りとむ 2025年11月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
バスの窓
荒井範子
ぬうつと圧をあたへをり門の横ポリスボックスの置かれたる家
まつすぐに前を向きゐるまだ若き巡査の瞳仔犬のやうなり
心には高き使命のあるらむや金の模様のエンブレム見ゆ
トウキヤウは忙しきところ信号を待つ間に歯磨きはじむる人あり
青信号しやかしやか歯ブラシ動かすを見ながらしやかしやか我が足いそぐ
ストローを口から離しシーシーと笑ふ幼の前歯涼しげ
流れくるヘッドライトのまばゆきをバスの窓よりぼんやり眺む
下車する際に礼を言ふ御婦人の一日もまたまもなく終はる
振り向けばあらはになれる座席たち暗がりの停留所ふたつ過ぐ
大きなるものに守られ夜をゆく心しだいにふくらみゆきて
スキルシート
五宝久充
朝一の受信トレイに人財の提案メール二つ紛れる
キャリア捨て派遣で新たな道さがす夢追う人のスキルシートは
この部署にあなたの夢はありませんただサポートが欲しいだけです
断りのメールはいつも柔らかく今は足りてる状況ですと
面談の依頼かければもうすでに他の会社(ところ)に決まりましたと
小刻みな職歴の中行間の中に隠れた時間を想う
部署長の予定の隙間に割り込んだやっと見つけた人財(ひと)の面談
面談は進行役に終始する他人の道に踏み込まぬよう
受け入れのりん議がとおり一息も答え合わせは未だ少し先
契約の終了告げる淡々と 短期でしたが助かりました
三 郎 池
氏家長子
点在するシロツメグサの花の場所港のようだ冠を編む
早苗田に登校の列映りいる 不揃いでいいひまわり畑
部屋を借りカラーボックス組み立てた窓に万緑の昭和があった
道路まで西瓜とカボチャの蔓が伸び行きたいところへ行けない自由
心さえ奪われる炎暑ふるさとのおとぼけ人形こころに置いた
ご近所に貰われてきた犬を見に犬連れて行く友達になる
お盆に来てボンと命名された犬いま新しいふるさと歩く
かの世から来たひとも流れに入る盆踊りらせん状にゆったり
眼鏡橋のようにはゆかぬ池の面に半月は満月になれない
肘掛け椅子に座る心地す行く夏の三郎池の風のほとりに