りとむ 2026年9月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
このまま行くか
小 潟 水 脈
朝、朝の駅への道に挨拶すコリー引く人シーズー引く人
ななめ上に「おはやうございます」を聞く シーズーの目に挨拶したるよ
朝夕にシーズーと散歩する人が「大井」と書かれた家へ入りゆく
黄揚羽か瑠璃か影のみ地に動き「ピースフェスタ」のお誘ひ着信
「伝へて伝へて伝へてまゐります」とふアナウンサー田辺聖子の戦中日記を
蟻のあたまを日が照らす歌思ひつつデモ隊列の一人を歩く
再雇用終了前の半年はこのまま行くか時短勤務か
目分量が今日はビターとなりてをり休日ごとのココアゼリーは
雨二日エアコンの除湿をオンにするルームクーラーとふ語も死語か
肉にされないコッコちやんが今朝も鳴き隣家(となり)にも我にも青空のある
名 前
赤 城 条 治
大好きな人の名前をこつくりと頷くやうになぞつてゆけば
コクリコはもつと真つ赤な花だらう。ずつと名前を呼びあふやうな
鉱山の名前の付いたカクテルの銀の器の中の冷たさ
ピッケルは優しくそれを掘りおこす 君もダイキリわれもダイキリ
名付けとは訳のわからぬ恋しさに付ける一区切りのやうなもの
魔法使ひの弟子に集へば永遠に続くかのやうだつた話は
一皿に詩情はあふれ潮風の満ちくる〈地中海のミラージュ〉
舌を噛むやうな名前のスパゲッティ食む君の名を覚えてゐます
シロと呼べば近寄つてくる猫のゐて本当の名はつひに分からず
面影橋と聞けば誰かの面影が、信号待ちの車両に香る
夕 暮 れ
坂 本 ま ゆ み
青葉闇おくのベンチにめくりいるページのなかに棲むカッパ族
センチメンタリストなる下人パフォーマンスのごと襤褸奪えり
わが親族(うから)ひろしやすしと語尾そろえ名づけるならい やぶりし私
ひきよせても抱かれたがらぬ猫を目に追えばどくだみ白くゆれてる
足の爪するどくたてたる河童画の墨くきやかに一筆箋あり
ぴしぴしと闇うつ雨に思いおり我鬼とう号をえらびし作家
山梔子の気配濃くなる夕つかた傀儡(くぐつ)師の鬱ただほどけけん
〈暮れ方〉にはじまるおはなしばかりして 明けない夜がひとりに一度
末端にチューバ奏者(チ ュービスト)ひとりつらなりて我が家系樹のそのさきの空
その視野に蒼き火あかき火見えつらん鳶の旋回十字切るごと