1donly

 OnePageRPG「1donly」はちょっとしたダイスゲームだ。ドラマチックな物語のなかで、君のサイコロ運を試してもらう。うまくいけば君を主役とする物語を最後まで体験することができるだろう。そしてちょっとイイ気分になれたらゲームは成功だ。失敗したら死ぬだけさ。いつでもやりなおしがきく。

 ゲームは主人公キャラクター(PC)を担当し、サイコロを振るプレイヤー(PL)そして物語や展開を語って聞かせるゲームマスター(GM)の二人で行う。二人の興がのったらもっと話を膨らませたり演出を足してみると楽しい。

 ルールはシンプルだ。
 準備されているシナリオの1番をGMが物語として語り聞かせる。PLはその状況で自分のPCがどう感じるのか、どう語るのか、どう行動するのかを演技する。演技や行動による重要な物語分岐はシナリオに示されている部分のみだ。GMはPLの行動によって選ばれた結果のルートへと物語を進めてゆく。
 戦闘が起こったときは、PLのみダイスを振り、「1D6+自分LV+敵LV」の結果に従う。1D6とは六面体サイコロを一つ振った値だ。LVとは物語のなかで高まってゆくPCの強さで、成長を意味する。敵LVとは登場した敵の強さを意味し、強いほうがマイナスの値となる。たとえばダイス目が4、自分がLV2、敵がLV-1だったら、従うべき結果は4+2-1で5となる。
 戦闘や物語の結果としてダメージが貯まってゆくが、ダメージがいくつになっても死ぬわけではない。へとへとになり、ボロボロになりながらも物語は進んでゆく。戦闘結果の「すべての敵」とは、その場で同時登場している敵を指す。順次登場する敵を同時撃破することはできない。順番に一体づつと戦うことになる。戦闘結果でPCが死亡したら、そこでゲームは終了となる。

「戦闘結果表」
-1以下 君は哀れで無残な死を遂げた。
0 君は惜しくも戦死した。
1 苦戦。ダメージ1で再度ダイスを振れ。
2 負傷。敵を撃破したがダメージ2。
3 軽傷。敵を撃破したがダメージ1。
4 拮抗。再度ダイスを振れ。
5 勝利。敵を撃破した。
6 成長。英雄的に敵を撃破した。自分のLVが以降+1。
7 圧倒。すべての敵を撃破した。
8 覚醒。君は聖なる域に目覚めた。どんな敵も「倒した」の一言で済ませることができ、以降、ダイスを振る必要もない。

 君は侵略軍に敗北したばかりの王国の騎士だ。命をかけて守ると誓った王も姫もを惨殺された屈辱の後、野良猫のように下水道を彷徨って生きてきた。今が朝か昼かもわからないが、腹が減っている。さあ、目の前にネズミ(LV+1)が3匹いる。仕留めて飯にしようか。君がその気がないなら、ネズミのほうが君をエサだとみなして襲ってくる。2匹を倒すとネズミは遅まきながら逃げ出すが、君は追う。2へ。

 最後のネズミを追って通路を走った君の前にあったものは、赤錆びた檻馬車で、中には白い衣をまとった美しい少女がいる。少女はぐったりとして呼びかけにも応じない。馬車の御者は王国を滅ぼしたゴブリン兵団の小隊長(LV-1)だ。倒せば少女を解放することもできる。戦って救ったら3へ、素早く隠れて見なかったことにするなら4へ。

 助けてみると、彼女が異邦人だったと判る。なだめても取り乱し、うなされたように「アルゲロン、アルゲロン」と繰り返す、その言葉の意味はわからない。めんどうくさいことになってしまった。即時に捨ててしまうなら3に進んでもいい。そうでなければ、足手まといの彼女を連れて進むと、隊長を失って怒りに燃えるゴブリン兵(LV±0)が3体追ってくる! 次々と戦いぬけ!

 君は少女をあとに、足早に回廊を進む。後ろのほうでゴブリンのわめき声が聞こえていたが、やがてそれも遠くなった。下水道からでて、ひさしぶりに見る街は変わり果てていた。侵略軍の旗印があちこちに掲げられ、悪趣味な黄色のマントをひるがえす見慣れぬ衛兵が闊歩する。伺い見ていると、顔なじみの屋台が衛兵に因縁をつけられて、商品を蹴り散らかされていた。正義感の強い親父はかっとなって衛兵に怒鳴ったが、衛兵はあざ笑いながら剣を引き抜く。君はまた見捨てることにするか?それとも2人の衛兵(LV±0)と戦うか? 君が倒せば、親父も通行人も喝采と感謝を示す。まあ、君が手を出さなくても、親父は貯まった鬱憤を叩きつけて衛兵をのしてしまう。6へ。

 少女は君を恩人だとみなしたようだ。怯えた体を密着させ、異国の言葉でなにかをしきりに語りかける。わからない君は困惑するばかりだ。しかし、そんな君たちに冷たい声がかかる。「その子を返してもらいたい。その子がいないと、アルゲロンを従わせられんので困るのだ」黒い騎獣に乗った侵略軍の騎士だ。たたずまいの高貴さに比べ、その戦法は高貴ではなかった。左右から黒服の暗殺者2人(LV-1)がに君に襲いかかる。そいつらを倒したら、騎士(LV-2)との戦いになる! 騎士はもう一度、いらだたしげに言う。「暴走したアルゲロンは災厄だ。私の言葉に耳を傾けたほうが身のためだぞ」。騎士と語り合うなら7へ。倒したら、少女を連れて街を逃れ出よう。8へ。

 民衆の怒りが、この争いで噴出しようとしている。彼らは口々に反乱を叫び、侵略者の旗を引き裂き始める。「吊るされた王の仇を!殺された家族の仇を!」その叫びが興奮をあおりたて、暴動が起こってゆく。しかし、その波を押し返すように、巨大な姿が街区を壊しながら現れた。「アルゲロン!」誰かがその名を呼ぶ。白くぬめぬめとした、醜悪な魔界の巨人(LV-5)。そいつの腕が、容易に民衆を跳ね飛ばし、飛沫を上げる肉塊へと変えてゆく。アルゲロンをダイス3回振る前に倒せたら9へ。倒せなかったら街を捨てて逃げろ。8へ。

「感謝する」騎士は剣を収め、怯える少女の腕をぎゅっと掴んだ。その瞳がぼうっと赤く輝いた。「君たちは賢明で勇敢だった。しかし我々は魔を手を結んだ。より強い力を得るために」その言葉には自嘲の響きがある。「私と来て新たな世界を見るか? それともあくまで抗うか?」 抗うと言っても、彼は君を見逃す。しかし、敢えて騎士(LV-2)と戦うことを挑んでもいい。君の未来はどこへ進むのだろう。終了。

 足元がふらつく。君は汚れた剣にすがるように城門を出た。街は騒然となっている。白く巨大な醜い怪物がすべてを破壊しているのだ。世界は混沌のなかに投げ込まれた。荒野へと走れ。君の戦いは続く。終了。

 君はアルゲロンを倒した。どうと倒れる巨体を乗り越えて、民衆たちが占領された王宮へと向かってゆく。民衆が以前の暮らしを取り戻そうと願うことは善政がなされていたかの証であろう。戦いが落ち着いたら、君は勇者として頼られることにもなろう。そして、人々の願いに答えて、再び善き国を作り直さねばならないのだ。終了。


※ このテキストは1ページRPGとして作成され、ゲームマーケットにて配布されたものです。

ストーリーゲームであるTRPGの提供すべきものって何なんだろうな、と考えていた時期のテキストです。ロールプレイング・ポエムのムーブメントにも影響を受けています。その答えの一つが、非常にコンパクトなシナリオセットなのだろうな、という回答です。そして原点回帰として、ゲームブックになる、という感じでありますね。

ゲームデザイン: 伏見健二