根鉢(ねばち)解体:根が抱きかかえている土の量

これは何の写真でしょう?

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これは、2018年8月28日に発生した台風21号(Jebi)が地上に残した、根鉢の写真です。根鉢は、根とそれが抱え込んでいる土壌のカタマリのことです。この台風は、9月4日に近畿地方に上陸し、四国地方や近畿地方では猛烈な風(多くの場所で観測史上第1位)を記録しました。名大に移る直前に谷川が住んでいた京都市内でも、戦後最大の瞬間風速39.4メートルが観測されました。

谷川が務めていた京都市にある森林総合研究所関西支所構内の人工林・二次林でも、痛ましいほど大量の倒木が発生しました。樹木は折れ重なるように倒れていたため、その観察のために林内を歩こうにも、倒木によじ登り、また滑り降り、あるいはくぐり、という方法でしか先に進めない有様 でした。その中で異様な風景として目に映ったのは、ぽこぽこと地上に姿を現した、それまで樹木を支えていたに違いない根鉢の集団でした。


「根鉢の重さ、つまり根が抱いている土の量」は、樹木が安定して立っているために重要な要素です。しかし根鉢の重さが実測された例は、世界でも(知る限り)1件だけでした。大きい木は大きい根鉢を持つのだろうが、その規則性はどんなものなのかが気になったため、関西支所の仲間たち、共同研究している関西地域の仲間たちを呼んできて、これを解体して、根と土に分けてみました。

はじめは根鉢をぶら下げ、バールなどでつついて土を落としてコンテナで受け止め、これを何十往復もして秤に乗せて土の重さを測っていたのですが・・・

寝ている者は子供でも使え と 長男動員・・

重機も投入・・・

大きすぎて持ち上がらない根鉢は、周囲に溝を掘って、ブルーシートを敷いて、コンテナを並べ、その中に土を落としていく・・落ちた根っこはひろう・・ということをして

1)根は自分の質量の13倍もの質量の土壌を抱いている

2)樹木個体全体の質量より、根鉢に含まれる土壌の質量のほうが重い

3)地上部に対する地下部の重量比は、根鉢の土壌を考慮しなければ(根のみならば)0.26と地上部のほうが重いが、土壌を考慮すると3.9倍になり、地下部のほうが劇的に重くなる。

4)樹木地上部のアロメトリックな指標は根鉢の重さや体積の指標になる。ただし一次線形式よりべき乗式の当てはまりが良い。また根鉢のべき乗数は根のそれよりも大きく、樹木は成長に伴って根鉢を加速的に拡大させている。

ということがわかりました。


つまり、

①樹木は自身のバイオマスの1/4ほどしかない根を使って、自身よりも劇的に重い土壌を保持し、地上部を支えている。

②樹木が大きくなると、根系が土壌を保持する能力は上がり、少ない根でたくさんの土壌を抱きかかえることができるようになる。

という樹木の生き方が見えてきました。樹木って器用ですね。


(引用文献)

Tanikawa, T., Ikeno, H., Todo, C., Yamase, K., Ohashi, M., Okamoto, T., Mizoguchi, T., Nakao, K.,  Kaneko, K.,  Torii, T.,  Inagaki, I., Nakanishi, A.,  Hirano, Y. (2021) A quantitative evaluation of soil mass held by tree roots. Trees 35, 527–541. DOI 10.1007/s00468-020-02054-y   PDF via RG


谷川東子、池野英利、藤堂千景、山瀬敬太郎、大橋瑞江、岡本透、溝口岳男、中尾勝洋、金子真司、鳥居厚志、稲垣善之、中西麻美、平野恭弘 (2022) スギ根系が抱きかかえている土壌の量はどれくらい?-台風21号が地上に残した根鉢の解体- (水利科学33巻  1-35ページ) PDF