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「お先に失礼しまーす」
スマートウォッチが18:00を表示した瞬間、俺は立ち上がった。オフィスを颯爽と横切っていけば、「早ッ」、「さすが最速の男」と同僚たちの賛辞が耳に入る。
「さっき言ってた書類だけ手伝ってくれよ」
「先輩のデスクに置いておきました。じゃ、今日大事な人と会う約束があるんで」
笑顔で手を振りながらさっさと扉を閉める。退勤完了。前世の異名は今も引き継いでいる。
今日は大事なオフ会があった。むしろ、その会に出るついでに出勤したと言っても過言じゃない。電車に飛び乗って待ち合わせ場所へ急ぐ。電車に揺られながらスマホでいつものアプリを開いてDM欄を探せば、シンプルなブルーのアイコンと一緒に素っ気ないメッセージがひとつ浮かび上がっていた。
≪D:すみません。十五分遅れます≫
「ウワ、謝っとる」
自分の声ではっと我に返る。両隣が薄橙のワイヤレスイヤホンをつけていることを願いながら、≪わかりました! みなさんにも伝えておきます ゆっくり来てください≫と送信し、再び浮き出たフキダシを見つめる。
≪D:ありがとうございます。ミケさんにお会いできるのが楽しみです≫
≪俺もです!≫と打ってから画面をオフしてため息をつく。あいらしすぎんね、荼毘にしては。真顔で親指を高速で動かす方がしっくりくる。やっぱ別人かな? いやいやAIでワンタップ生成した文章かもしれない。
前世ヒーロー、今世会社員。「鷹見啓悟」という経歴も綺麗さっぱりなくなり、優しい両親のもとですくすく育ち、念願だったヒーローが暇な社会を謳歌していた俺が再び動き出したのは、ひと月前のことだった。
そもそも前世の記憶を思い出したのは幼稚園の時。鬼ごっこで捕まえたコトちゃんが「ウララちゃんに捕まりたかったのに」と大号泣し、訳も分からず平謝りしている時だった。すべてを悟った五歳の俺は、公安で身に着けた話術を駆使してコトちゃんを泣き止ませることに成功した。
荼毘も生まれ変わっているかも、と探し始めたのはその翌日。アイツは、俺みたいに今世は環境に恵まれたから安心とはいかない。たとえ甘やかして抱きしめても記憶を取り戻した瞬間、世間に向けて火を放ってもおかしくない。アイツの中で過去は消えないからだ。
今度は誰も焼かせない。荼毘は俺が止める。そう決意した幼稚園児は、手始めに友達をめちゃくちゃ作った。荼毘らしき子どもがいると聞けば、行って仲良くなる。小学校に上がってもあちらこちらのクラスに出没し、週五で習い事をし、できるだけ多くの子どもと交流を深めてさらに情報を収集する。街ひとつを制覇したところで、小三の俺は気づいた。
限界だ。
俺だって前世の名残があるのは顔だけで、身長は伸びていく一方だ。翼もないし、年々ホークスから離れていく。それなのにアイツが一目見て「荼毘」だと分かる容姿だといえるだろうか。 アイツはひとつ年上だったけど、今のアイツは白髪のおじいさんかもしれない。そもそも人間かな? どうしよう、夏に枯らしたプチトマトがアイツだったら。
道端で知らないおばさんに呼び止められ、「ウチの子に声をかけてくれてありがとうね、あなたのおかげで動画配信者になって毎日楽しそうなの」とステーキをご馳走された直後、知らないおじさんに「駅のホームで娘の手を引いてくれてありがとう」と菓子折りを差し出され、俺は決意した。もうやめよう、俺ってホントこういうの向いてる。たぶん前と同じく過労死する。
そうして俺は、荼毘を探す生活をやめた。優しさを返してくれて、俺の嘘を素直に信じてしまう優しい人たちに囲まれて、それはもう楽しかった。抱きしめても「何を企んでんだ?」って含み笑いで見つめられたり、質問しているのに「さあな」なんてはぐらかされたりしない。
もう探さなくてもいいかな、アイツもエンデヴァーさんとよろしくやってるかもしれないし、と思い始めた頃だった。
「俺のゴーグルだ」
日曜の夜、コーヒーを片手になんとなくSNSを流し見ていた時のことだ。淡い色調のクリームソーダやビビッドな夕暮れ、はたまた「一生使える!」とか「リピ確定」なんて文字が踊る写真群の中に、何の変哲もないイエローのゴーグルだけがぽつんと置かれた素朴な写真が流れてきたのだった。
それはウイングヒーロー・ホークスのゴーグルにそっくりな色と形をしていた。遠い前世の痕跡に背中が疼いて、なんとなくタップしたその投稿には「また一緒に飛べたら」とだけ添えられていた。俺はすぐさま青一色のアイコンをタップして、「D」なる投稿者のホームへ飛んだ。
「ウワ……」
画面いっぱいに広がったのは、ゴーグル、ヘッドホン、ジャケット、手袋、ブーツ、ピアス、赤い羽根、鷹。そして隙間に差し込まれる青空、夕焼け、星空。文句なしに「俺」で埋め尽くされていた。そのどれもに「会いたい」、「また見てほしい」とあった。
直近の投稿は暗い路地裏だった。無加工の雑多な街並みそのものが切り取られているだけの、これまた素朴な写真だ。自販機の白い明かりに照らされたアスファルトはひび割れていて、画面端には紐らしきものが無造作に捨てられている。添えられた一言は「懐かしい」。
「……懐かしいね」
荼毘と飛ぶ時、俺は必ず引っ張り上げられるようにリーシュを荼毘の手首にくくりつけていた。俺には剛翼があるけど、アイツは生身だ。万一のことを考えて命綱を結ばせていた。そのせいで何人もの命が失われると知りながら、俺は目の前のヴィランを見殺しにはできなかった。
路地裏の写真を閉じれば、「D」の投稿一覧が並ぶ。プロフィールには「ずっと探してる」としか載せられていないが、アカウントが作成されたのは十二年前、投稿件数もかなりの量だ。スクロールすれば、どの写真もどこか寂しそうで、自分の炎で焼け焦げた裾を翻すアイツの後ろ姿と重なった。
コーヒー缶一つがぽつんとベンチに置かれた写真をなんとなくタップする。俺が好きだったコーヒー缶に似ている気がして、ほのかに期待した先には「ゲロ甘い」とあった。
「アハハ」
笑っちゃうぐらい荼毘のしかめっ面が思い浮かぶ。前髪を掻きむしって、テーブルにスマホを放り出す。いやいや、ホントもう、マジで荼毘なんじゃ?
コメント欄までスクロールすれば、ファンもいるのか意外と交流もしている。あの自由な連合ですら団体行動しなかった荼毘がSNSを使えるようになるとは思えないけど。
まき:@db0118 こういう雰囲気も素敵です!
D:@mobu005 ありがとう
まき:@db0118 前の思い出シリーズ好きでした! また見たいです♡
D:@mobu005 あなたのために撮ってないので
俺はコメント欄をスクロールしながら思わず苦笑した。コレ、まさかの当たりじゃない? てめえのために撮ってんじゃねえよ――虚ろな目でそう吐き捨てる声まで聞こえてくる。
古津路 朝陽:@db0118 誰のために撮ってるの? 俺?
D:@showtime 絡んでくるな
古津路 朝陽:@db0118 フォロワーにレスバするヤベえアカウントがあるって聞いて
D:@showtime それあんたのことだよ。鍵かけて引っ込んでろ
「古津路 朝陽」のアカウントは投稿が一切ない。アイコンも逆光で分かるのはシルエットのみだ。ただ、プロフィール欄に記載された「UAU経済 奇術同好会」に目が止まった。
「……大学生」
「UAU」は雄英大の略称で「経済」はおそらく経済学部のこと。「古津路 朝陽」は雄英大生で、親しげな様子から「D」も同じ学生の可能性が高い。
もし「D」が本当に荼毘だったら、今回は俺の方が年上なのかもしれない。荼毘は俺の年齢を聞き出してから、さらに態度をデカくした。意外と年功序列を気にするタイプだから、優位に事を運べるかも――そこまで頭を巡らせてから苦笑する。
「もう騙さなくていいのになァ」
ほんの少し胸に痛みが走る。荼毘の世界は父親への復讐心に満ちていて、決して俺が入り込めたとは言えないしヴィランのまま死なせてしまったけれど、アイツは俺のことが好きだったと思う。
ベストジーニストさんの件がきっかけで、少しずつ荼毘は俺に心を開いてくれた。魚は生臭くて嫌いだとか和室は陰気臭くて嫌いだとか、初めは嫌いなものしかわからなかったけど、蕎麦が好きだった、蒼炎を長く扱うと全身が熱い、とそっと教えてくれるようになった。道化を演じるのをやめて多少辛辣でも正直に話してやると喜んだし、逆に蒼炎をベタ褒めすれば機嫌がよくなる。氷のように冷たい蒼い目が、俺を見る時だけほんの少し緩んで熱を帯びた。俺は、その目で見られるのが結構好きだった。
バイオレットに所属してからはよりいっそう俺を手元に置きたがった。任務には必ず連れて行かれたし、異能解放戦線の本を片手にトゥワイスに近づいた時は対抗するようにゴミ捨てなんて雑用で呼びつけられた。その代わりコーヒーとか好きなものを教えてやると次に会う時必ず調達していたのもまあ、それなりに可愛かった。
群訝山荘の戦い直前には俺を庇って負傷したぐらい、ターゲットにしたヴィランの中では優しい部類だった。できれば群訝で直接対決したくなかったし、少しだけ期待した。俺相手に本気で蒼炎を向けないんじゃないかって。
「D」はいくら遡ってもホークスの欠片を映し続けていた。最初の投稿は、どこかの日の出の写真で、雲の合間に浅葱色から黄金色まで変化している鮮やかな空だった。朝焼けの空が美しい写真だったけれど、添えられたコメントは「もう一度、一緒に眺めた夢を見た」だった。
俺は迷わず「フォローする」をタップした。
2
家に荼毘を招いたことはなかった。群訝山荘にある荼毘の私室には何度も招かれたし、求められてそこで一晩を過ごしたことだってあるけど、俺に宛がわれた部屋には決して呼ばなかった。福岡にあった自宅はもちろん教えなかった。
「ここが俺の家。どうぞ入って」
荼毘と会うのは今日で通算三回目だ。前世では考えられないぐらいのハイスピードで俺は荼毘を自宅に上げようとしている。
「一人暮らしか」
「そうだよ。先に言っとくけど、1LDKだから他人を住まわせる隙間ないからね」
「そんな期待はしてねえよ。表札、知らねえ奴の名前だったから」
「鷹見なワケないでしょ、お前の名前だって違うのに」
荼毘の蒼い目が俺の背後を彷徨い、表札にある俺の名字を物珍しそうに読んだ。マンションの部屋前なんて珍しくもないのに、周囲を見回して窓枠のアルミサッシのネジ辺りをしげしげと見つめているのには多少犯罪臭がしなくもない。
「中にサイドキックいねえだろうな」
「いません」
荼毘はようやく安心したようだった。エンデヴァーさんとよろしくどころか、やっぱりコイツは俺よりも前世の延長線上にいる。それも、蒼炎を失ってよりいっそう警戒心も増して慎重だ。
開いたドアの前で所在なさげに俺の袖を掴もうとする白い手を下から包んでやれば、思いのほか強く握り返してきた。手を引いて俺が先を歩いてあげれば、すり足でついてくる。玄関で靴を脱いでいる間もぴたりと後ろからくっついてきたのにはさすがに驚いて、俺は笑顔を作って振り向いた。
「どうしたの? もしかして人ん家お呼ばれするの初めてとか?」
荼毘は首を軽く左右に振って、俺の隣に並んだ。
「脅して開けさせるか、窓ガラスか鍵を溶かして入ったことならある」
「それは呼ばれてはないね」
「他人の家に入んだから一緒だろ。今はシンプルに暗くて見えねえだけ」
荼毘の声は淡々としていて、俺はほっと一息ついて明かりをつけた。よかった、視力の問題で。コイツにそういう経験がなくたって俺は驚かないけど、決戦時の死柄木みたいに気まずい会話の流れにはしたくない。さすがにアレを動画で残されているのはいたたまれなかった。
「あと二歩で段差あるよ」
「知ってる」
ブルーのサングラス越しに睨みつけられて、ようやく目が合う。コイツ、本当タイミングがいいのか悪いのか。
これまでも視線が合わないのには気づいていた。おそらく生まれつき目が見えにくいんだろうけど、こう視線が合わないと胸が痛む。まるで俺が見てやれなかった罰のような気になる。今回だって途中でサボってたし。
「ウチ来るまで何してたの」
「特に。にょろにょろしてた」
「へー、にょろにょろしてたんだ。蛇?」
荼毘は途端に眉根を寄せて、すたすたと先を歩いてリビングソファにどかっと座った。おまけに無言で俺の顔をじっと見つめてくる。あ、コレなんか試されてるな。
「そう怒るなよ、俺だって公安に呼ばれたらお前より優先しないといけなかったんだよ。頭回んなくてテキトーな理由になることだってあったの」
荼毘の顔が緩んで、蒼い目が弧を描いた。ああ、当たりか。俺が約束の時間に遅れてテキトーに考えた言い訳をずっと覚えてたってことか。コイツこういう記憶力いいよな。てか笑ってるの意外と可愛いかも。
改めて思えば、荼毘の自然な笑顔なんて見たことがないかもしれない。痛々しい火傷痕はどんな表情でも目立つし、何よりアイツが笑う場面はかなり偏っていた。おかしくて笑うなんてことはまずない。ほとんどが嘲笑や冷笑、極めつけはヒーローの立場が崩れて自分が優位に立った時だ。こうして今、火傷のない綺麗な顔がくしゃりと崩れると余計に親しみやすく見える。
「で、ホントは何してたの?」
「何も。ここに来るまでずうっとお前のこと考えてた。十六年間誰も焼いてねえよ。安心したか、ヒーロー?」
荼毘はにやっとしたけど、俺は衝撃でフリーズしていた。なんか凄いことサラッと言うな、コイツ。戦闘中に固まったエンデヴァーさんの気持ちが今わかった気がする。
「むしろ心配になった。お前ちゃんと日常生活送れてる? 復讐しようとしてここに来てない?」
「お前に復讐? 何のだ」
荼毘は薄ら笑いを浮かべてから、ふと真顔に戻った。
「そんなこと考えたこともなかった」
「あ、そう」
なんとなく気まずくなって目をそらし、お茶を入れて出すと荼毘は一連の流れを食い入るように見てきた。いやもうホント仕草が全部変わらないのなんなんだ、コイツ今回の経験値たまってる?
「今回親とか兄弟はいるの?」
「いる。妹が一人」
「へー。またお兄ちゃんやってるんだ」
「ろくにやってねえ。親は出張で家空けること多いし、妹は運動馬鹿で寮に入ってる」
「そっか。じゃあ俺が独り占めできるってことだ」
さっきの穴埋めにリップサービスしてやると、荼毘は少し色素の薄い目を見開いてからふっと口の端を上げて笑った。この笑い方懐かしいな。機嫌がいい時たまにこうやって笑ってくれた。俺の嘘を信じてはいないけど、それでも喜んでくれる時だ。
「ドッグランぐらいなら付き合ってやる」
「餌やりも忘れないでね。結構食べるよ」
「前より?」
「前よりは少ない。翼に栄養とられないし」
「じゃあ今度ヨリトミ行こうぜ。お前の奢りで」
「なんで俺? お前、一応俺の上――」
俺たちはしばらく見つめ合い、お互いに笑った。荼毘の白い頬が紅潮して、また表情が崩れる。
無邪気に口を開けて笑う火傷のない顔を眺めていると、昔一度だけどこかで見たような気がした。
3
荼毘は薄っすら笑っていた。指定ヴィラン団体との交渉がうまくいき、バイオレットの傘下に使える人員が増えたからだろうか、それとも俺がトゥワイスへの講座よりバイオレットの任務を優先したからか。どちらにしろ、手を繋いで共にフライトしている相手の機嫌がいいに越したことはない。
暴風雨がようやく止んだ深夜四時ごろ、群訝山荘での会議に間に合うよう――もう間に合わないことは確定しているけど――俺たちは出発した。荼毘は眠そうに目を擦りながらも足元の蒼炎は盛大に燃やし続けている。ちょっとハイになっているのかもしれない。
「ねえ荼毘、会議いつからだった?」
「午前六時」
「はー、俺たちが深夜まで働いてんのになんで早朝に設定するんかな」
「他人のことなんて考えちゃいねえんだよ。自分の都合ばかりさ」
「さすがヴィラン。もうさあ、遅刻ついでに朝日見ようよ。いい場所があるんだ」
それにちょっと休みたい。潜入捜査にヒーローの仕事が重なって丸一日休んだことがもう半年以上ない。俺に気を許している荼毘なら許可するかもしれない。そんな打算を含んだ提案に、荼毘は少し間を置いてから言った。
「いいね、この焼けて煙を上げ続ける醜悪な姿を白日の下に晒そうってか」
「そう悪い風に取るなよ」
ダメか。まあいいや。俺は前を向いて上昇気流に乗った。そうと決まれば寄り道はやめて直帰だ。
「ナンバーツー、何を企んでる?」
「何にも。ちょっと休みたかっただけ」
「そんなに忙しいのか、かわいそうに。お互いボロボロで哀れなもんだ」
出たよ、一つも気持ちがこもってない返し。だいたいお前は哀れじゃないだろ。ヴィランとして悪名高い犯罪者だ。何人も焼き殺し、解放戦線の幹部として街を火の海にした、自分勝手で最低な――。
俺と同じ、人殺しだ。俺は男の手を握りしめた。手袋越しでは分からなかった、火傷でかさついた肌の熱さと金具のひやりとした冷たさにようやく慣れてきた。
この全身を覆う火傷が、この男が決して口にしない叫びだと俺は気づいている。それでも、それを肯定すればこの男の罪を身勝手に許すことになる気がして、俺は迷った末に言った。
「そんなに卑下するもんじゃないだろ。お前は綺麗だよ」
荼毘が何か眩しそうな目をして、それから体を寄せてきた。空中で近寄ってくるのは体当たりに等しいが、自分勝手なヴィランは気にも留めていない。バランスを崩しかけてなんとか持ちこたえれば、荼毘はやっぱり気づかなかったようで山のふもとを見つめていた。
「なァ、いつ昇る?」
一瞬、何のことかわからなかった。遅れて荼毘の視線を追い、どうやら俺の提案を聞き入れてくれるらしいと判断する。
「七時五分らしいよ。あと数分もすれば」
「見てえな」
荼毘の蒼い目が夜景を反射してきらきらと光った。ぽつりとこぼれた言葉に返事をする代わりに、俺は笑顔を見せて強く手を握り返した。
「傍まで行こう」
山の合間から覗く空のふちが黄金に輝いている。俺たちは手をつないだまま競い合うように加速し、群訝山荘とは逆の方向へ飛び始めた。