■調査期間
■時 間 帯
■場所
■調査方法
2022年7月20日(水)~8月28日(日)
14時から日没までの間の任意の時間
奈良県下および隣接する地区
ツバメが移動すると思われる時間帯に奈良県内各地でツバメの行動を観察し、観察日時・場所・数・飛翔方向を記録する。
※ ツバメのねぐら入りが見られる期間に合わせて昨年より調査期間を延長しました。
※ 就塒前集合の時間を考慮して調査開始時間を昨年の17時から14時に前倒ししました。
調査結果の集計には3次メッシュを使用しました。
ツバメが飛んで行った方角を東、南東、南、南西、西、北西、北、北東の8種類に分類し、下記の方法で集計しました。
① 同一メッシュ内の同一日について方角別に羽数を合計
② 方角別に合計羽数が最大になる日の値を採用
観察時間別の結果は、14時台~16時台、17時台、18時台、19時台
の時間帯ごとに、上記と同じ方法で集計しました。
なお、以下のデータは集計の対象外として扱いました。
・対象期間および対象時間以外のデータ
・平城宮跡と同一メッシュ内の観察地点のデータ
また、一度に30羽以上のツバメが同じ場所で旋回または止まっていた場合は、集合場所として扱いました。
延べ92人から70地点の情報が集まりました。
収集した情報を地図に落とした結果が図 2です。観察地点を赤の点または黒丸でプロットし、ツバメが飛んだ方向を黒の矢印で示しました。矢印の大きさで観察されたツバメの数を表しています。黒丸の地点ではツバメが集合する様子が観察されました。
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図 2 17時~日没の間のツバメの飛翔方向(2022年7月20日~8月28日)
2021年同様、東または南方面から飛来するツバメが多く観察されましたが、平城宮跡東北東に位置する緑ヶ丘浄水場付近では、さらに北側からのツバメの飛来が確認され、木津川方面からも平城宮跡に向かっていることが推測されます。
2021年と比較して、2022年は木津川方面から平城宮跡に向かうツバメがより多く確認されました。
また、2021年の結果では南北方向は5㎞以内の範囲のツバメが平城宮跡に向かっていると推測されましたが、平群、斑鳩、天理方面での観察結果が得られたことにより、南側では10㎞以内(地図上の赤の点線で囲った範囲)の範囲のツバメが平城宮跡に向かっていると考えられます。
2021年からの課題についての観察結果は下記の通りです。
矢田丘陵以西のツバメの動向
矢田丘陵西側の平群では丘陵に向かっていく様子が確認できました。また、矢田丘陵東側では丘陵の上を南から北に向かって移動しているとの情報をいただきました。これらの結果より、矢田丘陵より西側からも丘陵を越えて平城宮跡のねぐらに向かっていると思われます。
大和高原以東のツバメの動向
若草山山頂で観察した結果、平城宮跡方面に飛ぶツバメを確認しましたが、その数は10数羽と多くはありませんでした。このことから大和高原を超えてくるツバメは多くはないと推測されます。
南および西から平城宮跡に飛来するツバメの移動経路
図 2の飛翔方向の図で、連続していると思われる黒矢印を結んだ結果を赤矢印で示しました。①~④の赤矢印は平城宮跡のねぐらに移動する際のツバメの通り道(以下ルート)ではないかと推測されます。
①③は2021年までの調査で確認されていたルートですが、2022年の結果からは、新たに②④のルートの存在が見えてきました。
①【既存】奈良公園・近鉄奈良駅周辺~新大宮~平城宮跡のルート。2022年はならまち(東城戸町)でも連日数百羽の移動が確認されました。また、観察時間は短いものの、法蓮中町、内侍原町でも数十羽の移動が確認されたことから、奈良公園・近鉄奈良駅周辺から平城宮跡に至るルートでは南北方向に幅広くツバメが飛んでいると思われます。
②【新規】天理~帯解~南京終を通るルート。北上して①に合流している可能性があります。
③【既存】大和郡山~西の京を通るルート。さらに南側の情報が不足しており大和郡山に至るルートについてはまだ不明です。
④【新規】平群~矢田丘陵~宝来を通るルート。法隆寺付近を通過したツバメもこの辺りを通っているのかもしれません。
情報が少ない奈良市と橿原市の間の区域(主に天理、田原本周辺)のデータ収集
天理については複数地点で観察することができ、ツバメが平城宮跡方面に移動していることを確認できました。田原本からも情報をいただきましたが、天理の観察地点とは5㎞以上離れた場所の情報のみであったので、その間の観察を引き続き実施したいと考えています。
時間帯別の結果を図 3に示します。観察地点が灰色になっているところは、該当する時間帯での観察結果がないことを表しています。
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図 3 時間帯ごとのツバメの飛翔方向の変化
2021年の観察では、17時台までの観察結果が少なかったため、2022年は平群、斑鳩、天理方面で17時台から観察を行いました。いずれの観察地でも、17時台には平城宮跡方面に移動している様子は見られず、明らかにねぐらに向かって飛んでいると思われる様子が確認できたのは18時台になってからでした。平城宮跡から10㎞ぐらいの地点では18時台になってから移動が本格化すると思われます。
16時台以前にはいくつかの地点でツバメが集合している様子が観察されました。
なお、今回の調査期間は40日間と長期にわたったため、調査初日の7月20日と比較すると、最終日の8月28日では日の入り時間が30分ほど早くなっており、調査終盤には19時台の観察はできませんでした。そのため、単純に時間帯別での比較ではなく、日の入り時間を考慮した検討が必要であると考えています。
表 1にツバメの集合が観察された場所とその状況、図 4に観察された地点を示します。
表 1 ツバメの集合状況
表 1の6地点のうち、④高樋町では2021年もツバメが集合している様子が観察されています。その他の地点については、2021年の情報はありません。
高樋町では、7月31日に14時台からツバメがねぐらに移動するまでの様子を観察しました。14時台にはすでに多くのツバメが集まっており、水路で餌をとったり、電線で休んだりする様子が確認できました。その後、18時台になると集合していたツバメは平城宮跡とは逆方向の山に向かって飛去しました。同地点では、7月25日15時台に400羽、8月2日15時台にも300羽が集合しているという情報をいただいていますが、日中の早い時間から集まっていることから、就塒前集合ではなく餌場として利用されているのではないかと感じました。
他の地点については、②ウワナベ古墳南西角、③東城戸町は明らかに平城宮跡に向かう群れと思われますが、①不動川砂防歴史公園、⑤佐々羅、⑥下市周辺国道309号沿いについては平城宮跡との関連は不明です。
表 2に各ねぐらのツバメの数、図 5にねぐらの位置を示します。
表 2 調査期間中の各ねぐらのツバメの数
奈良北部では平城宮跡の結果に影響するような大きなねぐらはありませんでしたが、桜井市大福に1万羽規模のねぐらが形成されました。大福ねぐらは、平城宮跡に移動するツバメの結果に充分影響を与え得る規模でしたが、残念ながら周辺のデータが少なく、どの範囲のツバメが大福ねぐらを利用していたのかは不明です。大福ねぐらの観察結果によると、平城宮跡と同様に東や南からの飛来が多いとのことでした。
なお、今回の調査の観察ポイントとなった天理の二階堂、前栽付近は平城宮跡と大福のほぼ中間点となりますが(図 2の「10km」と「天理」の間にある2地点)、それらの地点でも南から北に移動するツバメが観察されました。二階堂、前栽より南の場所によっては、大福の方が近いにもかかわらず平城宮跡に向かっている可能性が考えらえます。
2022年は、橿原市の新堂のねぐら候補地が草刈りのために消滅しました。2021年はねぐら入りシーズン中に大福ねぐらで草刈りが行われツバメが激減しました。橿原、桜井周辺のねぐらは草刈りの影響を受けやすく流動的であるため、周辺のツバメの動向は年によって異なると思われます。
2023年も引き続き調査を継続いたします。今回の結果を踏まえて、下記の点についてさらに調査を進めたいと考えています。
・斑鳩より南の大和川近辺のデータ収集
・平城宮跡と大福の中間地点より南(主に田原本周辺)のデータ収集
・平城宮跡より北側に位置する木津川周辺のツバメのデータ収集