『カニ(笑)』

文・きよみ / 絵・ReiKa

まえがき

カニは英語でも、ドイツ語でも癌のことです。

乳癌歴10年を超えて、詩でもなく、川柳でもなく、戯言で日常を書いてみました。

ニカニカ(笑)してくださいね。

まだ有るよ。これ見よがしに髪伸ばし、肩甲骨(健康骨)まで届かん。

<副作用での脱毛は、女心が傷つきます>

女性ホルモン無くしたら 脛毛濃く 野太い声になるのかしら?

<抗エストロゲン剤は女性ホルモンを抑制します。でもこんな副作用はでませんよ>

「腕腫れないの 羨ましい」と母が言い 同病二代目、手を挙げて見せ

<昭和40年代手術を受けた母は、ひどいリンパ浮腫に悩んでいました>

今日も食べたかと夫聞く にんにく、キャベツ、ブロッコリー

<乳癌予防に良いと言われている食品です>

「太ったね」「元気そう」 

イエイエ本当はむくんだ顔

<腎臓からくるむくみです>

片目開かず。 これチャンスかとウインクの練習

<腎臓からのむくみで、まぶたが重いのです>

シワ浅い目尻、目の下美容液 少なめにすます節約顔

<顔のむくみは皺も減らします。長年かかる医療費はこんなところで節約します>

爪が白くなりにつれ、あざやかに色つきにけり

<ゼロータという薬を飲んでいた時は、爪が白色になり、ネイルが映えます>

苦味、口に残滓(し)し コーヒー党から紅茶に鞍替え

<コーヒーが飲めるかどうか?は体調のバロメーター>

制作時 同じ形の盛り上がり

今や作り物が美形の胸なり

<原発手術より10年。現物は歳とともに垂れていき、パットは当時を留める>

指触れるつぶつぶは 「リンパでないから大丈夫」と医師が言い 虫刺され後と同等の皮下のがん

<あまりにサラリと、先生に流されてしまいました。蚊に刺された後のようです>

捨て置きたいと足を止め バーゲン帰りの重い袋

<手術した方の腕をいつも庇っています。>

痛み箇所 言わずと判る夫の手 背中へ湿布 「出て行け! がん」

<湿布を貼りながら夫が言うセリフです>

「気を強くもっていれば 細胞が活性化するんだ」 は我が家のおまじない

<これも湿布を貼るときの決まり文句です>

湿布薬 貼りそびれて浅い眠り 

カニ(笑)ねり朝迎える

<湿布薬=痛み止めは睡眠薬にもなります>

意のままに動かせたらきっと特技さ 足の親指90度にそりかえり

<足の指がつると、手でひっぱる以上にそりかえります。痛くもあり、奇形でもあり>

花の種 もらってうれしや世話をする。 増やさず今年も一鉢だけ。 来年は誰が咲かせてくれようか。

<世話が行き届かなくなった花鉢の枯槁憔悴は見たくないものです>

庭に花 球根ばかりを植えにけり 紫ラン、フリージア特待生

<自然の恵みだけで毎年花をつけてくれる古参。これからも年月を重ねそうです>

耳の奥刻むリズムはグヮングヮン キレはなくても生きてる証

<心臓の鼓動が耳奥で聞こえます。キレある音だったら爆発しそうで怖い!>

「オオカミさんに食べられたの?」と孫娘、 タオルで隠した祖母の心うち

<手術後を見て言った孫娘=私の娘の問いに、祖母=私の母は答えられなかったらしい。

「美味しそうなオッパイだもんね」は、心うち知らずの私の答えでした>

あとがき

母・きよみ(あだ名はプリンさん)は、乳がんを原発に長い闘病生活をしていました。

摘出、抗がん剤治療、子宮に転移してまた摘出、通院しながらの治療継続…。

私の祖母も乳がんでした。がんでも脳溢血(のういっけつ)でも交通事故でも無事の不死身な祖母だったので(83歳で他界しました)、プリンさんのがんも私の盲信で「治る」と思ってしまっていました。

実際は、辛く長い闘病生活だったと思います。

でも、痛がったりふさぎ込んだりするのが嫌いなプリンさんは明るく仕事も続けてまるで元気な普通のオバチャンとして暮らしていました。

娘に心配されるのも本意ではなかったはず。そして私は本当に心配しなかった(笑)。


いつだか、急に推敲が終わったテキストを渡されました。

「これに絵を描いて。まだ続くの。今はとりあえず、途中まで。」

そうして私が挿絵をつけ、続報を待ちながらWEBで発信したのが『カニ(笑)』です。


未完の作品ですが、私は数少ないプリンさんとの共同作品をまたここで掲載することができたのを本当にうれしく思います。