研究内容

当研究室は、意欲や意思決定、注意の生物学的神経基盤(特に神経回路メカニズム)やその計算アルゴリズムを明らかにすること、さらには、その知見を基に、ヒトの意欲障害症状の新規診断法や治療法の開発に繋げること、を目的としています。

PIの小川は医学部の出身で実際にヒトの医療に関わった経験もあり、ヒトの高次認知機能の理解や、精神疾患の治療に貢献する研究を目指しています。しかしながら、ヒトにおける機能を理解する前段階として、意欲や意思決定、注意の生物学的神経基盤にはわかっていないことが数多く残されています。それを解明するのは、動物を用いた基礎研究が不可欠です。


具体的には、

1.  動物心理学的モデルなどをヒントにし、意欲を調べるために独自に開発する行動課題を遂行中のげっ歯類(ラット、マウス)において、

2.  最新の遺伝学的手法(光遺伝学法、ウイルスベクター、遺伝子改変動物など)神経活動計測法(電気活動、1細胞レベル活動イメージング、遺伝学的センサーなど)、数理モデリング・データ駆動的解析などを用いて、

3.  ミリ秒〜秒単位のタイミング特異的、かつ、状況特異的な機能を解明する

ことに、力点を置いています。


別の角度から言うと、

1) 動物モデル、2) 行動モデルと、3) 理解したい階層の神経基盤を理解するための技術、が重要であると考えます。

1)  動物モデル

我々が扱うのはげっ歯類、主にラットです。ラットは、数十年の間、特に動物心理学的研究に、盛んに用いられてきましたが、マウスに比べて遺伝学的アプローチが遅れています。

2)  行動モデル

マウスでは困難な、ラットの認知能力を活かした、意欲や意思決定、注意を評価するための行動課題を自ら開発し、それを用いることに重点をおいています。特に、条件刺激(や行動)と報酬(や罰)の関係の学習を軸にしています。パブロフやスキナーなどの研究以来、この学習には多くの心理学的考察がなされていますが、その生物学的神経基盤、特に、脳領域間で構成される神経回路がミリ秒〜秒単位の時間に作動することで発揮するダイナミック(動的)な役割は、未だ多くが謎に包まれています。

3)  技術

ウイルスベクターを用いた光遺伝学法による神経回路標識・活動操作、新規遺伝子改変ラット、光遺伝学法を用いた電気生理学、カルシウムイメージング(フォトメトリー法、1細胞レベルイメージング法)、遺伝学的神経伝達物質濃度計測法、1細胞遺伝子発現解析、数理モデリング(共同研究)など。従来ラットでは導入が遅れていたこれらの先端的技術を活用しています。また2光子顕微鏡を用いた1細胞レベルイメージング技術や、1細胞レベルの神経活動操作技術も開発・確していきます。

基本的には、興味のある心理現象の生物学的作動メカニズムを知るためにこれらの技術を用います。一方、これとは逆に、新しい技術の方から解明できる現象にアプローチするという方針も、現代神経科学においては非常に重要です。特に遺伝学的手法は日進月歩ですので、柔軟に、導入あるいは開発します。


以上によって、特に、

(1) 中脳ドーパミン 神経回路

(2) 前脳基底部アセチルコリン神経回路

(3) 前頭前野(特に、眼窩部:Orbitofrontal cortex )

などの役割に着目して研究を進めています。また、これらの領域と密接な解剖学的関係を持つ領域の研究も進めています。

また、ヒト精神疾患の臨床・画像研究や、分子生物学的研究を行う研究者と共同して、精神疾患の新規診断・治療に繋がるトランスレーショナルリサーチを行います。