人工林土壌の酸性化スパイラル


植物がその性質として、土壌を肥沃にするのか、痩せさせてしまうのかは、人間が森林を永続的に利用するために必要な情報です。

私たちの住む日本でよく植えられているスギは、地中深くからカルシウムを吸収して葉に蓄え、落葉として土壌に還すことで、カルシウムを土壌の表層に蓄積する機能があります。

スギが土壌に還したカルシウムは、植物が利用できる「交換性カルシウム」と呼ばれるイオンの形をしています。その量が多いほど、土壌の酸性度は低くなる傾向があります。森林の土壌は、生態系の内外で発生する酸性物質の作用により、酸性化のリスクにさらされているのですが、「交換性カルシウム」の蓄積はそのリスクを抑えてくれます(もちろん土壌の酸性度に影響を与える要素は交換性カルシウム量だけではないので、酸性化を抑える方向に働くというだけで、完全に抑えるわけではありません)。

すなわち、スギはカルシウムを循環させ、足元に蓄積することで、森林土壌の酸性化を食い止めることに一役買っているのです。スギのようにカルシウムを積極的に循環させる植物を、カルシウムサイクラーと呼びます。森林を持続的に利用するためには、このような樹木本来が持つ、養分を循環させる力を損なわないことが大切ですが、このカルシウムサイクラーとしての能力は、スギをどのような土壌に植えても発揮されるのでしょうか?

私たちは、約20年前に調査されたスギ林土壌を再び調査し(Resampling 調査と言います)、「肥沃なスギ林土壌は森林の生育とともにますます肥沃(注1)に、酸性度の高い痩せたスギ林土壌はますます痩せて酸性になる」という現象(図1)を見つけました。

痩せている土壌にはスギの栄養源である「交換性カルシウム」が少ないため、葉のカルシウム濃度も低く抑えられます。そのため落葉として土壌に還る量も少なくなり、結果としてカルシウムが土壌に貯まらないという、量的に小さな循環が営まれているようでした(図2)。 

また痩せた土壌の母岩を調べたところ、肥沃な土壌の母岩よりカルシウム濃度が低い傾向がありました。植物がいくら一生懸命に循環させようとしても、その場にカルシウムがなければ循環できない、無い袖は振れない、ということでしょうか。さらに、痩せた土壌では、細根バイオマス量が肥沃な土壌より高いことが分かりました。薄い栄養を採ろうとスギはがんばって細根を増やすのでしょうか。

我々は、植物ー土壌間相互作用で土壌がますます酸性化していく現象を、酸性化スパイラルと呼ぶことにしました。

この調査を通し、土壌と植物が、互いに強く影響しあう姿が見えてきました。「どの樹種がどのような土壌の環境に反応し、さらにその影響によって土壌がどのように作りかえられていくのか?」を把握することは、植栽時に樹種を選択する場面などで有用な情報となります。

(注1)本研究では、養分とは塩基性陽イオンのことを指し、肥沃とはこれが土に豊富に含まれる状態を意味します。

引用・参考文献