研究分野

1. 教育政策・制度的/構造的人種差別

アメリカの大学院で教育学を勉強する傍ら、「人種や人種による学力や学歴の違い」、「at risk 」という表現に常に疑問を抱いていました。

同じ人間なのに、なぜ肌の色や文化が違うだけで学力や学歴が違うと報告されているのか。なぜある一定の人種は at risk と呼ばれるのか、誰に対しての risk なのか...

この疑問の答えに少しでも近づきたくて教育政策を専攻し、教育の歴史を専門とする担当教員から、教育を含む社会のシステムに蔓延る制度的・構造的人種差別を学びました。

約400年前の奴隷制度の影響がいまだに顕著であること、さらにインターセクショナリティを考慮することで人種に加えジェンダー・国籍・学歴など、他のアイデンティティも制度的/構造的差別のターゲットになることを、教育・教育政策に関する研究で明らかにしていきたいと考えています。

2. Social Emotional Learning(SEL)

大学院時代から家庭や学校、コミュニティにemotional support があれば、子どもは心身・学力ともに健康に成長できるのではないかと考えていました。日本でも塾や習い事などの教育に関してのサポートは惜しみなくされている中、こどもたちの心や感情のためのサポートはどれだけなされているでしょうか。博士論文では、家庭内のemotional support の重要性とそれを教育制度の一部として取り入れることの重要性を説きました。

博士課程修了後、アメリカニューヨーク市で幼児教育無償化政策が開始され、教育政策を学んだ者にとって素晴らしいタイミングでニューヨークで仕事を得ました。感情にフォーカスを置いたSocial Emotional Learning (CASEL,1994)を教育現場で普及・実践するための研修実施やコーチングに携わりました。

教員・社会福祉士に向けたSELプログラムのコーチ・研究員として7年間現場でSEL実践に従事しました。その中で、家庭や現場にこどもと関わりのある保護者や教員の皆さんの日常経験を知り、制度的/構造的差別是正の観点からも、人生の早い段階から家庭・学校・コミニュティ内でのSELが必要だと確信しました。

日本に帰国してからも、日本文化や年齢層にあったSELプログラムの開発、実践、社会実装に向けて研究をしていきたいと考えています。


3. DE&I (Diversity, Equity, & Inclusion) Education for Social Justice

制度的/構造的差別の影響を考えるには、社会から「マイノリティ」と認識される人々の視点で歴史を振り返り、学ぶ必要があります。そのためには、「自分とは違う誰か」の歴史や体験に共感することが必要になります。

ニューヨークでのSEL実践の一環として、Diversity, Equity, & Inclusion の要素も取り入れていました。ニューヨーク市の学区は生徒全体の85%が非白人のこどもたちであるなか、教員全体の約60%は白人であるため、白人文化中心的(Enrocentric)な教育がなされている場合が多いからです。

教員の皆さんには、自分の人種を通しての体験や、自分とは肌の色の違うこどもたちの体験を認識し、自身がもつアンコンシャス・バイアスや盲点などを考え、教員として何ができるか、同じ社会に生きる大人としての責任とは何か考えてもらいました。

また、こどもにはSELの5要素、自己認識・他者や社会の認識・セルフコントロール・対人関係・責任のある意思決定に関連するアクティビティと通して、自分の背景に誇りを持ち、他者との違いを認識し、違う個々が集まったクラスコミュニティとして違いを尊重しながら、一緒に助け合って生活をするスキルの習得を促しました。

日本でもDE&I教育の普及に携わっていきたいと考えています。