りとむ 2026年1月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
も と よ り
永田 明子
出さぬまま五年十年新国語辞典にはさんだ手紙一通
貼られたる八十二円切手にはどこにも行けぬ桜ブンチョウ
部活やめるってよと同じ口調に息子が伝える総理の辞任
とはいえ秋はやってきてバンババン夏のしまいの蝉落ちてくる
数年を経て逢うひとのまなじりのしわに秋の陽あたりて深し
数式を美しいと説くこのひとの極楽鳥花のような横顔
転生は輪廻であるか数式の答のようにはゆかぬもとより
嘘ならばいくらでもつく 取れかけの袖のボタンがゆらゆら揺れる
試しみる高校講座ベーシック数学10分 分からぬ全く
影響は受けぬもとより受けられぬ人生は全て数式である
峠 み ち
橋本 久子
牛奥ノ雁ヶ腹摺山のその奥に羽を休めて憩ふ鳥たち
ほのぐらき山路をゆけば咲き残る梅香黄蓮二かぶ三かぶ
信濃より秩父にいたる峠みち越えねばならぬ十文字峠
牧水も露伴も歩きし十文字明けゆく空に雁の騒立つ
すたれゆく古道を歩く人もなし落ち葉降り敷くなだりは細し
苔むせる観音菩薩は一里ごと旅人目守り樹下に建てり
道標に歯型の残る峠みち秩父の森にクマのゆきかふ
朽ちかけた百葉箱ありて足とどむ突出(つんだし)峠にさしかかるころ
真夜中の空は星ぞら凍みとほるつくづくひとり雁坂峠
いくつもの峠を越えて来たれども地図にはあらぬ峠をおそる
秋 天
田島 千代子
軽トラに山と積まれたキャベツ苗 畑いち面の小人とならん
「虫めづる姫君」になり駆ける子よ秋天高くバッタをつまむ
綱つかみ戸板を登り一メートル台から飛んだ いいね「お転婆」
にこにことひかるくんも笑ってる短い竹の鈴を鳴らして
オッ君は両腕それぞれ子を抱え長縄の波を何度も跳んだ
サトウキビ安納芋の種子島海の青さに赤花映える
ロケットの打ち上げ見たしこの島の岬の果てのグリーンのなかで
対岸の馬毛島はいま軍事基地 作業するひとコンテナハウスに
荒天で迎えの機体はあらわれず 三日延泊知る島暮らし
屋久島の杉の香こめた線香よ 三千年の歴史がかおる