技術が優秀なので、日本では事故は絶対に起きない → 安全性実証のための安全性研究
事故は必然 → それでも再開するか、再開しないか
安全性に費用をかければ事故の確率は小さくなる → かけるほど経済性が低下
これらは、福島事故後に原子力技術者の反省としてマスコミでもよく聞かれたことです。
原子力発電所で重要な機能は、止める、冷やす、閉じ込める、の3つ。
これらの機能のうち一つでも失うと、原子炉は暴徒と化すようです・・・福島第一原子力発電所のように。
火力発電では、燃料の注入をやめると炉は止まりますし、燃料や空気の量で出力を調整できます。しかし、原子力はそうはいきません。
日本にある型式の原子炉、BWRやPWRは燃料を原子炉の中に挿入して蓋をするので、燃料を運転中に取り出すことができません。そのため、制御棒やホウ酸水などの中性子を吸収する材料を使ったり、原子炉内の流量を調整して原子炉を コントロールし、緊急時にはそれらを使って停止します。
このため、制御棒やホウ酸水が使えなくなると原子炉をうまくコントロールできず緊急停止できなくなります。これが人々が不安になる一つの大きな要素ではないかと思われます。
福島第一の東北大震災時には、東電や国の報告書から原子炉は地震直後に安全に停止したことが分かります。あのような巨大地震でも制御棒が挿入されて原子炉を停止できたということは設計がうまくできていた証拠とも言えると思いますし、止める機能はきちんと働いたと思います。
しかし、一方で、地震ですでに設備が壊れていたのではないのかなど、特に反対派の団体から疑問が出ています。
例えば、地震で制御棒が壊れて原子炉に挿入できなかったり、ホウ酸水が注入できなくなったりしたら本当に大変なことになるので心配になります。
BWRであれば、制御棒は十字の形状で燃料と燃料の隙間を重力に逆らって下から上に挿入します。もし、挿入機構が壊れたら、燃料を入れたチャンネルボックスが壊れて制御棒の通路が塞がれたらどうなるのという心配もあります。しかも、重力に逆らって下から上に行くのですからなおさら心配です。制御棒が下に抜け落ちて、局所臨界になる事故が志賀原発でありましたね。
PWRであれば細い制御棒が燃料集合体にある細い管の中を通って重力で上から下に挿入します。細長い制御棒が、燃料集合体の中にある管のなかを進むので、その通路が塞がったり曲がったりして途中で止まったらどうなるのと心配してしまいます。
もちろんこれらのことは設計で十分想定されているとは思いますが、想定外の地震がきて大丈夫なのかという不安もあります。ホウ酸水などを注入する配管やポンプが割れたりしたら・・・考えるときりがないですね。
このように、あらゆる事故を想定しないとやっていけない発電方法はなかなかしんどいですね、特に大きな災害の時には。
ほとんどの人がご存知かと思いますが、これが、福島第一原発で東北大震災の時にできなかったことです。多くの人が固唾を飲みながらリアルタイムで報道を見ていたのではないでしょうか?自衛隊の ヘリコプターで、なけなしの水を原子炉建屋の上からかけていたのを覚えていると思います。
原子炉には冷やす機能がたくさん備わっています。主要な冷却系もそうですが、緊急時の原子炉への注入系、スプレイ、再循環系などいろいろあります。なぜ、こんなにあるのかというと、原子力は火力と比べると大きく異なることがあるからです。
火力発電では、燃料を止めれば炉が止まり、炉を止めた以降は熱は発生しないので素直に安全な温度にまで自然に下がります。
しかし、原子力発電では、原子炉を止めても燃料が熱を発生し続けるので、火力のように熱くなっていただけではなく、冷却しないと温度はどんどん上昇するのです。
熱が発生するのは、原子炉を停止後も、核分裂でできた核分裂生成物や、中性子を吸収してできたアクチノイド物質が放射線を放出しながら崩壊して別の物質に変化するときにエネルギーを放出するからです。原子炉停止直後は停止直前の出力の7%出力に相当する熱が発生し、1日経っても0.5%出力に相当する熱が発生します。
このように原子炉停止後に大量の熱が発生しても、通常であれば普通または緊急時の手順で原子炉を冷却できるでしょう。こんなにたくさんの冷却手段があったにも関わらず、福島第一で冷やせられなかったのは、津波で重要な設備がやられてしまったことにあります。
非常時の電源であったディーゼル発電機だけでなく、その燃料タンク、原子炉を制御する電気、計装など多くがやられました。一番痛かったのは、熱を唯一取り除いてくれる海に熱を放出できなかったことです。海水ポンプが動かなくなり海水を通して熱を逃がせられなくなりました。
熱を逃がす方法として別の手段を持っていれば結果は大きく変わったと思います。例えば、今、多くの原子力発電所で準備している非常用電源や非常用ポンプ、水源があったら、または、空冷ができていたりしたなら・・・
結局のところ、原子力発電は、停止後も冷やさないと温度が下がるどころか上昇するという大きな問題を抱えています。他の発電と違って大きな災害などの非常時にはより対応が難しくなります。ほっておけば、素直に冷えるのが一番なのですが、それができないのが難しいところです。
原子炉停止後に発生する熱エネルギー(崩壊熱と呼ばれているようです)を原子力ハンドブック(2007年版)に掲載の簡略式で計算してみました。
原子炉停止直後の0.1秒後は7%の出力。福島第1の第3号機の場合、100%出力での原子炉熱出力が2381MWで100%出力から原子炉を停止した直後は約166MWの出力になります。1日経っても約12MWとかなり大きい熱が放出されることが分かります。1年経っても約2MWの出力があります。
日本国内でも最大規模のユーラス六ケ所ソーラーパークが直流で148MWとなっています。(平均的な発電出力でなく最大出力のことだとおもいますが) 停止直後の崩壊熱はこれよりも大きいのです。1年後の崩壊熱でも、その辺のメガソーラーといわれる太陽光発電所の出力よりも大きいとかが得るとその熱の量がよくわかるのではないでしょうか。
上の停止後の出力の推移をもとに、福島第1の3号機がフル出力運転から停止したと考えて、崩壊熱を除去するのにどのくらいの水が必要なのかを計算してみました。
計算では、20℃の水を入れて、100℃で蒸発して熱を除去するとして簡単に計算しています。
結果は、停止直後であれば1時間あたり211トン/時間の流量が必要になります。1日後でも16トン/時間、1年後でも2.5トン/時間の流量と、結構な量が必要になります。
あの、福島第一での事故時には、周辺の状況もすさまじかったので1日たった後でも1時間に16トンもの水を注入するのはとても難しかったのは当然だと思います。
今回の計算結果で注意してほしいのは、流量で示しているので、大きめの値になっています。正しく計算するには、崩壊熱の時間の経過による低下を考慮して時間で積分して計算する必要があります。
これも、福島第一原発の東北大震災の時にできなかったことです。冷やすことができなかった以上避けられなかった結果とはいえ、これが多くの罪のない人たちが悲劇に追いやられてしまいました。
原子力には5つの壁があると言われてきました。ペレット、被覆管、原子炉容器、格納容器、原子炉建屋です。正直なところとして、ペレットと原子炉建屋はあまり壁として大きな意味をなさないように思え、数として入れるのはどうかと疑問に思います。というのも、ペレットは燃焼とともに割れるし、福島第一の原子炉建屋の壁の壊れ方からは閉じ込めるというほどのものでないように見えましたから。ただ、被覆管、原子炉容器、格納容器は閉じ込めることを前提にしっかり作られたものだとは思います。(もちろんペレットもそうだと思いますが) 福島第一原発の事故では、1から3号機ともに冷やせなかったがために、原子燃料が溶けてしまった(メルトダウン)してしまったとの結論に至っています。ペレットが溶けるのは2800℃ぐらい、被覆管は1900℃ぐらいだそうです。原子炉内、格納容器内は温度の上昇のために圧力もかなり上昇したので、閉じ込めることはとても難しかったと思います。
まずは、閉じ込めないといけないというのも非常に難のある発電方法であるには違いありません。もちろん、石油火力や石炭火力などでも有害物質が発生するので同じことではありますが、放射性物質という管理が難しいものだからこそより大変なのです。
原子力発電所で特に力を入れねばならないのは、止めることと冷やすことのように思います。閉じ込めることは、現状以上にすることは経済性との両立から難しいと思います。閉じ込めることに力を入れるならば、いざというときの放出時にフィルタですべての放射性物質をつかまえることでしょう。それ以外としては、人の生活圏に影響の及ばない所へ設置・・・地中深くか、深い海底か、はたまた宇宙か?