自然史博物館

今なぜ自然史博物館が必要なのでしょう

自然科学の中でも、特に自然”史”科学を扱う博物館が自然史博物館です。自然史(natural history)とは、文字通り自然の歴史のことです。自然史博物館(Natural History Museum)とは、次の3つの役割を併せ持つ施設です。

  1. 自然史標本の収集・整理・保管
  2. 自然史標本に基づく自然史科学の研究
  3. 自然史標本を活用した展示・教育・普及

第1の役割において収集・整理・保管する自然史標本とは、生物、古生物(化石)、地層、岩石・鉱物など、自然物の全体またはその一部を保存処置して、繰り返し観察したり、データを取得できるようにしたものです。自然史標本を収集・整理・保管しておけば、いつでも誰でも利用でき、研究でき、新たな知見を導き出すことができ、それは人類にとって未来永劫にわたって有用な知的資産となります。

第2の役割にある自然史科学(natural history science)とは、分類学、系統学、生態学、生物地理学、進化学、古生物学、岩石・鉱物学、地質学、人類学など様々な研究分野を含みます。自然物を研究することで、自然がどのように形作られてきたのか、どのように変化してきたのかが明らかになり、我々が自然を守るために必要な知識がもたらされます。自然史科学を推進することにより、我々人類の生存に必須となる重要な知識や成果が得られます。たとえば、環境が変動する原因の解明、人類に役立つ自然資源の探査、優れた省エネルギー・省資源で成り立つ生物機能の理解と工学的応用、そして、地球環境破壊を効率よく食い止めるためには何にどのように優先的に取り組めばよいかといった政策の立案まで、さまざまな形で利用され、人類が自然の一部としてこれからも長く生存できる可能性を高めることに貢献するでしょう。

自然史標本はそれ自身、展示などを通じて一般市民、とりわけ青少年に対して自然科学への好奇心を育む力を持っています。時間軸に沿った自然史標本の比較展示により、人々は日々の暮らしの中では実感しがたい、46億年の地球の歴史から数百万~数百年のヒトの歴史に至る遠大な時間の流れを理解することができます。我々が生き延びるためには地球環境を持続可能な形に守る努力が必要なことに気づく機会を提供できます。災害に関連する自然史標本の展示に接することで、時の流れとともに薄れがちな教訓を呼び覚ますこともできるでしょう。これが第3の役割である展示・普及・教育活動です。

世界を見渡すとアメリカ大陸では、スミソニアン国立自然史博物館が先頭に立って自然史研究を展開しています。ヨーロッパ大陸やアフリカ大陸では、ロンドンやパリの国立自然史博物館が先導して研究が進められています。一方、東・東南アジアはほぼ空白地帯であり、日本が世界を先導して自然史の研究を進めるべき地域といえるでしょう。日本が「初めて」国立自然史博物館を設立するとすれば、西欧諸国がカバーしきれない東・東南アジア域の要の位置にある沖縄こそが最適地です。何より、沖縄自体が日本における生物多様性のホットスポットです。そして、東・東南アジアは世界で最も生物多様性の高い地域です。これらの自然には未来が詰まっています。人類の未来のために、今こそ沖縄に国立自然史博物館を。

(理事 馬渡駿介)