りとむ 2026年5月号
今月の十首詠
(ひと月に三作品掲載)
(ひと月に三作品掲載)
骨 密 度
小松崎 みずえ
土になる朽ち葉を空に透かすとき少し気になるわが骨密度
隣人にきのう貰いし金柑の大粒ひかる朝のキッチン
髭を出す頃合い待ってる豌豆に北風小僧の貫太郎来る
おでん鍋土産に持ってきた友と運のあるなし語りつつ食む
噛みしめるように歌いし「無縁坂」坊守の友は苦労語らず
ガラス窓すり抜け来たる杉花粉くしゃみ鼻水頭痛もすこし
睡眠の不足を補いくれし椅子いまはゆるがぬ猫の定席
「失せ物はいつか出てくる筈だから」友に倣いて今日は探さず
身支度に時間のかかる齢なり腰、膝、脛に塗るバンテリン
〈今でしょ〉を身に聞かせつつ暮らしおり厚い大皿三枚捨てる
今日降る雪
山根 淑子
熊、熊と騒ぎし年の歳晩の空に落ちゆく「こぐま座流星群」
森の中スタコラサツサと歩みくる熊さんがゐる 輪唱のこゑ
わづかなる残照の中を子の家族と別るる互ひに両手を上げて
まざまざと覚め際の夢 歯磨きの粒子にまぎれ消えてゆきたり
新しき手帳をひらく今日のこの心よ続け体力ともに
使徒たちの言葉のやうに胸に沁む今日降る雪は傘をささずに
降る雪を受けつつ歩めばセーターの編目にひかる 雪の華(スノークリスタル)
凍てる日はこの世を発ちし人思ふ石の地蔵も雪を被つて
ひとときを雪しまき後(のち)の空晴れてわたしの嘘もかがやくやうな
フリージャの花の黄色を思ひ眠らむ邪悪な夢をシャットアウトして
〈お〉の読み札
高橋 千恵
気持ちだけ手に唾をせんウィンカーを下げてアクセル踏み込んでゆく
老木の梅の開花を二週間前に教えてくれたじゃないか
鶴ヶ島ジャンクションには今もまだ【青梅】と小さき看板はあり
晴れおとこではなく雨も似合わないあなたが塞ぐ空の薄墨
職場では見せぬ笑顔で写されて花いっぱいに囲まれちゃって
「ばかやろう俺の前で泣くんじゃない!好きなおとこの前で泣くんだ」
まなぶたを閉じたあなたの横に置く上毛かるたの〈お〉の読み札を
後ろ手を組み歯科室に顔を出す「たかはし、いい歌詠めているか?」
売り上げに期待をせずに「どれどれ」と二十首詠を読む上司なり
澤乃井を傾けており酒呑みのおんなが嫌いな下戸さんでした