研究業績

小川は、依存症の脳内分子基盤の研究(Ogawa, et al, PNAS, 2007) を通して、分子神経生物学やげっ歯類の行動実験に精通しました。次に、結果が確実な「分かりきっている」報酬よりも、結果が不確実な「どうなるかわからない」報酬に対してより高い意欲を向けるという独自のラット行動課題とIn vivo単一神経細胞電気活動記録法を融合した研究を行い、その神経活動基盤、特に前頭前野の神経活動を明らかにしました (*Ogawa, et al, Neuron, 2013) 。また、光遺伝学法の先駆者であるマサチューセッツ工科大学のEd Boyden研究室で、最新鋭の抑制性光遺伝学分子ツール Jaws の開発を行いました(共著者、Chuong, et al, Nature Neuroscience, 2014)。また、複数ステップの行動計画におけるラット前頭前野ー海馬間の電気活動協調の研究を行いました(Ishino,... , *Ogawa, et al., European Journal of Neuroscience, 2017)。最近では、期待する報酬が得られなかった後でもその報酬を求め続ける動機づけに寄与する中脳ドーパミン神経回路を同定しました(Ishino, et al, & *Ogawa M, Science Advances, 2023)。

原著論文

    * は、Corresponding author(責任著者)。

10Ishino S, Kamada T, Sarpong G, Kitano J, Tsukasa R, Mukohira H, Sun F, Li Y, Kobayashi K, Honda N, Oishi N, *Ogawa M. (2023)

Dopamine error signal to actively cope with lack of expected reward.

Science Advances, 9(10):eade5420.

報酬に関する期待が外れてもそれに対し活動が増すドーパミン細胞を発見しました。プレスリリースはちら(京都大学)やこちら(生理学研究所)読売新聞朝日新聞、Yahoo!ニュース、日本経済新聞、産経新聞、NewsPicks、ABEMAヒルズなどで報道されました。JST news (JST広報紙)6月号Neuroscience News(英語)、JST Science Japan(英語)で取り上げられました。

9.  Ikeda K, Kaneko R Yanagawa Y, Ogawa M, Kobayashi K, Arata S, Kawakami K, Onimaru H. (2019)

Analysis of the neuronal network of the medullary respiratory center in transgenic rats expressing archaerhodopsin-3 in Phox2b-expressing cells

Brain Res Bull, 144:39-45.


8.  Nonomura S, Nishizawa K, Sakai Y, Kawaguchi Y, Kato S, Uchigashima M, Watanabe M, Yamanaka K, Enomoto K, Chiken S, Sano H, Soma S, Yoshida J, Samejima K, Ogawa M, Kobayashi K, Nambu A, *Isomura Y, *Kimura M. (2018)  

Monitoring and updating of action selection for goal-directed behavior through the striatal direct and indirect pathways

Neuron, 99(6):1302-1314.e5    

プレスリリースはこちら


7.  *Ishino S, Takahashi S, *Ogawa M, Sakurai Y. (2017) 

Hippocampal-prefrontal theta phase synchrony in planning of multi-step actions based on memory retrieval. 

European Journal of Neuroscience, 45(10): 1313-1324.  

ポスドクの石野さんの学位論文です。複数ステップの行動を計画する際の、海馬と内側前頭前野の局所電位の協調を示した論文です。独自に開発した行動課題と、海馬と内側前頭前野のシータ協調を結びつけた点で、独創的な論文です。 


6.  Chuong A, Miri M, Busskamp V, Matthews G, Acker L, Sørensen, A, Young A, Klapoetke N, Henninger M, Kodandaramaiah S, Ogawa M, Ramanlal S, Bandler R, Allen B, Forest  C, Chow B, Han X, Lin Y, Tye K, Roska B, Cardin J, *Boyden E. (2014) 

Noninvasive optical inhibition with a red-shifted microbial rhodopsin

Nature Neuroscience, 17(8): 1123-1129.  

小川が、MITのメディアラボのEd Boydenラボで行った研究です(Boydenラボでの仕事紹介)。(Boyden博士は、光遺伝学法の開発により、2016年にブレークスルー賞を受賞しています)。赤色光に反応する光遺伝学用の抑制性分子ツール(クロライドポンプ)Jawsの開発を行いました。赤色は脳内を透過しやすいため、従来のツールよりもより強力かつ広範囲の脳の活動を抑制できます。現在、この分子を用いた応用研究を行っています。   

                         

5.  *Ogawa M, Van der Meer M, Esber G, Cerri D, Stalnaker TA, *Schoenbaum G. (2013) 

Risk-responsive orbitofrontal neurons track acquired salience. 

Neuron, 77(2): 251-258. 

小川が、メリーランド大学(現在NIH)のGeoff Schoenbaumラボで行った研究です。条件刺激と確率的報酬の関係を条件づけされた、自由行動下のラット眼窩前頭皮質(前頭眼窩野)(OFC)から、単一神経電気活動記録を行いました。先行研究では、OFCの神経細胞は、期待される報酬の不確実性(リスク)を表象するとされていましたが、我々は、リスクを表象するというよりは「学習によって獲得される顕著性(acquired salience)」を表象する可能性を示しました。興味深かったのは、ラットが、不確実な報酬を期待する際に、確実な報酬を期待する際よりも、より高い反応行動を示したことでした。この新規行動は、実験結果について議論した、Schoenbaumラボの同僚のEsber博士の新規モデルで説明できました (Esber & Haselgrove, 2011)。

現在、この行動をヒントにした研究を続けています。

ビデオアブストラクト: https://www.youtube.com/watch?v=so-Q2GG35DQ


4. Stalnaker TA, Calhoon G, Ogawa M, Roesch M, *Schoenbaum G. (2012) 

Reward prediction error signaling in posterior dorsomedial striatum is action-specific. 

Journal of Neuroscience, 32(30): 10296-10305. 


3. Stalnaker T, Calhoon G, Ogawa M, Roesch M, *Schoenbaum G. (2010) 

Neural correlates of stimulus-response and response-outcome associations in dorsolateral versus dorsomedial striatum. 

Frontiers in Integrative Neuroscience, 4 (article 12): 1-18.


2. Ogawa M, Miyakawa T, Nakamura K, Kitano J, Furushima K, Kiyonari H, Nakayama R, Nakao K, Moriyoshi K, *Nakanishi S. (2007) 

Altered sensitivities to morphine and cocaine in scaffold protein tamalin knockout mice.

Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA, 104(37): 14789-14794 

小川が、京都大学大学院医学研究科の中西重忠(中西先生の研究紹介)(2015年 文化勲章 受賞)研究室で行った研究です。代謝型グルタミン酸受容体の局在と細胞内情報伝達を制御する足場タンパクのTamalinの遺伝子欠損マウスを、ターゲティングベクターから作成しました。そのマウスについて、DNA、RNA、タンパク質の分子生物学的解析、組織化学的解析、In vivoマイクロダイアリシス(ドーパミン濃度測定)、多数の行動実験・解析を行いました。Tamalinを欠損したマウスは、作業記憶は場所記憶などの一般的機能は正常でしたが、脳に急激な負荷がかかる、依存性薬物であるモルヒネやコカインに対する反応行動が低下することを見出しました。

恩師である中西先生から、「本物のサイエンティストはどうあるか」を教えていただきました。宮川剛先生との共同研究で、マウスの行動バッテリーを行い、多種の行動実験・解析を行えたことも収穫でした。


1. Kitano J, Nishida M, Itsukaichi Y, Minami I, Ogawa M, Hirano T, Mori Y, *Nakanishi S. (2003)

Direct interaction and functional coupling between metabotropic glutamate receptor subtype 1 and voltage-sensitive Cav2.1 Ca2+ channel. 

Journal of Biological Chemistry, 278(27): 25101-25108.  

代謝型グルタミン酸受容体とカルシウムチャネルが、タンパク質同士、直接結合し、機能的にも協調して働くことを示した論文です。小川は、HEK細胞や初代神経細胞の培養法、これらの細胞への遺伝子導入法、細胞内カルシウムイメージング法を学びました。

このときの経験が、現在用いている光遺伝学法やイメージング法などに活かされています。


総説

3*小川 正晃 (2024期待外れを乗り越える能力を支える神経メカニズム ードーパミンの役割

        医学のあゆみ, 288(4): 24508-24509


2.  *小川 正晃 (2019)  注目の研究者 -Edward Boyden-

        分子精神医学, 19(1): 40-41.


        Brain and NERVE , 69(11): 1241-1250.


Google Scholar:

https://scholar.google.co.jp/citations?user=7q0pQkUAAAAJ&hl=en&oi=ao