア作成がメインではない:
研究テーマ設定の方針にも書きましたが,研究室としての目標は「非線形システムを制御するための新たな理論的枠組みを構築すること」なので,実機実験は提案する制御則の有効性を検証する目的で行います.従って,何かしらのハードウェア開発そのものを研究テーマとすることは基本的にありません(特に大学院に進学する学生は).ただし,理論+実験の研究で,実験の部分を自身の開発・構築したシステムで行いたい,という意欲のある学生は歓迎します.
● 研究を通じて汎用的な能力・スキルを身に着けることを意識して欲しい:
研究を通じて身に着くスキルや能力は,大まかに研究に直接関係する専門知識や技術と問題発見・解決能力,新しい知識の修得方法,文書作成,プレゼンテーションなどの汎用的な能力・スキルに分類できると思います.どちらも重要であることは言うまでもありませんが,研究室では特に後者を身に着けることを強く意識して欲しいと考えています.成果の分かりやすい「役に立つ」研究テーマに取り組みたくなる気持ちも分かりますが,研究は自身を成長させるための機会と捉えて,焦らずに腰を据えて向き合う方が個人的には良いと思います.