ヘテロイプチセン類の合成と機能化
イプチセン類へのヘテロ原子導入に伴う機能発現を目指し研究を行っています。
ヘテロイプチセン類の合成と機能化
イプチセン類へのヘテロ原子導入に伴う機能発現を目指し研究を行っています。
鍵原料 "TCBO" とビスピロール含有ヘテロトリプチセン
トリプチセンは三枚のベンゼン環が二つのメチル基で架橋された化合物で、プロペラのような構造とユニークな電子物性・集合特性を示すことから電子材料・センサー材料・超分子化学の分野で着目されてきました。
一方で、トリプチセンの芳香環にヘテロ原子を含むヘテロトリプチセンの合成は、その合成が困難であるためあまり研究がされてきませんでした。我々はヘテロトリプチセン合成のための重要な鍵前駆体 "TCBO" を開発し、ピロール環を二つ含む新規化合物 の合成に成功しました [1]。本分子は、ヘテロトリプチセンのユニークな構造に由来した二次元集合特性と光学特性を示すことを明らかにしました。
[1] Eur. J. Org. Chem. 2022, e202200041.(Top Downloaded Article !!)
光学活性なアザトリプチセンとそのHBr塩、および白金錯体
トリプチセンの2位が窒素へと変換された"2-アザトリプチセン"は、過去に報告例がある一方でその機能化はなされてきませんでした。我々は TCBO を原料とした光学活性な 2-アザトリプチセンの簡便な合成法を開発しました [2]。得られた化合物は170 nmを超えるソルバトクロミズム円偏光発光特性を示しました。
ピリジンの塩基性を利用したHBrとの塩では、結晶状態で分子を内包可能なキラルなかご型4量体クラスターが得られました。さらに白金との錯形成により得られる2-アザトリプチセン白金錯体は明るい円偏光燐光特性を示すことが明らかとなりました。
The first example of triptycene-bearing intrinsic chirality: 2,6-diazatriptycene / 骨格にキラリティを有する初のトリプチセン:2,6-ジアザトリプチセン
窒素2原子がトリプチセンの骨格にキラルに導入された"2,6-ジアザトリプチセン"の合成に初めて成功しました[3]。得られた化合物は、酸添加によるカチオン・ジカチオン化に伴い、以下に示す興味深い特性・機能を有することが明らかとなりました。
エナンチオピュアな (9S,10S)-1は溶液状態で発光を示しません。一方でTfOHを1当量添加すると緑色の負の信号を持つ円偏光蛍光を、さらに 3 当量の TfOH を加えると正の符号を持つ 円偏光蛍光を示しました。これら三段階の変化はトリエチルアミンを適当量添加することによって完全に可逆性をもちながら制御可能でした。すなわち円偏光蛍光の三段階制御を単一分子系かつ単一溶液系で、世界で初めて達成することができました。円偏光発光のスイッチングは、セキュリティ通信や、分子センシングへの応用の観点から着目されており、新たなスイッチ法の提案と、スイッチングの次元拡張は非常に重要と捉えています。
さらに特筆すべきことに、本化合物は酸の当量によってイオン性水素結合やイオン性のドナーアクセプター πスタッキング相互作用が発現し、ヘリンボーン(酸無し)、トリマークラスター(酸0.33eq), キラルポーラスチューブ(酸0.86eq), 二次元電荷分離シート(酸 2eq) へと集合構造が変化しました。加えて、酸が増えるごとにAIEE特性が向上しました。これらは比較的強固なイオン性水素結合相互作用が増加するためです。こように我々はトリプチセンに窒素原子をドーピングすることで、秘められた光学機能と分子集合特性を発現させることに成功しています。