JSPS Research Fellow (PD)

研究課題名

場の量子論に対する非摂動論的手法とその超弦理論への応用

審査領域

数物系科学

素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論

2.現在までの研究状況

 自然界の基本構成要素である素粒子は場の量子論によって記述される。場の量子論で標準的な解析手法となっている摂動論は相互作用が弱い領域でのみ有効である。強結合領域を含む非摂動論的なダイナミクスは、場の量子論を格子上で定義する格子場理論により定式化され、その数値計算が可能となった。近年格子場理論の数値シミュレーションが急速に進展し、摂動論では検証することができない本質的に非摂動論的な現象に関して大きな成果をあげている。一方重力を場の量子論に組み込もうとする試みは素粒子理論における極めて重要な研究テーマである。この問題に関して、重力を含む全ての力を統一的に記述するものとして超弦理論が提案されている。この超弦理論においても、弦の1次元的な拡がりに起因した非自明・非摂動論的な現象があるはずであるが、現状では超弦理論の非摂動論的定式化として決定的なものは知られていない。そこで、こうした問題に格子場理論に類似の非摂動論的な手法が応用できないか考えるのは自然である。しかしながら、格子場理論においても未解決の問題や、数値シミュレーション上の困難がある。そのため格子場理論による非摂動論的手法にはさらなる改良の余地があり、特に格子場理論と超弦理論の両者にまたがった領域にはこれまであまり試みられていなかった新しい可能性が多く残されていると期待される。

 上の研究の背景に述べた観点に基づいた幅広い視野での様々な研究に取り組むことが、申請者の研究方針である。ここでは、以下の三つの研究テーマに注目したい。

A. 超共形場理論のランダウ・ギンツブルグ記述の数値シミュレーションによる研究

 超弦理論の標的空間がカラビ・ヤウ空間の場合、弦の2次元世界面上にはN=2の超共形場理論が実現している。2次元超対称理論であるランダウ・ギンツブルグ模型の赤外固定点がこうした超共形場理論になっていると信じられているが、本研究では前者の数値シミュレーションによって、この描像を検証し、さらなるダイナミクスの解明に繋げたい。以降、ランダウ・ギンツブルグ模型として2次元N=2ゼロ質量ヴェス・ズミノ模型を考える。このランダウ・ギンツブルグ模型の格子定式化による赤外固定点の解析などは、最も簡単な3次ポテンシャルの場合にすでに先行研究[1]などがあるが、さらなる解析が待たれている。

B. グラディエント・フロー法による非摂動論的手法に関する研究

 時空を格子に区切る格子場理論では、時空対称性のネーターカレントであるエネルギー運動量テンソルの構成は長年の問題であった。近年グラディエント・フロー[2]という一種の拡散方程式を用いた構成法が急速に発展している。同様の問題が他の対称性についても考えられる。例えば超対称性は時空対称性と密接な関係があるが、格子的な時空構造においては超対称性を保つことができないという困難がある。またグラディエント・フローの根本的な理解として、拡散時間の発展がくりこみ群の流れと関連すると指摘されているが、その対応付けは明確になっていない部分が多い。

C. リサージェンス理論に基づく非摂動論的効果の理解

 非摂動論的効果を理解する全く別のアプローチにリサージェンス理論によるものがある。リサージェンス理論では場の量子論の理論的整合性により摂動計算から非摂動論的現象を理解できる。ここで問題となるのは摂動級数展開が発散級数になることであり、その理論的予言に不定性を生じる。一方、量子トンネル効果に付随するインスタントンに代表されるような半古典的物体の非摂動論的効果にも不定性が存在し、摂動論・非摂動論の間で不定性が相殺する。つまり摂動論・非摂動論的予言はそれぞれ単独では一意に定まらないが、両者を足し上げたときに初めて意味のある物理量が得られる。このような相殺しあう半古典的物体と摂動級数の発散の仕方(リサージェンス構造)の同定が重要な課題であり(右図)、近年バイオンという半古典的物体とリノーマロンによる摂動論の不定性が対応するという予想[3]が注目を集めているが、具体的な対応については検証できていない。

 申請者の研究の目的は、格子場理論に基づく非摂動論的手法をさらに発展させ、超弦理論における種々の現象を非摂動論的なアプローチにより解析することである。具体的な研究テーマは次の三つである。(1)ランダウ・ギンツブルグ模型に対する非摂動論的手法を確立し、数値シミュレーションによってその赤外固定点が超共形場理論になっていることを検証する。(2)グラディエント・フローの根本的な理解と多方面への応用を目指す。(3)バイオンとリノーマロンに関するリサージェンス構造を摂動論的側面から解明する。

A. ランダウ・ギンツブルグ模型

 ランダウ・ギンツブルグ模型の数値シミュレーションについて特に重要な点は以下の通りである。まず、超対称性を厳密に保つ加堂・鈴木の定式化[2010]を用いる。これは運動量空間での切断による正則化を用いるもので、作用の非局所性を一旦許すことで、超対称性が厳密に保たれる。さらにこの非摂動論的定式化には、分配関数の重みをガウス関数にするような変数変換、ニコライ写像が存在する。これを利用することにより、数値シミュレーションにおいて自己相関の全くない配位生成が可能である。以上の方法を用いて、低エネルギー相関関数が超共形場理論との対応から期待されるものを正しく再現することを確かめる。

(詳しい研究方法と研究結果)A-D-E分類と呼ばれる様々なランダウ・ギンツブルグ模型について、予想される超共形場理論の性質を再現することを検証し、定式化の正当性を確認した[4. 研究遂行能力(1)1,2]。また、連続極限を考慮した有限サイズスケーリング法に基づき、3次ポテンシャルの場合に相関関数の精密測定を行い、局所性の回復について傍証を与えた[4. 研究遂行能力(1)3]。

B. グラディエント・フロー

C. リサージェンス理論

 バイオンは空間の一方向をコンパクト化した世界に存在しており、非常に詳細な議論がある。一方リノーマロンに対するコンパクト化の影響に関して、申請者らは、ある種の系(例えばCP^N模型、アジョイントフェルミオンを含むSU(N)ゲージ理論のラージN極限など)に対してリノーマロン解析を行った。その結果、そのリノーマロン不定性はバイオンによるものと一致しないことを示した[4. 研究遂行能力(1)7-9]。

 このため、リサージェンス理論の観点では、バイオンの対応物がリノーマロン以外にあるはずである。最近申請者らは、インスタントンに対応していた摂動論の不定性がコンパクト化によって影響を受けることを示し、これがバイオンに対応するという結果を得た[4](右図)。

 以上のように、申請者は博士課程在学中、ランダウ・ギンツブルグ模型に対する非摂動論的手法の確立に取り組んできた[4. 研究遂行能力(1)1-3]。これらの業績において、着想、解析そして論文執筆まで申請者は中心的な役割を果たした。うち[4. 研究遂行能力(1)2,3]は単著論文である。また、この数値計算と並行して、グラディエント・フロー法やリサージェンス理論などの近年注目を集めている研究課題にも挑戦して成果をあげた[4. 研究遂行能力(1)4-9]([4]も参考)。これらの業績において、その着想、解析に申請者は中心的な役割を担い、論文の執筆にも参加した。

参考文献

[1] H. Kawai and Y. Kikukawa, Phys. Rev. D83, 074502 (2011).

[2] H. Suzuki, PTEP 2013, 083B03 (2013) Erratum: [PTEP 2015, 079201 (2015)].

[3] P. Argyres and M. Unsal, Phys. Rev. Lett. 109, 121601 (2012).

[4] O. Morikawa and H. Takaura, arXiv:2003.04759.

3.これからの研究計画

(1) 研究の背景

 これまでと同様に、さらに広い視野で場の量子論・超弦理論の非摂動論的側面の研究に取り組みたい。一つは、超弦理論の時空コンパクト化に関するものである。超弦理論において様々な物理的要請から、標的空間はカラビ・ヤウ空間にコンパクト化されていると予想される。しかしながら、このとき実現する超共形場理論がミニマル系列にある可解模型である場合を除き、そのカラビ・ヤウ空間にコンパクト化された超弦理論の物理量は超共形場理論からは計算することは困難である。一方でランダウ・ギンツブルグ模型のポテンシャル構造はカラビ・ヤウ空間の幾何構造と密接な関係があり、ポテンシャルを与えることで任意のカラビ・ヤウ空間を実現できる。従って、ランダウ・ギンツブルグ模型を非摂動論的に解析することができれば、超弦理論のコンパクト化のダイナミクスのような解析的に困難な問題にアプローチする強力な手段となる。もう一つのテーマは、グラディエント・フロー法に関連したもので、くりこみ群の問題に加え、数値シミュレーションによる研究を行うことを想定している。

 これまで数値計算の対象であったA-D-E分類に属するランダウ・ギンツブルグ模型は、超共形場理論のミニマル系列に対応するものである。そこでは、超共形場理論との比較・検証から非摂動論的手法の正当性を確かめた。今後、より一般のランダウ・ギンツブルグ模型に対してこの手法を適用することで、様々な標的空間を直接解析し、コンパクト化のダイナミクスの解明に繋げたい。

 グラディエント・フローは、エネルギー運動量テンソルや超カレントの普遍的表式にも未だ実用上の問題があり、これを解消したい。また、場の量子論の非摂動論的試みの一つである厳密くりこみ群との関係が示唆されており、その具体的な検証が期待される。

(2) 研究目的・内容

 本研究の主な目的は、第一に超弦理論のコンパクト化のダイナミクスを、非摂動論的なアプローチにより解析することである。また格子場理論などの非摂動論的手法の発展に尽力したい。具体的なテーマとしては現在次の三つを想定している。(1)ランダウ・ギンツブルグ模型に対する非摂動論的手法を用いて、カラビ・ヤウ空間が大きく変形する場合の数値計算をする。(2)エネルギー運動量テンソルのグラディエント・フローによる普遍的表式を非摂動論的に構成する。(3)グラディエント・フローと厳密くりこみ群の間の関係を検証する。

ランダウ・ギンツブルグ模型

 超共形場理論においては、対応するカラビ・ヤウ空間のモジュライの微小変形はマージナルな演算子の挿入として扱うことができる。しかしながら、モジュライを大きく変形させるような現象を調べることは困難である。ここでのランダウ・ギンツブルグ模型の非摂動論的研究ではこうした現象のダイナミクスを調べることを目標とする。まずは簡単な場合として、2次元トーラスや4次元K3上にコンパクト化された超弦理論の解析から始める。これを変形するようにポテンシャルを変化させ、低エネルギー相関関数の直接測定を行い、これまで計算が不可能であった問題に挑戦する。具体的には、中心電荷のモジュライ変形に対する依存性を検証したい。

 一方、これまでの研究[4. 研究遂行能力(1)1,2]では超ポテンシャルが4次までの模型に関してシミュレーションを行っていたが、実際の6次元カラビ・ヤウ空間に対応するランダウ・ギンツブルグ模型は例えば5次の超ポテンシャルを持っている。そのため、単一超場の場合からこれを検証していく。また、弦理論の専門家(北海道大学の鈴木久男氏など)との議論を通して、この手法の超弦理論への応用をさらに模索する。

グラディエント・フローによるエネルギー運動量テンソルの非摂動論的構成

 グラディエント・フローによるエネルギー運動量テンソルの構成法は、解析的に計算できるために非常に小さい拡散時間の領域に制限される。一方で格子場理論に基づいた数値計算においては、連続極限と拡散時間ゼロの極限は可換でないため、有限格子上ではその適用範囲を十分にとることができない場合がある。これを解決するため、格子シミュレーションを用いてエネルギー運動量テンソルの表式に現れるパラメータを拡散時間の関数として数値的に決定する。このパラメータ決定には、結合定数の測定に用いられるステップスケーリング法[5]が利用できると考えている。

グラディエント・フローと厳密くりこみ群

 グラディエント・フローと厳密くりこみ群の対応の検証については以下の通りである。グラディエント・フローの拡散時間が、厳密くりこみ群の運動量切断のスケールとどのように関連づいているかを問題とする。スカラー場の理論の場合に厳密くりこみ群からグラディエント・フローを導出する試みが行われているが[6]、この方法を非線形シグマ模型やゲージ理論などに適用するのは非常に難しい。そこで、厳密くりこみ群とグラディエント・フローの双方においてエネルギー運動量テンソルを計算・比較し、それらの関係の検証を狙う。

 上記の研究は全て申請者が中心となり行う。すなわち、超弦理論におけるモジュライ変形の数値シミュレーション、エネルギー運動量テンソルの構成、いずれも中心的役割を担う。超弦理論への応用や、エネルギー運動量テンソル構成のための格子シミュレーションの手法、厳密くりこみ群に関係する箇所については、共同研究者らと議論しつつ研究を進める。

参考文献

[5] M. Luscher, P. Weisz, and U. Wolff, Nucl. Phys. B359, 221-243 (1991).

[6] H. Sonoda and H. Suzuki, PTEP 2019, 033B05 (2019).

(3) 研究の特色・独創的な点

A. ランダウ・ギンツブルグ模型

 上記のような場の量子論の非摂動論的定式化に基づいた超弦理論のコンパクト化の解析はこれまでなされておらず、全く新しい角度からの研究である。特に重要な点として、現在の解析的手法ではカラビ・ヤウ空間を大きく変形することは困難であるが、一方でランダウ・ギンツブルグ模型のポテンシャルを変形することは容易である。また、計算方法として重要なのは、この定式化は時空の対称性や超対称性を保つため、エネルギー運動量テンソルや超カレントの構成が容易であるという点である。そのため、中心電荷を測定するのに必要なこれらの相関関数を直接計算できるという利点が大きい。特に、中心電荷を変えないモジュライ変形と信じられているようなものについて、その具体的な検証が可能である。また、超弦理論の立場から、高次ポテンシャルのランダウ・ギンツブルグ模型の数値的研究は非常に興味深い。

B. グラディエント・フロー

 グラディエント・フローによるエネルギー運動量テンソルの構成の改良について次の特徴がある。グラディエント・フローによって構成された表式は拡散時間のたかだか1次である。一方実際のシミュレーションの場面では、拡散時間の関数として得られるデータに対し、線形領域をどのように選ぶかが重要な問題であり、十分に信頼できるデータを確保できない場合がある。ここで用いる方法は、グラディエント・フローによる表式自体を拡散時間の関数として非摂動論的に決定するものであり、フィッティングを行う上で利用できるデータ領域を広範囲に確保することができる。そのため最も理論的不定性が少ない改良であると思われる。また、グラディエント・フローと厳密くりこみ群の研究に関しては、ゲージ理論や非線形シグマ模型への応用を考えており、先行研究以上に非自明な検証である。

 申請者の研究は、場の理論の非摂動論的定式化(格子場理論)と超弦理論の両方にまたがった領域を攻めることを狙っている。このような試みにより、それぞれの分野の問題に対する新しいアプローチが模索できると考える。特に、格子場理論における数値計算によって、超弦理論の相互作用が強い領域を調べることができる。また、今後さらに、グラディエント・フローを用いた超弦理論の解析・数値的研究が考えられる。本研究課題完遂により得られる理解は、超弦理論の非摂動論的定式化へ繋がると信じる。

グラディエント・フローの超弦理論への応用

 エネルギー運動量テンソルの構成の改良は、数値計算分野においてグラディエント・フローの利用は急速に広がっている点から、今後の幅広い応用が期待される。また厳密くりこみ群との関係に従うと、グラディエント・フローによる普遍的表式を用いた赤外固定点の解析や臨界指数の測定などの応用が期待される。これらの応用は、本研究で用いた超弦理論に対する非摂動論的手法とは異なるアプローチとして意義を持つであろう。

 グラディエント・フローと厳密くりこみ群の研究は、また別のアプローチからの超弦理論への応用が期待できる。例えば、いわゆるゲージ・重力対応に関してグラディエント・フローを用いた最近の研究[7]があるが、そのくりこみ群的な性質がどのような本質的な役割を果たしているかは分かっていない。ゲージ・重力対応におけるホログラフィックくりこみ群との関連から、グラディエント・フローとくりこみ群の関係を解明することはゲージ・重力対応の検証へ繋がるだろう。

参考文献

[7] 例えば、S. Aoki and S. Yokoyama, Nucl. Phys. B933, 262-274 (2017).

(4) 年次計画

(申請時点から採用まで)

カラビ・ヤウ空間のモジュライの変形を解析するためのプログラムを実装する。

まず2次元トーラスの変形について、必要となる配位の生成を行う。

得られた配位を用いて、低エネルギーの相関関数の振る舞いから中心電荷の測定を行い、変形に対して中心電荷がどう変化するかを確認する。

この観測結果について、論文を執筆し、成果を発信する。

今後のため、ランダウ・ギンツブルグ模型の数値計算のためのコードを、スーパーコンピュータ(九州大学のITOなど)に適応させる。特にスーパーコンピュータの性能を最大限発揮できるように協調させる。

数値計算と並行し、リノーマロンに関する成果をあげ、その発信に努める。特にアジョイントフェルミオンを含むSU(N)理論に対して、有限のNにおけるコンパクト化の影響、またはコンパクト化前後のリノーマロンの関係について解析する。

国内外の最新研究も把握すべく、九州大学の素粒子論研究室において、特に超弦理論分野・格子場理論分野の論文速報を運営していく。また、申請者は、当研究室においてセミナーを運営する立場にあり、所属研究者らの研究交流を促すこともリーダーシップを持って取り組みたい。


(1年目)

4次元K3についてのトーラスと同様に配位生成を行う。

数値計算と並行し、非線形シグマ模型に対するエネルギー運動量テンソルを、グラディエント・フローと厳密くりこみ群のそれぞれで計算し、比較する。

これらの成果を論文として発信する。

また、グラディエント・フローを用いたエネルギー運動量テンソルの構成法の改良に関し、その解析のために必要な理論的背景と格子シミュレーションに必要な知識・技術を分析する。

受入研究室の大阪大学素粒子論研究室においても超弦理論分野・格子場理論分野の論文速報の運営を継続する。


(2年目)

継続して、4次元K3について相関関数の数値シミュレーション、解析を行う。

超場が単一で超ポテンシャルが5次の模型に対するシミュレーション、解析を実行し、超共形場理論との比較を行う。

上の項目と関連して、6次元カラビ・ヤウ空間への拡張のための効率的な手法を検討する。

これらの成果に関しても論文執筆、研究成果の発信に努める。

また、エネルギー運動量テンソルのグラディエント・フローによる構成については、まずヤン・ミルズ理論に対して数値シミュレーションを行う。

計算コードとしては、日本で開発されている格子シミュレーションの共通コードBridge++を用い、適宜改良・修正を加えつつ、本研究のための基本となるコードを開発する。特に、グラディエント・フロー、シュレディンガー汎関数、ステップスケーリング法の実装に注意し、必要となる格子パラメータの調査を行う。

超弦理論分野・格子場理論分野の論文速報の運営を継続する。


(3年目)

エネルギー運動量テンソルの数値的構成の結果に関して、この成果を発信する。

その他の場の量子論、超弦理論における非摂動論的現象について、申請者のアプローチが適用できる物理を模索する。

様々な国内学会および国際会議に参加し、これまでの研究成果を発信する。

超弦理論分野・格子場理論分野の論文速報の運営を継続する。

(5) 受入研究室の選定理由

 申請者は、最近、本申請の受入研究者である山口哲氏と共同研究に向けて議論を行っている。これは近年注目されている非摂動論的手法であるトホーフト・アノマリー整合条件に関するもの[8]で、格子場理論からの観点に着目している。この分野に対する山口氏の研究について、山口氏をセミナーの講演者として申請者の所属する九州大学に招待した。

 山口氏は場の量子論や超弦理論、共形場理論などに関して数理的な立場から研究を行っている。これは申請者の問題意識に非常に近く、このような研究者と議論する機会が多く得られれば、本研究課題の実現に加えて今後の研究にも繋がるだろう。つまり特別研究員として、新たな3年間、山口氏と共同研究を行うことができれば、超弦理論の非摂動論的アプローチの研究はさらなる発展・展開が可能である。また、上記の研究分野などへの新規開拓により、今後の研究がさらに大きく拡充していくものと期待する。さらに、山口氏の共同研究者である本申請の受入研究室所属の大野木哲也氏や深谷英則氏は格子場理論の専門家であり、修士・博士課程在学中より研究会等で研究交流している。このように本受入研究室に所属する他の研究者との交流も、申請者の研究課題を遂行するうえで、大きな利点である。

参考文献

[8] D. Gaiotto, A. Kapustin, N. Seiberg, and B. Willett, JHEP 1502, 172 (2015).

4.研究遂行能力

 下記の業績は、[2. 現在までの研究状況]で言及した主要な研究成果に関わるものである。これらの研究で用いられた解析手法は多岐にわたるが、場の量子論の理論的構造自体に関わるものであり、非常に応用範囲が広い。また今後も、修士・博士課程在学中同様に、他の研究分野にも興味を広げつつ成果をあげていきたい。以上により、本研究課題を十分遂行することができると考える。


 (1) 学術雑誌等に発表した論文、著書

(全14件。査読あり。申請者の分野では、著者はアルファベット順に並べることが慣例である。)

ランダウ・ギンツブルグ模型 (4件。)

1. ○O. Morikawa and H. Suzuki, “Numerical study of the N=2 Landau–Ginzburg model,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2018, 083B05, (2018).

2. ○O. Morikawa, “Numerical study of the N=2 Landau–Ginzburg model with two superfields,” Journal of High Energy Physics, 1812, 045, (2018).

3. ○O. Morikawa, “Continuum limit in numerical simulations of the N=2 Landau–Ginzburg model,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2019, 103B03, (2019).

(他1件)

グラディエント・フロー (6件。)

4. H. Makino, ○O. Morikawa and H. Suzuki, “Gradient flow and the Wilsonian renormalization group flow,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2018, 053B02, (2018).

5. ○O. Morikawa and H. Suzuki, “Axial U(1) anomaly in a gravitational field via the gradient flow,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2018, 073B02, (2018).

6. A. Kasai, ○O. Morikawa and H. Suzuki, “Gradient flow representation of the four-dimensional N=2 super Yang–Mills supercurrent,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2018, 113B02, (2018).

(他3件)

リサージェンス理論 (4件。)

7. K. Ishikawa, ○O. Morikawa, A. Nakayama, K. Shibata, H. Suzuki and H. Takaura, “Infrared renormalon in the supersymmetric CPN-1 model on RxS1,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2020, 023B10, (2020).

8. M. Ashie, ○O. Morikawa, H. Suzuki, H. Takaura and K. Takeuchi, “Infrared renormalon in SU(N) QCD(adj.) on R3xS1,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2020, 023B01, (2020).

9. K. Ishikawa, ○O. Morikawa, K. Shibata, H. Suzuki and H. Takaura, “Renormalon structure in compactified spacetime,” Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2020, 013B01, (2020).

(他1件)


(2) 学術雑誌等又は商業誌における解説、総説 なし


(3) 国際会議における発表(全7件。うち口頭発表3件、ポスター発表4件。査読なし。)

ランダウ・ギンツブルグ模型

(口頭発表1件)

1. ○O. Morikawa, “Numerical study of ADE-type N=2 Landau–Ginzburg models,” the 37th International Symposium on Lattice Field Theory (Lattice2019), China, 2019年6月

(ポスター発表2件)

2. ○O. Morikawa, “Numerical study of the N=2 Landau–Ginzburg model,” the 4th International Workshop on “Higgs as a Probe of New Physics”(HPNP2019), 大阪大学豊中キャンパス、2019年2月

3. ○O. Morikawa, “Numerical study of the N=2 Landau–Ginzburg model,” KEK Theory Workshop 2018, 高エネルギー加速器研究機構、2018年12月

グラディエント・フロー

(口頭発表1件)

4. H. Makino, ○O. Morikawa, and H. Suzuki, “One-loop perturbative coupling of A and A★ through the chiral overlap operator,” the 35th International Symposium on Lattice Field Theory (Lattice2017), Spain, 2017年6月

(他ポスター発表1件)

リサージェンス理論

(口頭発表1件)

5. ○O. Morikawa, “Vacuum energy of the SUSY CPN-1 model on RxS1,” CP^N model: recent developments and future directions, 慶応大学日吉キャンパス、2020年1月

(ポスター発表1件)

6. ○O. Morikawa, “Infrared renormalon in the supersymmetric CPN-1 model on RxS1,” KEK Theory Workshop 2019, 高エネルギー加速器研究機構、2019年12月


(4) 国内学会・シンポジウム等における発表(全12件。口頭発表のみ。査読なし。)

ランダウ・ギンツブルグ模型 (7件。)

1. ○森川億人「複数超場を含むN=2 Landau-Ginzburg模型の数値的研究」日本物理学会2018年秋季大会、 信州大学、 2018年9月

2. ○森川億人「N=2 Landau-Ginzburg模型におけるスケーリング次元の連続極限と精密測定」日本物理学会2019年秋季大会、 山形大学小白川キャンパス、2019年9月

(他5件)

グラディエント・フロー (3件。)

3. 笠井彩、○森川億人、鈴木博“Gradient flow representation of the 4D N=2 SYM supercurrent,”日本物理学会第74回年次大会、九州大学伊都キャンパス、2019年3月

(他2件)

リサージェンス理論 (2件。)

4. 石川航輔、○森川億人、中山聖、柴田和弥、鈴木博、高浦大雅「RxS1上のCPN-1模型におけるIRリノーマロン」、日本物理学会第75回年次大会、名古屋大学、2020年3月

(他1件)


(5) 特許等 なし


(6) その他(他大学におけるセミナー。全3件。)

ランダウ・ギンツブルグ模型 (2件。)

1. ○森川億人“Numerical study of N=2 Landau-Ginzburg models,”北海道大学素粒子論セミナー、2017年11月

(他1件)

グラディエント・フロー (1件。)

2. ○森川億人“Gradient flow and the Wilsonian renormalization group flow,”高エネルギー加速器研究機構理論セミナー、2018年5月