※りとむ発行人+編集人+編集委員+HP管理人が、かわるがわる様々に呟きます。
五十音順にふたりずつ呟きます。( き こ さ た て ひ ま や わ )
明日香村に「酒船石」という謎の石造物がある。酒造りに使われたと考えられてその名がついたが、実際の用途は不明。最近は祭祀に使われたという説が有力になりつつあるらしい。
わがうちに終らむ夏の翳り置く遠野傾く酒船石に 山中智恵子『紡錘』
梅の花酒船石は人を恋ふ 津田清子 『無方』
山中智恵子だから祭祀説となりそうだが、晩夏の憂いが濃いこの歌の場合、そうとも言えない。一方、紅梅の咲く暖かな昼下がりを連想させる津田清子の句は酒造り説で読むのがいい。酒船石が実に人間的で魅力がある。
山中智恵子(1925~2006 愛知県生まれ 1985年『星肆』で迢空賞)は前川佐美雄に師事したが、津田清子(1920~2015 奈良県生まれ 2000年『無方』で蛇笏賞)も新聞歌壇への投稿をきっかけに、24歳から3年ほど前川佐美雄に就いて短歌を学んでいる。27歳の時、橋本多佳子の句会に出席したことから俳句の道に進み、多佳子やその師の山口誓子に師事した。
津田清子の句に惹かれて、俳句がよくわからないままにぽつりぽつりと読んでいるのだが、晩年まで前川佐美雄の影響があったように思う。(ま)
スーパーの果物売り場に青い蜜柑が並び始めると、秋が来たなと実感する。
静岡の山のふもとで育ったせいか、蜜柑が大好き。とくに短い期間しか流通しない極早生温州蜜柑の酸味と香りが恋しくて、今日もいそいそと買い物籠に入れてしまった。
運動会や遠足の日、家族や友達と一緒に青空の下で食べたっけ。
てのひらにのせて皮を剥く。ぱっと弾けるいい香り。口いっぱいに広がる果汁が残暑で疲れた身体に染み渡る。
青蜜柑剥きつつ思ふ叱られて幾たび我の父をうとみし 明石海人『白描』
「父の訃」一連から。青蜜柑の香りに、たちまち健やかだった子どもの頃の記憶が蘇ったのだろう。海人も蜜柑畑で遊んだこともあっただろうか。失ってから気づく父への思いと悔恨が切ない。(や)
2025.10