サマーセミナー(2021年度)

明治非線型数理サマーセミナー

日時:2021810日() ~ 812日()

場所:Zoomにてオンラインで開催(下記URLにて参加登録をお願いします。)

https://forms.gle/LnuJywgrXT1Ktcm99


連続講演者および講演題目

 河野俊丈「多様体上の大域解析とサーストンの幾何化定理」

 この講演では,リッチフローによって,多様体を幾何構造を持つピースに分解する手法を紹介し,そのオービフォールドへの拡張,幾何構造のモジュライなどに関する最近の発展について解説する.

 リーマン多様体において,各点の周りが局所的に合同であるような等質性を持つとき,このような計量を幾何構造とよぶ.単連結な幾何構造のモデルは2次元では,球面,ユークリッド平面,双曲平面の3種類であるが,3次元では8種類存在することが知られている.

 ペレルマンによって証明されたサーストンの幾何化定理は任意の3次元多様体は,球面とトーラスで分解することにより,それぞれが8種類のいずれかの幾何構造を持つことを主張する.証明に用いられるリッチフローは,拡散方程式と類似の性質を持ち,その漸近挙動の解析は興味深い問題を提供する.考察の対象をオービフォールド,錐多様体などに拡張して,幾何構造の剛性や変形問題について述べる.

 望月敦史「生命のシステムの振る舞いをネットワーク構造だけから解明する

多くの生命現象が、様々な生体分子が複雑に相互作用するネットワークに由来しており、そのシステム全体のダイナミクスから生命機能が生まれるのだ、と分かってきた。しかし、実験がもたらす生体分子ネットワークは、分子間の相互作用関係だけを示しており、それだけではダイナミクスを決定できない。そのため、実験的決定が難しい関数形やパラメータなどについて仮定して与えた数理モデルを構築し、生命現象の再現を試みるのが、通常の数理的方法であった。これに対して私は、ダイナミクスの全てが分からなくとも、力学的振る舞いの幾つかの重要な側面について、ネットワーク構造だけから決定できることを発見し、構造理論として展開してきた。具体的には、(1) 制御ネットワークの構造だけから、力学挙動の観測や操作を可能とする分子集合を決定できるLinkage Logic(2) 反応ネットワークの構造だけから、酵素の量や活性の変化に対するシステムの応答を決定する構造感度解析、(3) ネットワークの構造情報だけから、化学反応システムの定常解の分岐解析を行う構造分岐解析、の三つである。今回は、三つの構造理論それぞれについて解説し、実際の生命現象に適用した最新の展開も交えて紹介する。

参考文献

[1] Mochizuki, A., Fiedler, B. et al. (2013) J. Theor. Biol., 335, 130-146.

[2] Kobayashi., et al. (2018) iScience 4, 281–293

[4] Kobayashi., et al. (2021) Sci. Rep. 11, 4001.

[5] Okada T. and Mochizuki A. (2016) Phys. Rev. Lett. 117, 048101.

[6] Okada T., Tsai JC and Mochizuki A. (2018) Phys. Rev. E 98, 012417.

[7] Okada T., et al. (2021) Phys. Rev. E 103, 062212.

プログラム

810日(火曜日)

10:00-12:00 望月敦史(京都大学

    「生命のシステムの振る舞いをネットワーク構造だけから解明する 1」

14:00-16:00 河野俊丈(明治大学)

    「多様体上の大域解析とサーストンの幾何化定理 1」

16:10-16:40 阿部健(大阪市立大学)

    「ベルトラミ流における渦輪の存在」

16:40-17:10 井上雅世(明治大学)

    「生体内ネットワークの情報伝達ダイナミクス解析

811日(水曜日)

10:00-11:00 望月敦史(京都大学)

    「生命のシステムの振る舞いをネットワーク構造だけから解明する 2」

11:10-12:10 河野俊丈(明治大学)

    「多様体上の大域解析とサーストンの幾何化定理 2」

14:00-14:30 村田実貴生(東京農工大学)

    「反応拡散方程式の正値差分化とセル・オートマトン化」

14:30-15:00 塚本悠暉(明治大学)

    「移流項付きアレン・カーン方程式の特異摂動問題」

15:10-15:40 赤岩香苗(京都産業大学)

    「離散可積分系とある種の構造をもつ行列の逆固有値問題」

15:40-16:10 森龍之介(東京工業大学)

    「Predator-prey型反応拡散方程式のコンパクトな台をもつ初期値に対する解の広がり速度

16:10-17:00 Free discussion

812日(木曜日)

10:00-12:00 望月敦史(京都大学)

    「生命のシステムの振る舞いをネットワーク構造だけから解明する 3」

14:00-16:00 河野俊丈(明治大学)

    「多様体上の大域解析とサーストンの幾何化定理 3」

16:00-17:00 Free discussion