nuは,右のような活用をしており,唯一のナ行四段活用型である。命令形を欠いているが、これは否定命令の副詞の存在のためだと思われる。終止形はzuに圧倒されあまり用いられることが無いが、用例が存在しないわけではない。(OCOJ参照のこと)
このnuが,希求のna, ni, nu, neの基になった(※認めない辞典もある)が,別章にて解説する。
※niに関しては,ヲ-ニ構文も参照のこと。
未然形naは,naku, napu, nana/naniの形で用いられる。【推量のmuや接続助詞のbaのついた形は確認できない。】【異説あり(MYS-4-624)】
1願望の用法
希求参照
2詠嘆の用法
連体形nuに係助詞ka, 詠嘆の終助詞möがつくことで,否定の詠嘆を示す。「ないなあ」「ないことよ」
※書紀(720)神代下・歌謡「さ寝床も あたは怒介茂(ヌカモ)よ 浜つ千鳥よ」zuは,助動詞でありながらも活用変化が無い性質を持っていて,連用形・終止形を全部zuと持つが,院政期の時点で、既に未然形について一つのアクセント句を成している所から,語尾であったという見解も存在する。[1]
zuはnuより意味において直接的であり,表現においては端的・強勢的であることが特徴である。[2]
zu系列は,ni su(形式的サ変動詞)によるとする説もある。[3][4]然れども,ni suの用例はサ変型活用の形をとるのに,縮約によって無変化になるのは奇妙であるとして否定する説もある。[10]
zuはkêri, te(完了), kî, kêmuに接続する。zu si teという接続も存在する。[4]
zuのja疑問文は,推量と必ず呼応する。「~ないで~だろうか」[9]
※万葉(8C後)一二・二九六三「白栲の手本(たもと)ゆたけく人の寝る味寝(うまい)は不寝哉(ねずや)恋ひわたりなむ」(精選版日国)反語のzu jaも参照のこと。
これは,ariにはzuは下についてarazuのように活用したが,逆に上についてzuariとも活用したようになったものが,更に縮まりzariとなったものである。終止形(と命令形[7])は確認できない。
万葉集では,zariと読めるものが73例あるが,このうち45例が未然形であり,これはzu系列の未然形が存在しないことと整合する事実である。[2]
「~しなくては」「~しないならば」は,zu paで示す。paは係助詞である。ただし,時代別国語大辞典上代編「不」では,zu paの意を「~ないで」,「~ずして」の連用修飾でありzuは連用形でpaは単なる強調としており,仮定条件としての用法を認めていない。
※万葉(8C後)二〇・四四〇八「あらたまの 年の緒長く あひみ受波(ズハ)恋しくあるべし」 (精選版日国)連用修飾または連用中止法のzuにpaが付くと強調,提示を示す。「~せずに」「~しないで」
zu pa
※古事記(712)中・歌謡「いざ吾君 振熊が 痛手負は受波(ズハ) 鳰鳥の 淡海の海に 潜きせなわ」(精選版日国)※万葉(8C後)五・八六四「後れ居て汝が恋せ殊波(ズハ)御園生の梅の花にもならましものを」(精選版日国)〈助動特殊型〉
英グロス:[negative]
意味:活用語の否定
未然形 na
連用形 ni
終止形 nu
連体形 nu
已然形 ne
※旺文社全訳では,終止形に亀甲括弧を置き連用形と同様に区別しているが,理由について説明は無い。広辞苑ではnu系列の終止形を認めていない。(時代別国語大辞典上代編では認めている)
ziは無変化形であり、已然形などは存在せず、終止形と連体形しかない。それも、終止形が105例、連体形が16例で、終止形が圧倒的に多い。[2]
ziは否定のzuにmuがついて縮まったもの[5]と言われていて、実際muとziを対照して用いる例が多く見られる。
註
[1] 屋名池誠『平安時代京都方言のアクセント活用)』
[2] 吉田金彦『上代語助動詞の史的研究』
[3] 旺文社全訳古語辞典,広辞苑「ず」
[4] 時代別国語大辞典上代編「不」
[5]松下大三郎『改撰標準日本文法』
[6]デジタル大辞泉
[7] 時代別国語大辞典「上代語概説」
[8] 旺文社古語辞典
[9]精選版日本国語大辞典
[10]上代日本語の否定辞の研究(徐一平)