「刀狩り」とは、豊臣秀吉が検地と一緒に行った史実が有名ですが、実は太平洋戦争の後にも、大規模な刀狩りがあった事をご存知でしょうか?
終戦直後から進駐軍は全国に残る刀剣類を接取し始め、もし隠した場合には罰せられるという噂も流れた中、全国で百万振り以上とも言われる数が集められました。これらは、海に投げ捨てられたり、ガソリンをかけて焼却処分されました。
多くの方々の努力により、5600振り程は返還されましたが、殆どは行方知れずとなり、その中には、国宝に指定されていた「蛍丸」や「本庄正宗」なども含まれています。
関東・東海地方で集められた刀が一時期赤羽に保管されていたので、総称して「赤羽刀」と呼ばれています。
昨年(2017)10月のある日、海外ネット掲示板のRedditをうろついていたら、こんな写真を見つけました。アメリカ人からの投稿で、「この刀、何かの木札がついてるけど、なんだろう?」とのコメントが。
木札のアップ裏表がこちら。
「これ、元の持ち主の名前と住所だよ」と、とりあえず返してみました。「何でお前、こんなの持ってんの?」とイヤミを付けて。
飫肥、、、そもそも何て読むんだ?なんだかんだで「オビ」であると判明。「宮崎県飫肥町十文字にいた伊東松作さんって人が持っていた刀だな。大切にされてた家宝だよ」と返信。(「オビ=ワン・ケノービの刀だよ」と、おサレなアメリカン・ジョークをかまそうと思ったけど、、、外すと寒いので自粛)
すると、「じいさんが戦争でフィリピンに行って、持って帰ってきた刀なんだ。元の持ち主が分かるなら返したいなぁ」とか言う。
フィリピン?おいっ、そりゃ日本刀だろうがっ!もし従軍していた人が持ってたとしても、木札は付けんだろうとツッコミたかったけれど、そこはスルー。まぁ、いいヤツっぽいという事は分かった。
返す気があるのなら調べてみるわ、とコメントを繋ぎ、とりあえず飫肥町のある日南市の市役所に電話をしてみると、「伊東って、飫肥藩の藩主の苗字ですが」と衝撃の回答がっ! 丁寧にご対応頂き、伊東松作さんなる方の消息を調べて貰える事に。
伊東松作さんとは、本家から戦国時代に分家した家老筋の家柄の方で、昭和36年までご存命。その住居「旧伊東伝佐ェ門邸」はなんと、状態良く保存された武家屋敷として飫肥町の観光名所だそうな。
https://www.kankou-nichinan.jp/tourisms/408
ご子孫はどちらにと追加調査をお願いしたところ、方々に手を尽くして調べて頂き、お孫さんが大阪にいらっしゃると判明。
ご本人に電話で経緯を説明したところ、大層驚かれて(そりゃそうでしょうな)、ありがたいお話だと仰って頂きました。
やはり、戦後の刀狩りで20振り程あった家宝の刀は、すべて取り上げられてしまい、今は一振りも残っていないとの事でした。
ここまでが、年末までのお話。
訂正:「飫肥藩4代目藩主から分家した」としておりましたが、正しくは上記です
追記(ご子孫情報):GHQの刀狩りの際に隠そうとしたのだけれど、この国筧の刀は方々に知られていたので、逃れられなかったそうです。
子孫の方が見つかったと、ついでに松作さんの写真もお借りしたのでスキャンしてメールしたところ、持ち主も喜んでくれて、「是非、お返ししたい」と。「だったら、持って来れば?」と返したら、「日本へは行った事ないので、それもいいなぁ」といい感じに。
とはいえ、ここらあたりまでは、名前も住所も知らないでのやり取り。
ここらでお互い顔見せしようじゃないかとなり、2月に入ってようやくSkypeで面通し。持ち主は、アメリカのミネソタ州でハンティングキャンプを経営している方でした。ネットに上げていたのは、実は息子のSam。持ち主ご本人はJeffさんで、陽気な奥さん(こっちが真面目に話しているのに、後ろでニコニコと手を振ってて、、、気が散るんですけど、、、)も合わせて、絵に描いたような典型的アメリカン一家。ダディークールってな感じ。
これから春になって狩猟シーズンで忙しくなるので、日本へ行けるとしたら秋頃かなという事で、とりあえず仮設定。連絡は取り合っていこうという事に。
松作さんのお孫さんは、刀の返還はありがたい事だけれども、研磨や保管の事を考えると、とても個人で保有するのは無理なので、日南市に寄贈したいとのご意向。調整の結果、日南市も受諾を承認。
キレイにまとまりそうだなと喜んではみたものの、何か足りない気がする、、、
戦争直後のゴタゴタで取り上げられたものではあるけれど、それを善意で返しに来ると言ってくれているアメリカ人を手ぶらで帰して良いものか?日本人として、それは如何なものか?
そこで考えました。ハンパな土産を渡すより、刀を返してくれるのなら、こちらも刀をお返ししてはどうかと。
地縁を考え、宮崎(薩摩はナシの方向で)に名工はいないものかと探したら、、、いました、凄い人が。
日向市在住の、松葉國正氏。
http://www.matsubakunimasa.jp/
日本刀の国際化にも積極的に取り組まれており、正にうってつけ。日南市から打診して頂いたところ、魂を込めていい刀を打ってくれるとのお返事。
費用は、短刀なら60万円、脇差なら80万円、白鞘の太刀で150万円。納期は3カ月。
太刀を返してもらうのだから太刀をお返ししたい。出来れば、足代宿代もこちらで出して、ご招待という形にしたい。とはいえ、自分にそんな金は無し。
という訳で、クラウドファンディングを立ち上げました。
伊東氏や飫肥町に縁のある方に、是非ご賛同頂ければと願っています。
集まった資金次第で、段階的に出来るレベルの返礼品を決定したいと思います。
多数の方のお力をお借りし、実現にこぎつけたく、何卒よろしくお願い致します。
【追加情報】
刀を米国に持ち帰ったのは、実はSamのお祖父さんではなく、Jeffさんの友達のColin Fowler(1921年生)という方。アメリカ陸軍745部隊の軍曹(Platoon Sergeant)として、ニューギニアから南フィリピン(ルソン)へ従軍し、名誉負傷兵に与えられるPurple Heart Medalも貰っています。つまり、日本軍と実際に戦闘した軍人さんという事です。Honorable Discharge(名誉除隊1945年11月29日)もお持ちで、戦後は結構な名士だったのかと。Colinさんは既に亡くなられてますが、生前にJeffさんに刀を託したのだそうです。
除隊届
Honorable Discharge
(名誉除隊証明)
若い頃は可愛い感じだったのに...後年はブルースウィルス化しました
家の内装替えの時