■調査期間
■時 間 帯
■場所
■調査方法
2023年7月20日(木)~8月27日(日)
14時から日没までの間の任意の時間
奈良県下および隣接する地区
ツバメが移動すると思われる時間帯に奈良県内各地でツバメの行動を観察し、観察日時・場所・数・飛翔方向を記録する。
調査結果の集計には3次メッシュを使用しました。
ツバメが飛んで行った方角を東、南東、南、南西、西、北西、北、北東の8種類に分類し、下記の方法で集計しました。
① 同一メッシュ内の同一日について方角別に羽数を合計
② 方角別に合計羽数が最大になる日の値を採用
観察時間別の結果は、14時台~16時台、17時台、18時台、19時台
の時間帯ごとに、上記と同じ方法で集計しました。
なお、以下のデータは集計の対象外として扱いました。
・対象期間および対象時間以外のデータ
・平城宮跡と同一メッシュ内の観察地点のデータ
また、一度に30羽以上のツバメが同じ場所で旋回または止まっていた場合は、集合場所として扱いました。
2023年は平城宮跡での継続的な観察を行っていないので詳細は不明ですが、調査期間の頃には例年通り多数のツバメがねぐら入りしていました。
延べ62人から41地点の情報が集まりました。
図 1に2022年と2023年の結果を示しました。観察地点を赤の点または黒丸でプロットし、ツバメが飛んだ方向を黒の矢印で示しました。矢印の大きさで観察されたツバメの数を表しています。2023年に新規に追加された地点は水色の丸で囲んでいます。赤の矢印はツバメの主な移動経路です。線の太さはツバメの数を表しており、太い線の場所は多くのツバメが移動しました。また、黒丸の地点ではツバメが集合する様子が観察されました。
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図 1 14時~日没の間のツバメの飛翔方向(2022年7月20日~8月28日及び2023年7月20日~8月27日)
2023年は、新たに平城宮跡より北側の木津川周辺、南側の大和川周辺でも観察を行いました。
その結果、2022年の観察結果よりさらに北側からも平城宮跡方面に向かうツバメが観察されました。2022年の観察結果から南側は10㎞以内の範囲のツバメが平城宮跡に向かっていると推測されましたが、大和川周辺の王寺町、田原本町などでも平城宮跡方面に向かうツバメが観察されたことより、さらに遠方、少なくとも15㎞以内の範囲のツバメは平城宮跡に向かっているのではないかと考えられます。
天理市との境界に近い奈良市高樋町では、2023年も多くのツバメが集合しているという情報をいただきました。高樋町の南側の白川ダム上り口付近でもツバメが集まっていたとのことで、その周辺の山沿いの地域にはツバメが集まりやすい環境があるのかもしれません。2022年の観察では、高樋町のツバメは日の入りが近くなると平城宮跡とは反対方向の大和高原に向かって移動しましたが、地図で確認する限りでは移動方向にはねぐらとなりそうな環境は見つかっておらず、どこでねぐらをとっているかは不明です。一方で、奈良公園付近から新大宮を経由して平城宮跡に向かうツバメは、奈良公園まではどこを通ってきているのかが明らかになっていません。奈良盆地西側の矢田丘陵ではツバメが上空を北上していく様子が観察されていますが、大和高原でも同様のことが起こっていないか、引き続き観察していきます。
また、いくつかの調査地点で、ツバメが移動して行く際に緑地を経由しているように見えました。調査地点によってはツバメが観察できなかった箇所もありますが、ツバメが通過する箇所とそうでない箇所では環境の違いがあるのかもしれません。
2022年からの課題についての観察結果は下記の通りです。
斑鳩より南の大和川周辺のツバメの動向
平群町の南側に位置する王寺町と斑鳩町と河合町との境界付近の2か所で、大和川を越えて南から北に向かうツバメを確認しました。2022年には、平群と斑鳩で平城宮跡方面に向かっているツバメを観察しているので、2022年と2023年の結果から、大和川より南側の王寺町、河合町のツバメも平群町、斑鳩町を経て平城宮跡のねぐらに向かっていると思われます。
田原本周辺のツバメの動向
田原本町内で平城宮跡方面に向かって移動するツバメを確認しました。
観察地点から約4㎞南側の桜井市大福には集団ねぐらが形成されることがありますが、2023年は大福ねぐらが草刈りによって消滅しました。そのため、大福にねぐらが形成された場合は、また違う結果となる可能性が考えられます。
木津周辺のツバメの動向
木津川より南側の新規の観察地点では、平城宮跡方面に向かうツバメを観察できましたが、木津川(木津川橋~精華町菅井)周辺ではツバメの姿はあるものの数十羽ほどの規模で、日没後もその近辺から移動する様子は見られませんでした。引き続き、鹿背山から加茂にかけての周辺での観察を実施します。
時間帯別の結果を図 2に示します。観察地点が灰色になっているところは、該当する時間帯での観察結果がないことを表しています。
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図 2 時間帯ごとのツバメの飛翔方向の変化
時間別の集計では、平城宮跡から5㎞~15㎞県内で、17時台よりも18時台の方が通過するツバメの数が多くなっており、18時台の方が平城宮跡方向への移動が増える様子がわかります(図内①)。また、平城宮跡から5㎞圏内では、19時台になるとまとまった数で平城宮跡に移動する様子が見られるようになります(図内②)。これらのことから、各地のツバメは18時台に平城宮跡方面に向かっての移動を始め、19時頃には5㎞圏内に到達してまとまった数となり平城宮跡のねぐらを目指すのではないかと推測されます。
ただし、調査期間中の日没時間は、2023年では調査開始日の7月20日は19時8分、最終日の8月27日では18時31分と約40分の差があり、8月後半になると移動時間が早まるため、前述の時間ごとの動きは観察時期によって若干の時間差が生じます。次回の調査では日没時間を基準としてまとめる必要があるかもしれません。
なお、藤ノ木台では日が経つにつれまとまった数で西向きに飛んでいくものも現れるという情報もいただきました(図内③)。2022年、2023年ともにこの現象が観察されているとのことなので、近辺に継続して利用されているねぐらがあるかもしれません。
表 1にツバメの集合が観察された場所とその状況、図 3に観察された地点を示します。
表 1 ツバメの集合状況
表 1の6地点のうち、継続してまとまった数のツバメが集合していることが分かっている地点は高樋町のみです。前述のとおり、高樋町に集まっているツバメは平城宮跡方面には向かっていかず、どこでねぐらをとっているのかは不明です。
木津川周辺の2地点では、日没後もツバメはその近辺から移動しなかったとのことなので、木津川周辺にも小規模なねぐらが存在するかもしれません。
桜井市の大福では調査期間の前半には集団ねぐらがあったことから、ねぐらが消失したあとも少数のツバメが集まっていると考えられます。
また、2023年の調査では、橿原市の別所池でも200羽の群れが確認されており、付近に新たな集団ねぐらができる可能性も考えられるため、こちらも引き続き観察をしたいと考えています。
図 4にねぐらの位置を示します。
7月後半までツバメが平城宮跡に集まってねぐら入りしなかった2021年は、平城宮跡周辺で小規模な集団ねぐらが形成されていたものの、2022年はそれらのねぐらはほとんど利用されていなかったことから、2023年は桜井市の大福と木津川市の五領池以外のねぐらについては観察対象としませんでした。
2022年の調査で大規模な集団ねぐらが確認された大福では、7月21日に多数のツバメがねぐら入りしているとの情報をいただきましたが、8月4日の観察時には草刈が実施された後で大規模な集団ねぐらはありませんでした。19時20分頃に30羽ほど集合していましたが、ねぐら入りしたかどうかは確認できませんでした。日没を過ぎていたことから、集合していたツバメが大福でねぐらを取らなかったとしても、近辺でねぐら入りしたと推測されます。
五領池では6月28日に50羽ほどのねぐら入りを観察しました。調査期間中のデータはありませんが、過去2年の観察状況より、7月以降に五領池に集まるツバメが大幅に増えることはないと考えられます。
以上の結果より、2023年は平城宮跡以外にはシーズンを通して利用された大規模なねぐらはなかったと考えます。
調査開始から5年目となる2024年は、まとめの年として以下の点に着目して調査します。
・大和川より南(大和高田市、橿原市周辺)のデータ収集
・木津川周辺(加茂、鹿背山)のデータ収集
・大和高原のツバメの移動状況についてのデータ収集
・橿原、桜井周辺のねぐら状況確認
・ツバメの移動が確認されなかった地点の再確認