ヤドカリ類の生息場利用の研究~危機回避戦略の多様性に注目して
ヤドカリ類の生態学的研究では、彼らが巻貝の貝殻を主とする自然界に存在する様々な構造物をどのように選択・利用するか、という宿貝選択や宿貝利用が盛んに研究されてきました。一般的には「ヤドカリの宿貝は携行可能なシェルター(隠れ家)」と理解されていますが、ヤドカリ類の危機回避行動はそんなに単純なものではありません。
磯(潮間帯)でヤドカリを捕まえようとすると、多くの個体は走って逃げ、あるいは高所から落下し、その場で宿貝に隠れる個体はむしろ少数派であるようです(注意:主に東日本沿岸での観察に基づく見解)。宿貝の奥深くに隠れる種がいる一方、体が収まらないほど小型の宿貝を選んでいる種もいます。潮下帯ではさらに多様で、大きなハサミを自切して逃げる種や宿貝を捕捉すると宿貝を捨てて逃走する種なども知られてます。白亜紀後期には出現したとされる「巻貝を背負うタイプのヤドカリ類」の危機回避行動は、各種の宿貝利用と密接に関連しながら多様化していると考えるべきではないでしょうか。しかしながら、ヤドカリ類の宿貝利用と危機回避行動の関連はこれまで国内外でほとんど研究されてきませんでした。私たちは危機回避行動が多様であることが潮下帯岩礁域におけるヤドカリ類の多種共存を可能にしているのではないかと考えています。
現在は、その可能性を検証する第一段階として、大槌湾沿岸岩礁域に棲息するヤドカリ類について、ヤドカリ類の形態的特徴、宿貝利用パターン、およびと危機回避行動の組み合わせ(危機回避戦略)を定量的に評価する手法を確立し、彼らの危機回避戦略と生息場選択の整合性を確認することを目的として研究を行なっています。
最近に受けた研究助成
危機回避戦略の異なるヤドカリ類の潮下岩礁上の微地形利用様式の比較 2022年度笹川科学研究助成(2022-4088)2022年4月- 2023年2月 大土直哉(研究代表者)
貝殻模型を用いたヤドカリ類の危機回避戦略と生息場選択の整合性の検討 公益信託ミキモト海洋生態研究助成基金 2021年10月- 2023年9月 大土直哉(研究代表者)
最新の関連業績(学会発表)
大土直哉・神吉隆行・早川 淳・河村知彦 潮下帯岩礁上におけるヤドカリ類の出現状況と起き上がり行動の整合性. 日本甲殻類学会, P5, 岡山, 2022年10月.
写真の説明
上段:短い海藻をつかみながら、波浪に逆らい少しずつ進むクロトゲヒメヨコバサミ
中段:貝殻を放棄するイクビホンヤドカリ
下段:メスを持ち運ぶケアシホンヤドカリ