1. DEI (Diversity, Equity, & Inclusion) + Belonging
多様性を価値として掲げる社会が広がる一方で、依然として問われ続けなければならない問いがあります。➖誰の声が聞かれ、誰の声が歴史的に沈黙させられ、周縁化されてきたのか➖。この問いに真摯に向き合うためには、現在の制度や状況の分析やDEI理念普及にとどまらず、社会がどのような人々をどのような仕組みによって排除してきたのかを、歴史的視座から丹念に考察することが不可欠です。この歴史的考察を欠いたDEI実践は、変革を目指しながらも既存の排除構造を再生産してしまう危険を孕んでいると考えています。
こうした問題意識のもと、Social Emotional Learning(SEL)との統合的アプローチを軸に、歴史的考察と多様な人々との対話を通じて相互理解を深めるDEI実践のあり方を探究しています。とりわけ、対等な対話が真の相互理解とBelonging(帰属意識)の醸成にいかに寄与しうるかに関心を持っています。
2. Social Emotional Learning(SEL)
Social Emotional Learning (SEL) は、自己と他者の感情を理解・管理し、良好な関係を築き、責任ある意思決定を行う力の育成を目指す教育的枠組みであり、CASEL(2015)が定式化した5つのコンピテンシー——自己認識・自己管理・社会的認識・人間関係スキル・責任ある意思決定——を中核としています。日本国内では初等中等教育を中心に発展してきましたが、多様化する社会において、成人および高等教育におけるSELの実践的展開が急務となっていると考えています。
とりわけ、Jagers et al (2019) が提唱するTransformative SEL(TSEL)の視座に立ち、SELを個人の適応スキルの獲得に還元するのではなく、公正な関係と社会の共同構築を志向するプロセスとして捉え直すことに関心を寄せています。
こうした問題意識のもと、Diversity, Equity, Inclusion, and Belonging(DEIB)との統合的アプローチを軸に、大学教育におけるDEI研修プログラムの開発と、国際共修型防災ワークショップの設計・実践に取り組んでいます。多様な背景を持つ参加者間の対話を通じて、成人が文脈化されたSELコンピテンシーをいかに発達させ、Belongingを形成しうるかを実証的に検討することが、私の研究の中心的な課題です。
3. 国際共修と防災
国際共修とは、多様な文化的・言語的背景をもつ学習者が対等に協働し、相互の学びを通じて自他の認識を問い直す教育実践です。
国際共修は同じ場に集うだけでは成立せず、心理的安全性の担保、対等な役割配置、双方にとって切実な共通課題の設定を要します。その題材として着目してきたのが「防災」です。災害は在留資格や言語能力にかかわらずすべての住民に及ぶ一方、その影響は社会構造上の立場により不均等に現れます。この二重性ゆえに、防災は文化的差異を越えた協働を要請すると同時に、平時には可視化されにくい排除の構造を発見できる媒体となると考えています。
SELとDEIの枠組みに基づいた国際共修プログラムを開発し、アクションリサーチにより参加者の帰属意識と関係性の変容を検証しています。自治体との協働により、実践を大学から地域社会へと展開していきたいと考えています。
4. ここ数年の活動:半導体分野の人材育成
UPWARDS(US-Japan University Partnership for Workforce Advancement and Research & Development in Semiconductors)は、日米の大学・産業界が連携し、半導体分野の研究開発と人材育成を推進する国際イニシアティブで、そのPillar 2(女性活躍推進)のリード校の一員として、STEM・半導体分野における女性の参画拡大と、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を基盤とした学びの環境づくりに取り組んでいます。
近年は、体験型学習(PBL)を取り入れたワークショップの設計・実施を通じて、学生が半導体分野の社会的意義を実感し、自らの将来的な関わりを描けるよう支援しています。これらの活動は本学のenSETおよびSiCA(半導体人材育成プログラム)と連携して展開するとともに、マイクロン・東京エレクトロン等の産業パートナーとの協働により、大学の枠を越えた合同ワークショップやキャリアイベントを開催し、日米学生の交流と次世代人材の裾野拡大に貢献することを目指しています。
こうした取り組みは、研究関心であるSEL・DEI教育とも結びつき、包摂的で心理的安全性の高い学びの環境の実現を、実践と研究の両面から追究するものでもあります。