「下から上に向かって出来る土壌」で
イオウはシマシマ
「土壌がイオウを保持する力」で登場した「火山灰土」は、上へ、上へと生成が進む珍しい土壌です。この生成の仕方を、英語ではUpbuilding pedogenesisといいます。
では多くの場合、土壌はどうやってできるのでしょうか?
土壌は、石や火山灰といった母材と呼ばれる無機物が風化したものと、そこに生息する生物の遺体が腐植化したもので出来ています。風化・腐植化は、耕作のない森林ではともに上方から下層へ進む作用なので、このタイプの土壌生成をTopdown pedogenesisといいます。
でも火山灰が多く降る場所では、表層に灰が被ることで、表層だった場所にあった有機物の分解が遅延し、新しくできた表層に新鮮な植物遺体が供給され分解が始まる、を繰り返すことで、上に上にと土壌が生成されていきます。しかし分解作用も受けているので、Upbuilding pedogenesisを持つ土壌は通常、Topdown pedogenesisをも併せ持ちます。
そんなふうにできる土壌には、どんなカタチでイオウが蓄積されているのでしょうか?私たちは、イオウの分解程度は、酸化形態に現れることに着目し、イオウの酸化形態を高感度で識別できる放射光分析(S K-edge XANES)を導入しました。
すると、完新世に入り気候が安定する1万年ごろから現在までかかって生成した土壌では、分解程度の異なる有機態イオウがバリエーション豊かに存在することがわかりました(つまり、土壌を縦に切った時の断面には、シマシマ模様がみらました)。これにより、Upbuilding pedogenesisとTopdown pedogenesisとが同時に進行していることが伺えました(図1)。
さて、1万年という土の年齢はどのように知り得たのでしょうか?降灰年代(火山灰が降った時)がわかっている火山灰の層は指標テフラと呼ばれ(英語ではdated tephra)、その上にできた土の年齢を教えてくれます。
指標テフラをつかった時間軸を用いたところ、東日本の火山灰土には1000年余りのあいだ、一定の速度でイオウ化合物が蓄積されていることがわかりました。この等速度の蓄積を考えると、火山灰土に溜まっているイオウは母材由来なのかもしれません。では火山灰土は外部からのイオウを貯めないで自分が持っていたものを放さないでいるだけかというと、火山灰土に硫酸イオンを吸着させるとほかの土より多く吸着しますので、やはり火山灰土は、外部から供給されたイオウに対しても高い保持能を持つ土壌、と言えるのではないかと思われます。
「土壌がイオウを保持する力」で登場した遊離酸化物は、土壌の深さ方向でも、土地の水平に広がる方向でも、さらに時間的にも、イオウと一緒にいる(それらは時空間的な親和性がある)ようです(図2は、水平方向の例です)。
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