「人工透析が必要になりました」と医師から告げられ、不安に感じている方もいるかもしれません。透析は、特別な治療ではありますが、決して怖いものではありません。
一言で言えば、透析とは「働かなくなった腎臓の代わりに、機械で血液をきれいにする治療」です。
まずは、私たちの体の中で腎臓がどんな大切な役割を果たしているかを見てみましょう。
腎臓は、背中の腰のあたりに左右2つある握りこぶし大の臓器です。体に必要な機能がたくさんありますが、特に重要な3つの働きを簡単にご紹介します。
① ゴミを捨てる(老廃物の除去)
食べ物からエネルギーを作った後には、体に不要な「老廃物(ゴミ)」が残ります。腎臓は、血液をろ過して、この老廃物を尿と一緒に体外へ捨てる、「体の浄水器」の役割をしています。
② 水分量を調節する
私たちは毎日、水やお茶を飲みます。しかし、飲みすぎても体が水浸しにならないのは、腎臓が尿として余分な水分を排出してくれているからです。腎臓は、体内の水分量を常にベストな状態に保つ調整役です。
③ ホルモンを作る(体調を整える)
腎臓は、血圧をコントロールするホルモンや、「赤血球を作るのを助けるホルモン(エリスロポエチン)」を作っています。この働きがあるおかげで、私たちは貧血にならず、健康な体を維持できています。
病気などで腎臓の機能が慢性的に低下し、3つの仕事ができなくなってしまう状態を「腎不全」と呼びます。
腎不全が進行すると、体には次のような問題が起こり始めます。
老廃物が溜まる: 血液中にゴミが残り、体がだるくなったり、吐き気がしたりします。
水分が溜まる: 尿が出なくなり、「むくみ(浮腫)」が起こり、心臓にも負担がかかります。
貧血になる: ホルモンが作られなくなり、重い貧血になります。
透析治療は、これらの危険な状態を解消し、腎臓が果たしていた役割を代行するために行うものです。
人工透析は、血液を体外に取り出し、「ダイアライザ」と呼ばれる特殊なフィルター(人工腎臓)を通してきれいにし、再び体内に戻す治療です。
治療のキーとなるもの
ダイアライザ(人工腎臓):約1万本もの細い繊維(中空糸)が束になったフィルターです。この繊維の膜を通して、血液から老廃物と余分な水分が取り除かれます。
透析液:血液から老廃物を引きつけ、代わりに必要な物質(電解質など)を血液に戻すための特殊な液体です。
この治療によって、老廃物や過剰な水分が取り除かれ、体内のバランスが正常に近い状態に戻ります。
人工透析は、腎臓の機能が失われても、これまでの生活を続けるためのサポートです。週に数回、治療が必要になりますが、体調が安定すれば、仕事や趣味、旅行なども十分に楽しむことができます。
当院では、皆さんが透析治療を受けながらも、自分らしい生活を送れるよう、医師、看護師、臨床工学技士、管理栄養士、が一丸となってサポートいたします。不安なこと、疑問に思うことがあれば、いつでもご相談ください。
透析が必要になったとき、患者さんが選ぶことができる主な治療法には、「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2種類があります。
どちらも血液をきれいにするという目的は同じですが、「どこで、どのように血液をきれいにするか」という仕組みが大きく異なります。
ご自身のライフスタイルや体の状態に合わせて最適な方法を選ぶために、それぞれの違いを分かりやすく比較してみましょう。
血液透析は、一般的に「透析」と聞いてイメージされることが多い方法です。
仕組み
場所: クリニックや病院で透析室にある機械を使って行います。
方法: 腕に作ったシャント(内シャント)から血液を取り出し、ダイアライザ(人工腎臓)というフィルターを通して老廃物や水分を取り除き、体に戻します。
頻度と時間: 一般的に週に3回、1回あたり4〜5時間かけて行います。
メリットとデメリット
メリット
・医療スタッフに任せられるため、自己管理の負担が少ない。
・治療時間が決まっているため、生活リズムを作りやすい。
デメリット
・週3回、決まった時間に通院が必要となる。
・治療時間が長く(4〜5時間)、拘束される。
腹膜透析は、ご自宅や職場で、患者さんご自身で行うことができる治療法です。
仕組み
場所: 自分の腹膜(お腹の内側を覆う膜)を使います。
方法: お腹に埋め込んだカテーテルという細い管を通して透析液をお腹の中に注入します。数時間かけて腹膜越しに血液中の老廃物や水分が透析液に移動した後、透析液を体外に出します。
頻度と時間: ほとんどの場合、毎日行います。日中、透析液を交換するCAPDと、夜間に機械(サイクラー)を使って自動で行うAPDがあります。
メリットとデメリット
メリット
・通院は月に1〜2回程度で済むため、生活の自由度が高い。
・自宅や職場で治療ができ、旅行なども比較的しやすい。
デメリット
・自己管理が必要で、清潔な環境で行う必要がある。
・お腹にカテーテルを留置するための手術が必要。
・腹膜に寿命があり、永久にできるわけではない。
どちらの治療法が優れているということではなく、「あなたのライフスタイルや体の状態に合っているか」が最も重要です。
検討すべきポイント
血液透析(HD)が向いている方
通院・時間
自分で管理するのが難しい方、決まった時間に通院できる方
自己管理
医療スタッフに任せて安心したい方、衛生管理に自信がない方
残存腎機能
腎機能がほとんど残っていない方
腹膜透析(PD)が向いている方
通院・時間
仕事や学校などで日中の時間が自由にならない方
自己管理
自宅で自分のペースで治療したい方、自己管理が得意な方
残存腎機能
腎機能が比較的残っており、緩やかな透析を希望する方
咲花透析センターは外来血液透析専門のクリニックです。血液透析を選ぶか腹膜透析を選ぶかで生活スタイルは大きく変わってきますので、かかりつけの専門医にご相談ください。
透析治療で、実際に血液をきれいにする役割を担っているのが「ダイアライザ」です。これは、しばしば「人工腎臓」とも呼ばれる、透析治療の核となる高性能なフィルターです。
ダイアライザがどのようにして腎臓の働きを代行しているのか、そのシンプルな仕組みを見ていきましょう。
ダイアライザは、一般的に手で持てる大きさの筒状の形をしています。その内部は、非常に特殊な構造になっています。
① 中空糸膜(ちゅうくうしまく)
ダイアライザの中には、髪の毛よりも細いストローのような繊維が、およそ一万本も束ねて入っています。このストローの壁が、老廃物を取り除くための「半透膜(はんとうまく)」という特殊な膜でできています。
② 血液と透析液の流れ
ダイアライザの内部では、この中空糸膜を隔てて、次の2つの液体が流れています。
中空糸の内部:患者さんの血液が流れます。
中空糸の周囲:きれいな透析液が流れます。
血液と透析液は、決して混ざり合うことはありませんが、中空糸膜を介して物質の交換が行われます。
ダイアライザは、主に2つの現象を利用して血液をきれいにしています。
魔法 1:拡散(老廃物を捨てる仕組み)
血液中には、尿毒素と呼ばれる老廃物(ゴミ)がたくさん含まれています。一方、透析液はきれいです。
濃度が高い方から低い方へ物質が移動する性質を「拡散」と呼びます。
血液(老廃物が多い) → 膜を通して → 透析液(老廃物が少ない)
この拡散の原理により、老廃物が血液から透析液へと移動し、血液がきれいに浄化されます。
魔法 2:限外ろ過(水分を抜く仕組み)
腎臓の失われた大切な役割の一つが、余分な水分を取り除くことです。
ダイアライザでは、中空糸の内側(血液側)と外側(透析液側)の圧力を調整することで、半透膜を通して強制的に水分を押し出します。
この働きを「限外ろ過」と呼び、体内に溜まりすぎた水分を正確に調整して除去します。
ダイアライザには、老廃物の除去性能や、体への優しさに応じて、非常に多くの種類があります。
当院では、患者さん一人ひとりの体の大きさ、透析時間、合併症のリスクなどを総合的に判断し、最適なダイアライザを選定しています。特に、近年注目されているオンラインHDF(血液透析濾過)に対応した高性能なダイアライザも積極的に採用しています。
ダイアライザは使い捨てであり、毎回新しいものを使用しますので、衛生面でもご安心ください。
ダイアライザは難しい機械のように見えますが、「血液のゴミと水分を取り除く、優秀なフィルター」だとご理解いただければ十分です。
治療中、「この機械は何をしているのだろう?」と不安に思うことがあれば、いつでも遠慮なくスタッフにご質問ください。私たちの目標は、患者さんに安心して快適に透析を受けていただくことです。
透析室に入ると、ベッドの横に「コンソール」と呼ばれる機械が置かれています。これが、透析治療を正確かつ安全に進めるための「透析監視装置」です。
コンソールは、ただ血液を循環させるだけでなく、人の手では不可能なほどの精密さで、「透析液の準備」と「血液の状態監視」という重要な二つの役割を担っています。
コンソールは、ダイアライザ(人工腎臓)が血液をきれいにするために必要な「透析液」を、完璧な状態で準備します。
① 透析液の調合と供給
透析液は、老廃物を引きつけ、体に必要なミネラルなどを補給するための「お薬」のようなものです。コンソールは、以下のことを瞬時に行います。
温度調整: 血液を冷やしたり温めたりしないよう、体温とほぼ同じ約37℃に温めて供給します。
流量制御: 血液と透析液を適切なスピード(流量)でダイアライザに送ることで、効率よく老廃物を取り除きます。
このように、コンソールは常に安定した「きれいな水(透析液)」を、必要な量だけ送る「透析液輸送係」のような役割を果たしています。
コンソールの最も重要な役割は、治療中の患者さんの安全を監視することです。
① 血液ポンプとヘパリン用シリンジポンプ
血液ポンプ: 血液をシャントから体外へ取り出し、ダイアライザを通して体内に戻す循環を一定の速さで維持します。
ヘパリン用シリンジポンプ: 血液が機械の中で固まらないよう、抗凝固剤(ヘパリン)を微量かつ正確に注入します。
② 厳重なアラーム(警報)機能
コンソールには多くのセンサーが搭載されており、以下のような異常を瞬時に察知し、大きな音で知らせます。
血圧の急激な変化: 患者さんの血圧が下がりすぎたり、上がりすぎたりした場合。
空気の混入: 血液の回路に小さな気泡が発生し、その空気が患者さんの体に入るリスクがある場合。
血液漏れ: ダイアライザの膜が破れるなど、血液が透析液側に漏れた場合。
異常を検知するとすぐにポンプが停止し、スタッフが駆けつけて対応します。この厳重な監視機能があるため、透析治療は非常に安全性が高いといえるのです。
透析監視装置(コンソール)は、治療の効果を高めると同時に、患者さんの安全を守る「透析治療の生命線」です。
透析室のスタッフは、このコンソールの示す情報を常にチェックし、患者さんの体調変化に合わせて設定を調整しています。機械がしっかりと安全を見守っていますので、安心して治療を受けてください。
透析治療は、ダイアライザ(人工腎臓)を通して血液をきれいにするものですが、このとき、血液中の老廃物を引きつけ、失われた大切な成分を補給する役割を担っているのが「透析液」です。
透析液は、単なる水溶液ではなく、体液に近い成分でできた「特別な薬液」です。当院では、この透析液の品質と安全管理に、最も力を入れています。
透析液には、腎臓が果たしていた体液のバランス調整を代行する、二つの重要な役割があります。
① ゴミを集める(老廃物の除去)
透析液は、「きれいな水」です。ダイアライザの膜を隔てて血液と触れることで、濃度の高い血液側から、尿毒素などの老廃物を引きつけ、膜を通して透析液側へ移動させます(拡散)。
② 体に必要な成分を補う
腎不全の患者さんは、体内のミネラルバランスが崩れがちです。透析液には、カルシウム、重炭酸イオン(酸性になった体をアルカリ性に戻す成分)など、体に必要な成分が適切な濃度で配合されています。これにより、治療中に必要な成分が血液に戻されます。
透析液は、水道水から作られますが、患者さんの体に入る前に、厳しいチェックとろ過を経て、極めて高い清浄度に管理されます。
ステップ 1:水処理装置による「超純粋化」
水道水には、不純物や微量の細菌、塩素などが含まれています。これらがそのまま透析液になると体に負担をかけてしまうため、まず水処理装置を通して、徹底的にこれらを取り除きます。これは、家庭用の浄水器よりも遥かに高性能なシステムです。
ステップ 2:透析液作成装置での「最終調整」
清浄度の高い水が準備できたら、透析液作成装置で透析液を作成し、前回の記事でご紹介したコンソールへと送られます。
コンソール内で、体温と同じ約37℃に温められ、患者さんのダイアライザに送られます。
※この説明は当クリニックのような複数の患者さんに透析を行う施設の場合です。入院時の緊急透析などの場合には、同じ働きをする個人用の機械を用います。
ステップ 3:エンドトキシンなどの「徹底除去」
近年、透析液の安全基準は非常に厳しくなっています。ごく微量の細菌の死骸に含まれる「エンドトキシン」という物質も、透析液を供給する流れのなかで、特殊なフィルターを使って除去されます。
当院では、透析液を「超純粋化透析液(ウルトラピュア透析液)」と呼ばれる、国際的にも最高水準の清浄度で管理しています。清浄度が高い透析液を使用することで、透析中に起こりがちな発熱や炎症、長期的な合併症のリスクを抑えることができます。
透析液は、単に老廃物を捨てるだけでなく、患者さんの体調を整えるために極めて重要な役割を果たしています。
当院では、最新鋭の設備と徹底した水質管理システムを導入し、超純粋化された透析液のみを使用しています。この安全・高品質な透析液が、患者さんの長期的な健康と快適な透析生活を支える基盤となっています。
ご自身の体に入る「透析液」について不安があれば、いつでもスタッフにお尋ねください。
血液透析治療を始めるにあたり、「シャント(内シャント)」という言葉を初めて耳にした方もいるかもしれません。シャントとは、透析治療を安全かつ効率よく行うために、患者さんの腕に作られる特別な血管です。
透析では、一度に大量の血液を機械に通し、きれいにした血液を体内に戻す必要があります。このため、一般的な血管では流量が足りず、治療を行うことができません。
シャントは、まさにあなたの透析生活を支える「命綱」であり、シャントを大切にすることが、快適な透析治療の第一歩となります。
シャントとは、小さな手術で動脈と静脈をつなぎ合わせる(吻合する)ことで作られます。
① 動脈と静脈の違い
動脈:心臓から送り出された勢いのある血液が流れています。
静脈:動脈に比べて血液の流れが穏やかです。
② シャントの役割
動脈の血液が直接静脈に流れ込むことで、静脈の血流が速くなり、血管が太く、丈夫に発達します。これにより、透析に必要な十分な血流量を確保できるようになるのです。
通常、シャントは利き手ではない方の腕の手首付近に作られます。
シャントは、一般的に、透析を始める約1ヶ月〜1ヶ月半前に、局所麻酔による手術で作られます。
手術: 局所麻酔を行い、動脈と静脈をつなぎ合わせます。手術時間は1時間程度で、日帰りまたは数日間の入院が必要です。
成熟期間: 手術直後のシャントはまだ細いため、実際に使えるようになるまで約2週間〜1ヶ月かけて静脈を太く成熟させる期間が必要です。
透析開始: 血管が十分に発達したら、シャントに針を刺して透析治療を開始します。
この「成熟期間」があるため、透析の導入時期が近づいたら、早めにシャント作成の準備を進めることが大切です。※緊急時にはそれに準じません。
シャントはとてもデリケートです。日々の生活の中で、シャントを長持ちさせるためのケアを実践しましょう。
① 振動(スリル)の確認
シャント部分に指を当て、「ザーッ」という連続した振動(スリル)や、心臓の鼓動とは別の「ドクドク」という拍動があるかを毎日確認してください。スリルが感じられなくなったりしたら、すぐにクリニックにご連絡ください。
② 圧迫を避ける
シャント側(手術した腕)では、血圧測定、採血、重い荷物を持つことは絶対に避けてください。シャントを圧迫すると、血管が詰まる原因になります。腕時計やきつい衣服も避けてください。
③ 清潔と保温
感染予防のため、穿刺部(針を刺した跡)を含め、常に清潔に保ちましょう。また、冷やすと血流が悪くなるため、冬場は保温を心がけてください。
シャントは、あなたの透析治療を支える最も重要なパートナーです。適切なケアを続けることで、長く快適に透析治療を続けることができます。
当院では、シャントの状態を定期的にチェックし、日々のケアについても丁寧に指導させていただきます。ご自宅で「拍動が弱いかも」と感じたら、遠慮なくスタッフにご相談ください。
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前回の記事でご紹介した通り、シャントは血液透析治療を続けるための「命綱」です。しかし、シャントはデリケートなため、日々の生活の中で少し気を抜くと、血管が細くなったり、詰まったりしてしまうことがあります。※個人差があります。
シャントを長く、安定して使うためには、患者さんご自身による毎日のセルフケアが欠かせません。
ここでは、シャントを守るために絶対に守っていただきたい「5つの習慣」をご紹介します。
シャントの調子が良いかどうかを知るための最も簡単な方法が、拍動(スリル)の確認です。
チェック方法: シャントのある腕の、血管が盛り上がっている部分に指の腹をそっと当ててください。
正常な状態: 「ザーッ」「シューッ」という連続した音や振動(スリル)を感じるはずです。これは、動脈の血液が勢いよく静脈に流れ込んでいる証拠です。
異常のサイン: 振動や音が弱くなった、または全く感じなくなった場合は、シャントが詰まりかけている可能性があります。すぐにクリニックへご連絡ください。
シャントを圧迫すると、血管の流れが悪くなり、詰まるリスクが急激に高まります。シャント側の腕では、以下の行為は厳禁です。
血圧測定・採血: 治療以外の目的で、シャント側に針を刺したり、カフで締め付けたりしないでください。
重い荷物を持つ: 重い買い物袋やカバンをシャント側の腕で持つのも避けましょう。
圧迫する服装: 腕を締め付けるきつい下着や、腕時計、アクセサリーの着用は避け、ゆったりとしたものを選んでください。
寝相に注意: 就寝時、シャント側の腕を体の下敷きにして寝ないように注意してください。
シャントは体外から針を刺すため、感染症のリスクがあります。
毎日の洗浄: 入浴時やシャワー時に、石鹸を使ってシャントの部分を優しく洗い、常に清潔に保ってください。
穿刺後のケア: 透析が終わった後の針を刺した部分は、完全に血が止まるまでしっかりと圧迫し、絆創膏などで清潔に保護しましょう。
「少し振動が弱い気がする」「腕がいつもより腫れている」「穿刺部が赤く腫れて熱を持っている」など、いつもと違うと感じたら、決して自己判断しないでください。
シャントの詰まりや感染症は、早期に発見して処置をすれば、悪化を防ぐことができます。少しでも不安や異常を感じたら、すぐに当院スタッフにご相談ください。
シャントのケアは、特別なことではありません。毎日の歯磨きや洗顔と同じように、生活の一部として習慣化してしまいましょう。
当院では、患者さんのシャントの状態を定期的に超音波などでチェックしています。あなたの毎日の丁寧なケアと、当院の専門的な管理で、シャントを長く大切に守っていきましょう。
シャントは、毎日の透析を支える大切な「生命線」ですが、時には詰まりかけたり、感染したりとトラブルを起こすことがあります。しかし、過度に恐れる必要はありません。ほとんどのトラブルは、初期の段階で気づき、迅速に対応することで大事に至るのを防げます。
ここでは、シャントトラブルを知らせる代表的なサインと、そのサインに気づいたときの正しい対処法を解説します。
以下のサインに気づいた場合、シャントが詰まりかけている、または感染症を起こしている可能性があり、緊急性が高い状態です。すぐに当院にご連絡ください。
① 振動(スリル)が消えた、弱い
想定されるトラブル:シャントの血流障害(狭窄・閉塞)
なぜ危険か:血液が流れていない証拠です。完全に詰まると、再開通が困難になります。
② 腕全体が急に腫れた、痛む
想定されるトラブル:シャントの閉塞や静脈のうっ血
なぜ危険か:血液の逃げ道がなくなり、腕全体に血流が滞っている可能性があります。
③ 穿刺部が赤く腫れ、熱を持っている
想定されるトラブル:感染症(蜂窩織炎など)
なぜ危険か:細菌が血管内に侵入し、敗血症など重篤な全身疾患につながる可能性があります。
④ 穿刺部から出血が止まらない
想定されるトラブル:血管壁の損傷や凝固機能の異常
なぜ危険か:圧迫を続けても止血しない場合は、すぐに専門的な処置が必要です。
緊急性は低いものの、シャントの状態が悪化していることを示すサインもあります。これらの症状がある場合は、次回の診察時ではなく、気づいた時点でスタッフに相談してください。
⑤ シャント上の皮膚が薄くなる
想定されるトラブル:血管への圧力が継続的にかかり、皮膚が脆弱になっているサインです。
⑥ 腕の末端(指先)が冷たい
想定されるトラブル:シャントに血流が取られすぎている(スチール症候群)の可能性があります。
⑦ 腕にズキズキとした痛み
想定されるトラブル:炎症などの可能性があります。
「おかしい」と感じたとき、患者さんが慌てずに取るべき行動が、シャントを守るために最も重要です。
拍動(スリル)が弱い、または消えた場合
【最優先】絶対に自己判断せず、すぐにクリニックに連絡する。(揉んだり叩いたりするのは避けてください)
穿刺部が熱を持っている場合
【最優先】 1.患部を温めたり、お風呂に入ったりせず、清潔に保つ。2.すぐにクリニックに連絡し、指示を仰ぐ。(感染を広げないことが重要です)
腕が重く、むくみが強い場合
【相談】 次回の診察を待たずにクリニックに連絡し、指示を仰ぐ。
シャントはデリケートですが、その変化はあなた自身が一番よく分かります。毎日のチェックと、「いつもと違う」という感覚を大切にしてください。
当院では、シャントトラブルを専門的に診る体制を整えており、超音波検査などで血流の状態をすぐに確認できます。不安なことがあれば、いつでも、どんな小さなことでも、私たちスタッフを頼ってください。
透析治療には、最も一般的な「血液透析(HD)」の他に、近年、多くのクリニックで導入が進んでいる「オンラインHDF(血液透析濾過)」という方法があります。
HDF(Hemodiafiltration)とは、従来の透析の仕組みに、もう一つの強力な老廃物除去の仕組みをプラスした、より進化・効率化された透析治療だとイメージしてください。
「標準的な透析との違いは何?」「自分も受けられるの?」といった疑問を解消するために、オンラインHDFの仕組みとそのメリットを分かりやすく解説します。
従来の血液透析(HD)とオンラインHDFの最も大きな違いは、血液をきれいにする方法にあります。
標準的な血液透析(HD)の仕組み
標準HDの主役は、「拡散」という作用です。
拡散(ゴミの移動): 血液中の老廃物が、ダイアライザの膜を通して、濃度の低い透析液側へ「にじみ出る」ように移動します。
得意なこと: 尿素窒素など、分子量が小さい老廃物の除去が得意です。
オンラインHDFの仕組み:「濾過」をプラス
オンラインHDFは、この「拡散」に加え、「濾過(ろか)」という作用を強力に使います。
濾過(水で押し出す): 大量のきれいな超純粋化透析液を体内に送り込み、圧力をかけて血液中から老廃物を「洗い流す」ように強制的に引き出します。
簡単に言えば、HDが「スポンジから老廃物を吸い取る」イメージなのに対し、HDFは「スポンジの老廃物を大量の水で洗い流す」イメージです。この「洗い流す」濾過の力によって、従来のHDでは取り除きにくかった「少し大きめの老廃物」を効率よく除去できるようになりました。
オンラインHDFが注目されているのは、この「濾過」作用によって、従来のHDで抱えていたいくつかの合併症や不快な症状が改善される期待があるからです。
メリット ① 倦怠感・透析中の血圧低下の改善
濾過によって、従来のHDでは抜けにくかった血圧変動に関わる物質が除去されるため、透析中の急激な血圧低下が起こりにくくなります。また、治療後のだるさ(倦怠感)の軽減も期待できます。
メリット ② 頑固なかゆみの軽減
透析患者さんの多くが悩む皮膚の頑固なかゆみは、HDでは除去が難しい「中分子量の老廃物」が原因の一つとされています。HDFでは、この老廃物を効率よく除去できるため、かゆみの改善が期待できます。
メリット ③ 貧血の改善
炎症を引き起こす物質が除去されることで、貧血の原因となる炎症が抑えられ、貧血治療薬(ESA)の効果が高まることが期待されます。
「大量の透析液を体内に送る」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、ご安心ください。
オンラインHDFで用いられる透析液は、水道水を徹底的にろ過・滅菌した「超純粋化透析液(ウルトラピュア透析液)」です。当院では、この最高レベルの清浄度が保証された透析液を使用しているため、安心して治療を受けていただけます。
オンラインHDFは、すべての人に適合する治療法ではありませんが、「透析後の倦怠感を改善したい」「かゆみを何とかしたい」といった具体的なお悩みを持つ患者さんにとっては、生活の質(QOL)を大きく高める可能性を秘めています。
当院では、患者さんの体の状態、残存腎機能、お悩みの症状を総合的に判断し、必要に応じてオンラインHDFを提案・提供できる体制を整えています。ご興味のある方は、医師やスタッフにお気軽にご相談ください。
透析治療を続けていると、夜も眠れないほどの皮膚のかゆみなど、日常生活の質(QOL)を下げる不快な症状に悩まされることがあります。
これらの症状の原因の一つは、従来の透析(HD)では除去しきれなかった「中分子量以上」の老廃物(ゴミ)や炎症物質が体内に溜まってしまうことです。
近年の治療法であるオンラインHDFは、この除去が難しい物質を効率よく取り除くことで、患者さんの「困った」を解決に導く可能性を秘めています。
HDFでは、透析中の血圧が安定しやすくなり、安全で快適な治療につながります。
腎不全に伴う皮膚の強いかゆみ(透析そう痒症)は、我慢できないほどの苦痛を伴い、睡眠不足や精神的なストレスの原因となります。
かゆみの一因は、特定の中分子量物質の蓄積が原因となります。オンラインHDFの「濾過」は、この中分子量物質の除去に特に優れています。治療を続けることで、これらの物質が減少し、かゆみが徐々に軽減していくことが期待できます。
オンラインHDFは、日々の不快な症状の改善だけでなく、長期的な健康にもメリットをもたらします。
● 炎症の抑制と貧血の改善
HDFは炎症物質を効率よく除去するため、体全体の炎症状態が改善します。その結果、貧血治療薬(ESA)の効果が高まり、貧血の改善につながる可能性があります。
●骨や血管の健康維持
中分子量物質の効率的な除去は、骨がもろくなったり、血管が固くなったりといった合併症の発症・進行を遅らせることが期待されています。
オンラインHDFは、単なる透析方法の一つではなく、「透析生活の質(QOL)を高めるための治療」です。倦怠感や不眠、かゆみといった不快な症状が改善されることで、仕事や趣味、家族との時間をより前向きに楽しむことができるようになります。
当院では、患者さんの現在の症状や希望を詳しくお伺いし、オンラインHDFが適用可能かどうかを丁寧に判断し治療法を決定させていただいております。