ホウ素を活用した光機能性分子の開発(吾郷)

 ホウ素は価電子を3つしか持たない電子欠損性元素であり、オクテットを満たさない三価三配位状態の化合物が安定に存在できる極めて変わった元素です。一方で同族のアルミやガリウムとは違い、炭素を始めとした他の元素との共有結合が十分に強いため、分子を上手く設計すると、普通の有機化合物と同様に取り扱える含ホウ素有機化合物を得ることが出来ます。三配位のホウ素元素は空の2p軌道を持つため、ホウ素をπ共役系に連結すると2p(B)-π共役が生じ、LUMO準位の低下に起因した光吸収・発光特性、電子供与性元素(ドナー)とのD-π-A共役、および空軌道へのルイス塩基配位をトリガーとした分子スイッチ特性といったユニークな機能を創発できます。

我々は前述の2p(B)-π共役に着目し、ホウ素-π共役系-典型元素の電子的相互作用に起因した光・電子機能分子の開発を目指しています。剛直・頑丈な縮環共役構造にホウ素に加え窒素や硫黄などのドナー性典型元素を導入したジベンゾヘテラボリンを基本骨格に、蛍光発光分子アニオンセンサーりん光分子を開発してきました。

ジベンゾヘテラボリンの光学的性質を活かし、有機EL用青色発光体を開発しました。これらの発光体は良好な熱活性化遅延蛍光 (thermally activated delayed fluorescence, TADF) 特性を持ち、有機EL素子を高輝度・大電流密度で駆動した際にも高い量子効率が維持されることから、ジベンゾヘテラボリン構造が有機ELのロールオフ抑制に有効であることを明らかにしました。励起状態において、複数のヘテラボリンユニット同士が電子的相互作用することでTADF特性が向上しています。 

ジベンゾヘテラボリンを基盤とした紫外発光体二重発光を利用した白色発光分子、カルコゲンの重原子効果を利用したりん光発光体の開発、およびジベンゾヘテラボリンの有機光触媒への応用も検討しています。