りとむ 2026年3月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
まだ捨てられぬ
椎名 みずほ
議事堂に色鮮やかな花三輪花なれば散りゆく日もあらむ
それぞれに花の寿命はあるなれど咲いたからには奇麗に咲かめ
爆音を引き寄せる花はあるらむか耳そばだてて幽きを聴く
その大地削られてゆき、その色も変はり果つるか向日葵の国
兵士らの命は誰に預けたらう風のみ往ける戦場の痕(あと)
軋みつつ湧き上がりくる思い有り 起き上がりこぼしまだ捨てられぬ
地下鉄のレールは闇に溶け入りぬ今夜は追ひたいその先の先
刻々と近づいてきては遠ざかる電車の音か心音を聴く
どうであれ人を殺めるものなのにカッコいいねと刀剣の前
夜ごと観る夢はおおむね二本立て観客であり主演でもある
抜 け 道
一戸 伸衣
もう熊の眠らぬ冬のやってきて赤いリボンの熊の目光る
川伝い線路伝いにくるという熊の結界上書きされて
ふりかえる昭和百年 裁かれしABCの戦犯のあり
軍令は下へ下へとくだされてあわれ強制動員の罪
十二月八日を刻む刻まずばかの日の軍靴近づく気配
手袋をはずしてビラをまく冬日うけとれよ赤紙対象者
月をみる窓は二階にひとつだけ夜へふみだす舟を待たせる
君のみが触れた身体を横たえてみたびの季を雪はふりつむ
徳島の山で育ちし柚子の実は熊をのがれてわれの胃の腑へ
天窓をあけて入れたる風のあり空へつづける抜け道のごと
転ばぬように
井上 ゆう
二上(ふたかみ)山を遠くに眺め食事するいつもの朝のいつもの一コマ
変わらない雄岳雌岳のその姿老いの心を幸せにする
思い出は心に宿るほの明り大津皇子の墓所訪ねしも
新年にひそかに誓う八十に向かって進め転ばぬように
誰も誰もわれを追い抜き先を行くこれでいいのだゆっくり行こう
バカボンのパパはいつでも味方なのだ呪文を唱えまた歩き出す
江戸の世の一年分とかいち日に押し寄せてくる情報量は
情報の千波万波と押し寄せて不安の種の膨らむばかり
脳内のアップデートも必要と今宵も挑む新献立に
お料理も見た目が大事ブロッコリ・トマト・南瓜出番の多し