『ジェンダーニュートラル・個人マークシール』商品化プロジェクトは、SDGs時代を担う多様な子どもたちの保育に貢献できることはないかと考え発案されました。全ての子どもがそれぞれの個性を自由に遺憾無く発揮できる保育環境の実現、これが私たちの目的です。
「個人マークシール」とは、保育園などの乳幼児保育施設で子どもが自分のスペースや持ち物を認識するためのイラストシールのことです。まだ文字の読めない子どもにとって、この「個人マークシール」はとても身近で大切な自分の“アイコン”になります。
多くの場合、女子にはウサギ・リボン・ケーキなど、男子にはライオン・消防車・カブトムシなどの「個人マークシール」が割り振られ、それらは帽子入れやロッカー、下駄箱に貼り付けられます。
例えば、ライオンを割り振られた男子。「〇〇くんのお靴はどこだった?ライオンさんマークだったね」など生活習慣の中で繰り返し確認が行われるため、“ライオン=自分”の認識が深まります。この認識によって、ライオンからイメージされる逞しさやワンパクさなどを「男の子らしさ」として身につけていく可能性が考えられます。言い換えると、大人がライオンというアイコンに抱く「男の子らしさ」イメージを子どもは学習・内面化することで性別適合的な振る舞いや役割を行う主体となっていくことが繰り返し構築されてきたという視点です。
もちろん、男子の「男の子らしさ」を批判したいわけではなく、それも子どもの一つの個性として受け入れられるべきものです。一般的には、「女の子らしさ」「男の子らしさ」は生まれ持ったものと思われてきましたが、果たしてそれだけしょうか?「女の子らしさ」「男の子らしさ」のイメージそのものや性別役割意識について、子どもたちは周囲の環境から後天的に学び取っていることが、乳幼児のジェンダー研究で明らかにされています(藤田由美子 2015,大滝世津子 2016,他)。そうであるなら、周囲の環境が、物的にも人的にも重要です。
このように「個人マークシール」は、非常に便利で乳幼児保育施設には必需品である一方、無意識的に男女の固定イメージ(ジェンダーバイアス)を与えてしまう側面があるものでした。そして、既存の「個人マークシール」はデザイン数が限られており、そのデザインの見直しもされてこなかったため、数十年同じ商品を使い続けている乳幼児保育施設も少なくありません。こうした点から考えると、既存の「個人マークシール」は、保育の“当たり前”になりすぎてしまい、問題視されることがありませんでした。
SDGs時代を担う多様な子どもたちを保育する私たち大人は、最新のジェンダー観を導入した環境構成をする必要があります。「女の子らしく」「男の子らしく」育てたいという保護者の方の想いは否定せず大切にしながらも、公的な場である乳幼児保育施設では「あなたは女の子だからこっち!あなたは男の子だからこっち!」と性別での決めつけを避けることで、多様な子どもたちの存在を受け入れられる環境でありたい。そのためには、保育においてジェンダーの議論を(まず大人に)喚起していくことが重要ではないでしょうか。
私たちは、「個人マークシール」をジェンダーニュートラル(中立的)なデザインに新しくすることで、どの乳幼児保育施設においても、どの保育者が使用しても、男女の固定イメージ(ジェンダーバイアス)の縛りを軽減した商品ができる。そう考えました。出来上がった『ジェンダーニュートラル・個人マークシール』は、支援金のおかげで認可保育園を中心に乳幼児保育施設309園に無料提供を達成しました。