りとむ 2026年7月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
春 の 心 ぞ
有 田 薫 子
窓開けて春風誘へぬ多摩暮らし杉の林と五百歩の距離
ウグイスの声に目覚める多摩の朝いつまでもあれこの長閑さは
新聞をグーグル引きつつ読みをりぬ増えゆくばかりのカタカナ言葉
若者の略語をスルーするなかれ常用言葉となる流れにて
AIは老いの暮らしの助け舟教へくれたるあれこれ草子
家風呂に死の事故多しと聞きてよりジムの風呂へと運動はせず
物忘れ言葉忘れの日々にして惚(ほう)け初むるも春の心ぞ
忍び寄る認知症にも意味あらむ冥府に渡るまでのひととき
傘寿すぎ紅葉のやうには散りゆかず覚悟決めむか百寿もありと
久々に友と語らひ帰る夜 三日月ほのと笑みの口もと
騙 し 絵
浅 井 の り 子
籠り居の鬱を浚ひて窓外の山萌えてゐるグラデーションに
為政者の「笑面虎(シァォミェンフゥ)」の奸策をトロンプルイユにそと忍ばせて
不穏なるこの星いづく向かふのか土竜叩きの独裁者たち
好き嫌ひ老いゆくほどに著くなり焚き火に爆ぜる栗の実の音
むらさきの桔梗の花の控へ目の穏和な姑(はは)をおもふゆふぐれ
友よりのこゑのお便りゆるらかに黄砂の山の澄み渡りゆく
子の名前日日呼びながら過ごしをり四人暮らしのバーチャル家族
大きなる事故なく過ぎし四十四年ほつとしさみし免許返納
しあはせを具に込め寿司を巻いてゆくわたしの十八番(おはこ)十代よりの
井戸の辺の白くなだるる雪柳あざやか黄なる山吹の花
一 笑 い
中 里 惠 美 子
大亀の年齢(とし)尋ねたらその翁「貴女と同じ」とさらりと言えり
亡き夫のマフラーをする寒い朝貴方の身体(からだ)は温かかった
檀家名スマホ開いて確認の若き僧侶の末頼もしき
新しき事始めれば諦める事も出(い)で来て一週七日
義父(ちち)よりの花子という名気に入りて娘は今も旧姓名乗る
枯れ枝を切ったら芯は緑色ゴメンと詫びて水の中へと
〈幸福〉という字に惹かれ購いしガジュマルの木の脚の太さよ
川沿いの桜につるす提灯に入学祝の名前も混じる
満開の桜を愛(め)でて少女らはねじり鉢巻き和太鼓を打つ
一笑(ひとわら)いここから一日(ひとひ)が始まるの朝の散歩の輩(ともがら)たちと