※りとむ発行人+編集人+編集委員+HP管理人が、かわるがわる様々に呟きます。
五十音順にふたりずつ呟きます。( き こ さ た て ひ ま や わ )
銀行の窓口で少しまとまった額の預金をおろそうとしたら、ご用意しますのでこちらでお待ちを、とブースに通された。ずいぶん大袈裟な、と思いながらも仕方なく、結構な時間を待つうちに行員と一緒に警官がやってきた。なぜおろすのか、何のためのお金か、と根掘り葉掘り聴く。呆気にとられるが、妙に穏やかで、なかなかにしつこい。
これは2020年、コロナで外出自粛となり、すべてが停滞した頃のこと。これじゃ銀行の一つや二つ、つぶれるに違いないと思い、補償限度額を超える分は手元に置くほうがよいと考えたのだった。だけど、訊問されてそうは言えない。言い繕うのはもともと下手。しどろもどろになって、相手はいよいよ怪しむ。家からここまでどうやって来たの? ご主人が迎えに来るなら、今ここで連絡をとってみて。車までついてゆきます、いいですね。
警官が言うに、ここ川崎市麻生区は長寿のエリアとしてトップクラス。同時に振り込め詐欺に遭う住民の数も県内一の最悪事態だとか。警察は神経を尖らせ、銀行と連携して高齢者の預金引き出しを警戒している。つまり、わたしを慌てて銀行に駆けつけた老女とみたのだろう。失礼な。
ロータリーに迎えに来てくれた夫もびっくりだったはずだが、警官がひとわたりの注意を施して、ようやく解放してくれた。
あれから四年以上たつけれど、銀行は無事。金利も少し上がったから、お金をATMでぼちぼち戻した。とんだ浅知恵だった。(こ)
山梨県立文学館に勤務するようになって十四年になる。館長の仕事はいろいろあるが、その一つが年に一度の企画展。学芸員の提案も踏まえ、私からも提案する。しかしその苦心のプランが入館者数に反映するとは限らない。村岡花子展は一日当たりの入館者数が開館からのベスト1だったし、宮沢賢治展も林真理子展も想定をはるかに上回った。しかし開館35周年記念と銘打ち、自信を持って実施した2024年度の金子兜太展の入館者数が意外に振るわず、落胆した。兜太は俳句を超えた存在だし、なによりも彼のスケールの大きい俳句作品、生き方、時代や人生への発言が人を引きつける。そう思っているが。
人様の関心の方向は測りがたい。多摩丘陵にひっそりと暮らすつぶりも、ふとため息を洩らすときがある。(さ)
2025.12